第26話「勝利の先──」
わーわーわー!
ばんざーい! ばんざーい!!
街は冷めやらぬ興奮に包まれていた。
朝焼けを覆い隠すほどの炎と黒煙が吹き上がり、代官の所有していた建物や、領主軍ので兵舎が焼かれているのだろう。
時折聞こえる悲鳴は領主軍か、それとも便乗した群衆の悪さかはわからない。
ただその喧騒の中にすでにアルガスはいない。
当初は熱狂する群衆に囲まれていたアルガスであったが、領主が連行されていくのと同時に群衆はその最後を見届けようと城門を後にした。
その隙に重戦車化を解いたアルガスは、
「帰るぞ、ミィナ」
「う、うん!」
ティーガーⅠから元の重戦士に戻ったアルガスは両の手にミィナを抱え、お姫様抱っこのままゆっくりと宿に向かっていく。
「大丈夫か? 色々大変だっただろう?」
「ううん!! アルガスさんがいてくれたから平気だお!」
ニコリと健気に笑うミィナ。
盗賊ギルドどもの誘拐から始まり、暗殺者との戦闘。
そして、代官の野郎に暴行を受けそうになっていたのだ。とても大丈夫なはずもない。
だけど、ミィナは笑う。
小さな体、
小さな口、
小さな笑顔を浮かべて──。
「……いいんだ。子供が無理をするな────泣きたいときは泣いていい」
「う、うん」
ミィナはギュッとアルガスの
「ううううう……!」
ボロボロと泣き出すミィナ。
本当は怖かったろう、つらかったろう────。
だけど、気丈にもアルガスと一緒に戦ってくれた。
「泣かないよ──……。だって、だって──」
「あぁ、そうだな」
もう泣いとるがな。
ポンポン。
「いい。いいから、好きなだけ泣け────誰も叱りはしない」
汗と埃とティーガーⅠの機械油でゴワゴワになったミィナの髪をなでる。
その感触がふとリズのそれを思い起こさせ、アルガスの胸がキリキリと痛む。
小さなころから守ってきた大切な存在。
親友の忘れ形見にして────……最後の家族。
(……リズ────どこにいる? お前は無事なんだよな?)
リズ…………。
この朝焼けの空の下。
あの荒野の先にリズがいる────。
くそったれのジェイス達と一緒に……。
「待ってろリズ」
黒煙にたなびく朝焼けを透かし見て、アルガスは拳を突き出した。
「必ず迎えに行く────だから、待っててくれ」
何をおいても、
何を犠牲にしても、
何を失うとしても、
「リズ────俺行くまで無事でいてくれ……」
アルガスは荒野に向かって誓う。
どこにいたとしても、必ずリズを迎えに行くと────……。
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