第14話「刺客来襲ッ!!」
「ふーーー…………いい湯だ」
ギルドから出たアルガス達は、その足で町の中で居心地のいい宿屋に泊まっていた。
お値段はお手頃価格。
古びてはいるが、落ち着いた佇まいの老舗宿といったところだ。
もっとグレードの高い所もあるにはあるのだが、アルガスの庶民染みた感覚ではこういった───風呂と小さな部屋と、酒場兼食堂付きの宿くらいでいい。
なんというか、落ち着くのだ。
ほら、なんかボーイがいたり、白い服を着たシェフがいるような宿だと、かえって休める気がしないのですよ。
根が庶民なのです。はい。
そういえば……。
───バシャリと湯を顔に当てつつ思う。
「……それにしても、【重戦車】か───とんでもないな……」
街をあげて阻止しようとしていた軍団を、一撃の元に殲滅した天職……。
自分で感じただけでも、まさに最強だと思う。
───ただ、実感がない。
無我夢中で戦い、気付けば
「───ギルドの連中に、詳しく聞かれなくてよかったかもしれんな」
あの圧倒的な力だ。
きっと快く思わない連中もいるだろうし、あるいは上手く取り入ろうとする連中も出てきそうだ。
ちなみに、詳細が聞かれなかったのは、ギルドがテンパっていたからだ。
なんせ、いきなり軍団全部のドロップ品が持ち込まれたのだ。
当然、地方の一ギルトでどうにかできる数ではない。
結局、ギルドの資金不足を理由にドロップ品の換金は断られてしまった。
少々納得がいかないものの、その代わりに「
ジェイス達も、腐っても勇者の称号をもったSランクのパーティだ。
無名のパーティとは違い、とてつもなく目立つはず。
だから、探すのはそこまで困難ではないだろう。
きっと、体勢を立て直すためにどこかの街のギルドに顔を出すに決まっている。
ギルドは基本は個人経営でありながら、横の繋がりを強固に持つ特殊な商売の集合体だ。
その情報網に引っ掛かれば、すぐに居場所を特定できるだろう。
惜しむべくは、それまでジェイスにリズを預けなければならないこと。
それが無念でならない。
本当なら、すぐに荒野に駆けだしてアイツらを捜索したいが、闇雲に探しても見つかるとは思えない。
それくらいなら、どっしりと構えて行方を追う方がいい。
心配は心配だ。だが、荒野の奥地であっても、リズがいれば何とか脱出できるはずだ。
その程度の知識は、あの子に叩きこんだという自負がある。
けどな、
「───落とし前はつけてやるぞ、」
そうとも───俺とミィナを囮にし、卑怯にも逃げやがったクソ野郎ども!
「──────ジェぇぇえイスッッ!!」
バシャァァアン!!
湯に拳を叩きつけ、決意を新たにするアルガス。
※ ※
「ふぃー……いい湯だった。ミィナはもう上がったか───?」
宿の部屋に戻ると、ミィナの気配がない。
まだ風呂にいるのかと思ったが、ベッド脇に濡れたタオルが干してある。
ということは、一度部屋に戻っているのだろう。
「?? 酒──────なわけないしな」
オッサンの考えなら、風呂上りに一杯! ってやるところだが、女の子がそんなことをするはずもなし。
ずっと、奴隷小屋にいたらしいミィナが土地勘があるとも思えないので、一人でフラフラ出ていくとも考え辛い。
「……飯は、さっき滅茶苦茶食べたしな?」
風呂の前に、食堂で川魚の油浸しと、野菜の千切り、イノシシ肉のステーキに、大きなパン、そして羊ソーセージのコッテリシチューを食べたはず。
二人して腹がパンパンになるまで食べたから、またお腹が空いて食堂に行ったとも考え難い。
そもそも、勝手にどこかに行くような子でもないだろうし……。
部屋に併設されている、便桶を置いた狭い部屋(便所)にも人気はない。
おかしい──────。
「ミィ」
ヒュン!!!──────スカァン!
名前を呼ぼうとして瞬間、耳元を鋭い擦過音が駆け抜けていった。
く!?
反射的に床に伏せると、窓から身を隠した。
スカァアン! と、柱に突き立つ鋭い矢──────いや、これはボウガン用のボルト弾だ!
「ちぃ!」
暗殺者か!?
アルガスは身を隠したまま、素早く防具を身に纏う。
途中で買い揃えた新品の重装備だが、着こむのに時間がかかるのでチェインメイルと兜、そして、タワーシールドだけを装備すると、剣を腰に下げて部屋を飛び出した。
扉を開けた途端に、そこに待ち構えていた、追撃の刺客が襲い掛かる!
「ぐ───!!」
狭い場所での戦いを想定した短剣使いども。
黒い装束を身に纏い顔を隠している。
「このぉぉおッ!」
態勢の整っていないアルガスに、畳み掛けるつもりなのだ。
無言の刺客による、鋭い突きが廊下の左右から繰り出される。
しかも、身長さを活用した
だが、
「舐めるなぁぁあ!」──ズガァァァアン!
右側の暗殺者には扉を思いっきり叩きつけ、シールドバッシュの要領で吹っ飛ばす。
そして、左側の暗殺者には本家本元のタワーシールドによるシールドバッシュだ!
ドガァァアアン!!
「ぐああ!」「ごほぅ!」
まとめて叩き伏せられた暗殺者が、ふっとび、何人かはヨロヨロと逃げ出す。
奴らは軽装だ。
それが故に、アルガスの一撃は内臓に響いたことだろう。
「逃がすか、この野郎!」
手近にいた連中の足を踏み砕き、まだ襲い掛かってくる連中を剣で貫いた。
ノロマと言われても、並みの冒険者よりも遥かに強いのがアルガスだ!
そのうち、宿の泊り客や主人が気付き俄かに周囲が騒がしくなる。
それに慌てたのか、無事だった連中が煙幕を投げつけ撤退に移り始めた。
「───っ!」
簡単に逃がすと思うなよ!!
状況から見て、ミィナはこいつ等に誘拐された可能性が高い!
最低でも、生け捕りにしないと───!!
「待てッ!!」
しかし、かなしいかな───。
アルガスの足は並み程度……!
軽装主体の暗殺者に追いつけるはずもなし。
あっという間に、闇の中に連中は消えてしまった。
「くそ!」
毒づくも、こうなっては仕方がない。
廊下で叩き伏せた連中が何人かいたはずだ。
「きゃーーーーーーー!!」
鋭い悲鳴に気付きアルガスが宿の駆け戻ると、そこには事切れた暗殺者の死体が山となっていた。
「ち…………自害しやがったのか」
どうやら、口を割るのを恐れて、自殺用の毒物を持ち込んでいたようだ。
実に徹底してやがる。
せめて正体でも───と、黒装束を剥ぐと、存外若い顔が出てきた。
全員頭部は反り上げられているが、皆顔や体のどこかに
つまりコイツ等は───。
「やはり、暗殺者ギルド…………!」
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