第13話「討伐証明はありまーーーーーーす!」
───じゃ、金貨10000枚貰おうか?
アルガスの当然の要求にギルドマスターを始め、セリーナ嬢も硬直している。
「………………え? あ、お? え?」
ズシン、ズシン。
堂々と金庫に向かうアルガスを見て、ポケーと間抜け面。
「え? ちょ───?」
語彙力が失せ、動きの可笑しくなったギルドマスター。
そして、ダラダラと汗を流すセリーナ嬢。
「いやぁ、その───さっきのは言葉の綾というか、その……」
「はぁ?───いや、知らんけど、貰っていくぞ。……あ、ちゃんとオーガキングの体はドロップアイテムとして、素材でも換金してくれよ、
ギルドの報酬には討伐報酬のほか、討伐対象の部位を別に売ることができる。
例えば、ゴブリンであれば耳等を討伐証明とし、他の部位を売ることができるようになっているのだ。
「ちょ、ちょちょ、ちょちょちょちょ!! ちょっと待て!! おかしいだろうが!!」
突然態度を変化させたギルドマスターが、セリーナ嬢と共にバタバタとテーブルの上の金庫の前に立ち塞がる。
「なんだよ? 軍団を倒したんだぜ? 元々払う報酬が俺の物になるってだけだろ? 誰の損にもならないし、むしろ貴重な人命が失われずに済む。俺よし、ギルドよし、尊い人命よし──三方よし、でいいじゃねぇか?」
「ば、ばばばばばば、バカを言うな! お、おおおおおおお、お前如きにオーガキングが倒せるわけがないだろうが!」
「そ、そうよ!! お、大方、似たような亜種を仕留めて騙すつもりなんでしょう!」
いや、知らんがな。
ギルドには鑑定士もいるんだし、勝手に調べろや。
「そ、そうだ、そうだ! だいたい、将軍級を倒しても、軍団はまだここに向かっているかもしれんのだぞ! 帰還した冒険者に聞けば、
「そ、そそそ、そうよ! この金庫のお金だって、死人に口なしで───報酬後払いを見越しといたのよ! そうすりゃ、死んだ連中には払わなくていいから、パパのポケットマネーで用意したのよッ! 本来なら10000枚もかからないんだからッ!!」
「バカ、余計なこと言うな!!」
シーーーーーーーーーーーーン。
ほーーーーーー……そういう魂胆か。
なるほど、なるほどー。
軍団への対策のために、死地にド素人を送り出しておいて、あとから金を渋るつもりだったのね。
そりゃ、死んだ人間に金は必要ないわな。
あとは、適当に契約段階で遺族には払われない──とかシレっと、書き添えるつもりなんだろうさ。
で、それを俺がぶち壊したってわけだ。
スゲー、どーでもいい。
「───はッ……つまり、
「そ、そうだ! 見せてみるがいい────見せられるものならな、グハハハハハハ──────ぐはぁ?!」
はい、ミィナちゃん───GO!
「よいしょ」
可愛い掛け声とともに、ミィナが
ドロップ品まで出すとあれなので、討伐部位だけ。
それでも相当な量だ。
なんたって、千体の軍団全てだからな。
ミィナがどうやっているのか知らないが、
バカ笑いと、高笑いをしていたギルドマスターとそのバカ娘が、段々声が小さくなっていく───。
そして、あんぐりと開けた口が段々閉まらなくなってきた。
パッカーと、間抜けっぷりを盛大に発揮。
「ひぃ、ふぅ、みぃ──────あー、君らで数えてくれよ」
自分で数えるのもバカバカしくなってきたアルガスは、ギルド職員に丸投げする。
っていうか、それが本来のギルドの仕事だからね。
茫然としたギルド職員も、慌てて床やテーブルに並べられた討伐部位を確認していく。
「うお?! ハイオークの牙?!」
「げ……! サラマンダーの尻尾?!」
「うそ……グレーターゴブリンの耳?!」
「ま、まさか──オーガナイトの角ぉ?!」
「げげげげ……これって、コカトリスの嘴じゃぁ……?!」
まーあるわあるわ。
荒野中の魔物が集まってたんじゃないかって、規模だったしね。
それも、どいつもこいつもかなりの高ランクの魔物ばっかり。
それ一体でも、金貨換算の魔物ばかりだ。
討伐ごとに報酬が出るというのだから、それと相殺してもおつりがくる。
ちなみに討伐報酬だからね?
君ら知らないだろうけど、ドロップ品はまた別にあるのよ?
「ま、マスター……その、ま、間違いありません───
ワナワナと震える職員たち。
そこらへんにいる、ゴブリンやコボルトといった雑魚とはわけが違う。
荒野の奥地にいる、狂暴な魔物の討伐なのだ……。
あの勇者ジェイスですら、尻尾をまいて逃げ出す程の──────。
「ば、ばばば、バカなぁぁぁあああ!! そ、そんなバカな、こ、これじゃ、うちは───」
「破産よぉぉぉおぉおおおおおお!!」
ノーーーーーー!! と頭を抱えるバカ親子マスターども。
ええから、はよ金払わんかい。
「す、すみません。アルガス様───ま、間違いなく討伐されたことを確認しました……。えっと、『
「馬鹿言うな。──────『
ケ……。
苦々しく吐き捨てるアルガス。
事情は分からないものの、ギルド職員は複雑そうな裏があるとみて、とくに深く聞くこともなく、討伐完了にサインしてくれた。
ギルドマスターは未だ天井を見上げて放心している。
「すみませんね……。その───報酬を前借したのはギルドマスター個人名でやっていたもので……。彼、多分破産しますよ」
あー。何となくお察し。
どうせ売名のために、自分名義で金を出して「ギルドマスター」の手柄にしたかったんだろう。
全国組織のギルドなら、こんな無茶苦茶な報酬で冒険者を雇うなどと思わないしな。
多分、ジェイスが失敗したことを悟って、その失態を糊塗する目的もあったのだろう。
元々、国や軍隊が対処すべきクエストを私物化した弊害って奴だ。
「自業自得さ───」
アルガスはそう言って、金庫のカギを受け取ると、ミィナに頼んで金貨10000枚入りのそれを回収した。
で、
「将軍級を倒した報酬の、大白金貨1枚はどうするんだ?」
そうとも、金貨10000枚は軍団討伐の報酬として、将軍級の単独討伐の報酬ももらわないとな。
「あー………………。その、多分難しいかと思います」
「あ゛?!」
聞き捨てならない言葉を聞いて、アルガスが目を剥く。
払うと、ちゃんと依頼書にも書いてある。
「そ、その……マスター個人の事業ですので……。あの人、大白金貨の分は空証文を切っているんです」
つまり……。
「ここには、お金はありません───。そして、今日にでもマスターは破産するでしょうから、お金は取れないかと……」
は?!
「ふざけてるのか?!」
ギルド職員の胸倉をつかんで脅すも、聞いた感じだと彼らが悪いわけではない。
全ては…………、
「あはーん。ねぇねぇ、アルガスさぁ~ん」
誰だこの気持ち悪い声は──────って、セリーナ嬢か。
くねくねと体を捩りながら、アルガスににじり寄る。
豊満な体を見せつけるようにしているので、ミィナがムっとしている。
「ね、ねぇねぇ。今晩お暇? ちょっと私とお話し───」
「───年増に興味ないんで、」
「んだと、ゴラぁ!!」
ほーら、すぐ本性でた。
俺に対する今までの態度で、今更色仕掛けが通じると思ってんのか? バーカ。
「はぁ……大白金貨の分はいい。
「あ、ありがとうございます」
ギルド職員が平謝りしている。
一方で諸悪の根源のギルドマスターは口から魂を出しつつ、白く燃え尽きていた。
「利子分というわけではないが、代わりに頼みがある」
「は、はぁ。私どもできる事なら───」
ポンと、ミィナの頭に手を置くと。
「この子を引き取る。奴隷契約を即刻破棄してくれ」
「え?」
ミィナがビックリしてアルガスを見上げてきた。
「いっただろ。討伐できたのは重戦車とポーター───ミィナ、君のお陰だと」
ぶんぶんぶん!!
と全力で首を振ってミィナが否定する。
自分は何もしていないというのだろう。
たしかに、直接的にミィナが何かをしたわけではないが、彼女の
アルガス一人なら、荒野を帰るだけで精一杯。
討伐部位など、ほとんどを遺棄していただろう。
実際、ミィナのポーターとしての能力は現状で世界一だ。
これほど頼りになる相棒はいない───リズを除いてな。
「わかりました。すぐに手続きします」
「頼む───あ、そうだ」
「まだ何か?」
ギルド職員は不思議そうに振り返るも、
「ドロップ品を換金してくれよ」
ズラリと並んだ、千体の魔物とオーガキング───。
アルガスの言葉に、ギルド中が悲鳴をあげたとかあげなかったとか……。
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