第15話「喧嘩を売った奴ら」

 多数のギルドがひしめく街の一画。

 そこの倉庫街に、蠢うごめく男達の姿があった。


「いひひひ……嬢ちゃん、覚悟しなぁ!」


 厭らしい笑みを浮かべた小男が、ミィナの目の前でナイフをプラプラと揺らして脅している。


「ひぃぃ!」


 お風呂に入ったあと、宿でのんびりしていたところを訳も分からぬまま誘拐されたミィナ。


 彼女は、その幼い体を縄で拘束され、小さな檻に閉じ込められていた。

 周囲には黒装束の男達や、小汚い恰好の男女が多数いてミィナを見下ろしている。


「───おいおい、本当にこの小汚いガキが、金貨10000枚も持ってるのか?」

「まったくだ……。どう見ても、銅貨すら持ってなさそうだぞ」


 幾人かの男達は首を傾げている。


 大枚叩いて雇われたものの、拍子抜けするほどあっけない任務だった。


「いや、俺は昼間見たぜ。こいつと、こいつの飼い主が魔石をばら蒔いてるところをな」

「ああ、それなら俺も見たぜ! ほらよ」


 日中、門前で菓子を売るというシノギ・・・をしている柄の悪い露店商が、自慢気に魔石を見せる。


 なるほど……本物だ。


「す、すげぇ」

「でけぇ……!」


「だろ? こんなのを、このガキ───いっぱい溜め込んでやがるぜ。うひひ」


 それを聞いた全員が、ベロリと舌舐めずりしてミィナを見下ろす。


「で、でもよう。さすがに金貨10000枚は、ねーんじゃないか?」


 ただし、中には疑い深い奴もいるが──。


「いーや、本当だ。……それどころかそのガキの異次元収納袋アイテムボックスには魔石や魔物のドロップ品がまだまだ唸るほどあるぜ」


 男たちの背後にあらわれた雇い主の言葉に、ひゅう♪ と口笛を吹く男達。

 誰しも景気のいい話には心が躍るようだ。


「じゃあ、早速さばいてみるか?」

「ばーか。殺しちまったら異次元収納袋アイテムボックスから取り出せないっつーの」


 じゃあどうすんだよ? と、男達がやいのやいのと騒がしい。


「おら、ガキ!! さっさと出せッ! 出さないとブスっといっちまうぞー」

「いやぁぁあ!」


 ナイフや短刀ドスといった得物を、これ見よがしにチラつかせる男たち。

 その物騒な男達の気配に当てられミィナが、ガクガクと震えている。


「ひゃはははは。ビビらせ過ぎなんだよ! 見ろ、ちびってやがるぜ」

「ぐひゃはははは! こりゃいい! もっとビビらせてやるぜ!」


 うひゃははははは、と下品な男達が怯えるミィナをさらに脅していく。


 もはや、アイテムを取り出すよりもその怯える様を楽しんでいるようだ。


 一方で小汚ない男達とは違い、黒装束の男達は比較的無口だった。


 小汚ない男達───盗賊シーフ斥候スカウトなどで構成される盗賊ギルドとは違い、黒装束・・・の彼らは生粋の暗殺者アサシンだ。


 専門職だけで構成された暗殺ギルドは、仕事にしか興味がない。


 そして、彼らは仲間内でコソコソと話していた。


「(男を始末に行った連中が返り討ちにあった)」

「(勇者パーティにいたというのは、伊達じゃなさそうだ)」

「(頭領かしらから追撃の指示があったので、上級暗殺者ハイアサシンを差し向けたらしいが……)」


 ボソボソと物騒極まりない話をしているが、どうやらアルガスに返り討ちにあった連中が報告に来たのだろう。


 そして、さらに戦力を増強してアルガスの襲撃に向かったらしいと───。


「おい! 暗殺者ども! 話が違うぞ───アルガスの野郎はどうした! 奴の首はどこにあるってんだ!?」


 薄暗い場所でヒソヒソと話す暗殺者どもが気にくわないのか、雇い主の男はランプを手にズンズンと歩くと、手近にいた暗殺者の胸倉をつかんだ。


 まるで、子供のように重さを感じさせない暗殺者。


 筋骨隆々の雇い主に掴みあげられた暗殺者は苦し気に唸るが、

「───落ち着け……。既に追撃は送った」


 しわがれた声が背後から響き、慌てて振り向いた雇い主は思わずランプを取り落とす。


 ガシャン! と割れたそこから漏れた油が一気に燃え、薄暗かった倉庫の中を明々と照らしだした。


 そこに、雇い主ことあの筋骨隆々の冒険者ギルドのマスターの姿が、明々と照らし出される。


「───ほ、本当か? 聞けば返り討ちにあったそうじゃないか」

「ふん……。はした金しか寄越さんでよく言う……。空証文だったら貴様の首を貰うぞ」


 ギルドマスターは昼間の意趣返しのため、大金をはたいて裏稼業の者を雇っていた。


 もちろん、空証文で……。


 なんせギルドマスターの金はミィナが持っているのだ。

 それを当てにしているのは火を見るより明らかだった。


「う……。か、金なら払うさ。だからさっさとアルガスの首を取ってこい」

「慌てるな───ノロマな重戦士の首くらいすぐに挙げてくれるわ……。我がギルド最高の使い手を送ったからな」


 ニィ……と、黒装束の影の中で薄く笑うのは、暗殺者ギルドの頭領ボス


 その顔をみて、ゾゾゾと背筋の凍る思いのギルドマスターだったが、同時に頼もしさを覚えていた。


「さ、最高の使い手──────そりゃ期待できる、」


 そして、追笑するように汚い笑みを浮かべた時───。

 





 ズッドォォォォォオオオオオン!!!






 突如、倉庫の一画が吹っ飛んだ!!

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