第12話「ギルドに報告しまーーーーーーす」

 街の公衆便所にて───。


「ふぃぃ……ヤバかった」

「う、うん…………泣いちゃうとこだった」


 うん。

 っていうか、君……もう泣いてるよね?


 目を真っ赤に腫らしたミィナが、恥ずかしそうに俯く。


 あの後、予想通り飲み食いの過ぎた二人は尿意とか便意に襲われ、脂汗をダラダラとかきつつ入門の行列に並んでいたのだ。


 ぶっちゃけ、危機一髪だった。

 尻と前から、ポーンと!

 そりゃもう、スポポーンといくとこでした。


 ダラダラと汗を流し、妙な動きをしている二人に、街の悪徳衛兵どもが一時騒然としたが、事情を察したことと、たまたまアルガスの顔を知っている当番兵がいたおかげでスムーズに街に入ることが許された。


 結構な額になりそうな魔石を、賄賂として渡したのも大きいだろう。


 でなければ、ニヤニヤと笑う衛兵の隊長は、ミィナが漏らすところを見たくてしょうがないという感じだった。


 比較的親切な当番兵に礼を言いつつも、脱兎のごとくトイレに掛けこむ二人は、衛兵たちに背後でゲラゲラ笑われていたとかなんとか……。


 くそ、覚えとけよ───!


「あー……食べ過ぎは良くないな」

「ですぅ」


 バツの悪いアルガスと、顔を真っ赤にしたミィナはトボトボと歩いている。

 疲れ切っていたはずのミィナも食べるものを食べて、出すものを出せば幾分元気になったらしく、今は自分の足で歩いている。


「疲れてるか? 早目に宿に行きたいところだけど、」

「だ、大丈夫です! わ、私、ポーターだもん!」


 ムキっと、全然ない力こぶを見せるが…………まぁ、可愛いから良しとしよう。


「すまんな。金がないとどうにもならん」

「う、うん……ギルド?」


 ミィナはギルドの単語にビクビクとする。

 どうやら、彼女はギルド併設の奴隷市場で売買されていたらしい。


 ギルドのポーター売買は、必要なこととはいえ……あまりいい感じはしないものだ。


「大丈夫だ。俺がいるだろ」

「う……うん!!」


 慣れない笑顔でミィナを安心させると、街を突っ切ってギルドに向かう。

 ベームスの街は、長期間というほどの滞在でもないが、何度か通い慣れた道だ。


 それなりの頻度で、ギルドにも出入りしていたので多少は馴染みがある。


 しかし、なんだ?

 随分と人が多いな───。


(……祭りか、何かか?)


 ギルド前には大勢の人が集まり、ガラの悪そうな衛兵らしき連中も集まっている。

 ギルドのある広場の一角では、誰かがお立ち台の上にのぼりダミ声でがなり立てていた。


「集まれ、集まれぇ!! 緊急クエストだぞ! 冒険者は全員あつまれ!」

「新人、未加入者も歓迎するぞ! 誰でもいいから、剣が持てればそれで報酬を支払おう!」


「冒険者ギルドでは、臨時組合員証を発行しております! ご希望の方はこちらへ!」


 ざわざわ

 ざわざわ


「なんだ?」

「な、なんでしょうか?」


 街に戻ったばかりで、サッパリ状況のつかめないアルガス達。

 二人で顔を見合わせるも、首を傾げるばかりだ。


「よくわからんが、取りあえずは中だな──────安心しろ。もう奴隷小屋には戻らないようにする」

「う、うん……」


 人ごみをかき分けるようにして、ズンズンと進むアルガス。

 伊達にタンクをやっていないからな、これしきの人の圧力などどうということはない。


「いでぇ!?」

「お、押すなって!!」

「こ、この野郎───喧嘩売っ……げ、Sランク?!」


 アルガスの持つ、Sランクのタグに気付いた新人らしき冒険者が仰け反る。

 だが、それらをすべて無視すると、アルガスはズカズカとギルドの中に入ってしまった。


 途中で、募兵っぽいことをしているギルドの職員はアルガスに気付いて目を大きく剥いていたが……。なんなんだ?

 呼び止められた気もするが、今は疲れているんだ。

 さっさとドロップ品を換金して、宿で休みたい───。


 ギルド内に入ると、外とは異なり、中は意外と閑散としていた。

 幾人かの冒険者が駄弁だべっていたが、アルガスを見てギョッとした顔をしている。


 んん?

 さっきから、なんなんだ?


 つーか、中ガラガラじゃねーか。

 外の騒ぎはなんなんだ?

 邪魔くさいから、中でやりゃいいだろうに───まったく。


「ぷはッ」


 ミィナはアルガスにくっ付いていて、ようやく人の壁から抜け出し一息つく。


 だが、そこがギルド内であると気付いて「ひッ」と声をあげると、ヒシっとアルガスの足に縋りついた。


「大丈夫だから───ほら、いくぞ」


 ズンズンズン。と受付に向かうと、「光の戦士たちシャイニングガード」馴染みのギルド職員がいた。


 パッと見は、アンニュイな雰囲気の美女。


 だが、初見に騙されるなかれ、こいつは一癖も二癖もある年増女だ。


 なんせ、ジェイスには愛想が良く、アルガスにはゴミでも見る目を向けてくる嫌ーーーーな、女職員。


 これで美人でなかったら、顔面にパンチをお見舞いしてやりたいところ……。


 で、そいつと目があってしまう。

「あ?! ええええ!! あ、アンタ、アルガス・ハイデマン?!」


 他の窓口にしようかと思ったものの、件のギルド嬢に気付かれてしまった。

 さすがに、これで他の窓口に行くと露骨すぎるだろうな。


 「はぁ……」と小さくため息をつきつつ、アルガスは窓口に向かう。


「ちょ、ちょちょ、ちょっとアンタ……。ほ、本物? ご、ゴーストやゾンビじゃないでしょうね?」

「それがギルド員の言うことか? セリーナ嬢」


 セリーナ・エンデバー。


 ギルド・マスターの娘だか、なんだか知らんが一々高飛車で高慢ちき、やたらと権威を振りかざす、行き遅れのババアだ。


 ジェイスに気があるのか、やたらとハイテンションでジェイスに付きまとっていた。


 まぁ、そんなこんなで、いつもこの調子なので、裏では他の職員にも「お局様おつぼねさま」とか言われているらしい。


 うん、俺も嫌いだし、同感だ。

 

「ちょ……。アルガスのくせに冗談でしょ?───あ、そうか! ジェイス様も一緒なのね?」

「ジェイス?…………やっぱり、戻ってないんだな?」


 この様子だと、ジェイスの野郎は本気で別の街に逃げたのだろう。

 あの荒野を越えて──────。


「戻ってって───……。え、ノロマのアンタが一人で帰ってきたわけ?」


 人に向かってノロマとか、このクソアマ……。


 アルガスの怒気を感じたのか、ミィナが怯えている。

 仕方なく、怒気を押さえてアルガスは努めて事務的な口調で話す。


「クエスト完了だ。報酬を──────あと、ドロップ品の買い取りを頼む」

「はぁぁぁぁ?! 何言ってのアンタ。頭沸いてんの?」


 マジでぶん殴ってやろうか、このクソアマ。


「あ、あの、アルガスさん? 詳しくお聞きしていいですか?」


 セリーナ嬢の受け答えがあんまりだと感じたのか、別の職員が助け舟をだす。


「詳しくもなにも、そのまんまだ。街を出る前に受注したクエスト──『将軍級の討伐』を完了したから、報酬をくれって言ってるんだが……」


 バンッと、受付に受注書の写しを叩きつける。


 間違いなく、数日前に出た緊急クエストの「将軍級の討伐ジェネラルキル」だ。


 それを見て、セリーナ嬢が厭らしく笑う。


「はっ! あんた、もう少し上手な嘘をつきなさいよ。……大方、ジェイスさまのパーティから逃げ出したか追放されたかで、文無しになったんでしょ? それで、嘘をついて報酬をせしめる気ね? お生憎様───」


 トントン。

 

 と、ギルドの中央に置かれた大テーブルに置かれた別の依頼書と、巨大な金庫を示した。


「『将軍級の討伐』どころか、今はもう『軍団の阻止』の段階にまで引き揚げられたクエストなのよ───ねぇ、パパ」


 セリーナ嬢が、ケラケラと笑いながら背後にいた偉丈夫に告げる。


「───話は聞いていた。呆れた奴だなアルガス……。無理やり勇者ジェイス殿に同行しているだけでも評判が悪いというのに、ついに虚偽申告か? 報酬をだまし取る気だろうが、そりゃあ詐欺ってやつだ」


 ち……。

 娘も娘なら、コイツもクズだな。


 こんな奴がギルドマスターをやっているから、将軍ジェネラル級の魔物が軍団レギオンを形成しつつあるのに、冒険者だけで対応しようなんてザルな真似をするんだ。


「詐欺も何も、クエストは完了した。他に言いようがない」

「アホを抜かせ! 先日、命からがら帰還した冒険者から聞いた。将軍級は軍団を形成し、街に進軍しつつあるとな───だから、ああ・・して、」


 クイっと顎で外の騒ぎを示した。


「───戦える男を集めて、阻止線を作らねばならんのだ。街の危機なんだぞ?! 王国軍が出張ってくるまで、なんとか食い止めねばならん。そのためには、俺も金を惜しまん!」


 そう言って、「|軍団の阻止」という依頼書をテーブルに叩きつけてアルガスに見せた。


 チラッとみただけだが、書き添えられた内容は、「参加するだけで、金貨1枚!」とか

「魔物を討伐すれば、その数に応じて報酬を支払う!」と書かれている。


 当然、将軍級を仕留めたものにはボーナスがでる。

 その内容も破格のもので、大白金貨一枚という恐ろしい額の報酬だ。


 ちなみに、

 銅貨100枚で銀貨1枚。

 銀貨10枚で金貨1枚。

 金貨10枚で大金貨1枚。

 大金貨10枚で白金貨1枚。

 白金貨10枚で大白金貨1枚だ。


(※ 銅貨1枚でだいたい100円くらいの価値)


「へぇ……。凄いじゃないか───」


「そうとも、それだけの規模の魔物がくるんだぞ! 正真正銘の街の危機だ。だから、それだけの金が動いている。どれもこれも、隣の市や街中からかき集めて揃えた資金だ!」


 ズカズカと金庫まで近づくと、ギルドマスターはわざわざ中身を見せた。


「見ろ、この金を! この金庫の中には募兵と討伐報酬に備えて、金貨10000枚も入っているんだ!」


 だから、下手な嘘をつくな、と───。

 ギルドマスターはふんぞり返りながら、アルガスを鼻で笑った。


「お前のようなノロマで、勇者ジェイス殿の腰巾着でしかないクズ冒険者に、将軍級が倒せるものか! もし、貴様の嘘が本当なら、この金貨を全部やることになるだろうな───グハハハハハ!!!!」


 へぇ……。

 兵士一人に金貨1枚くれてやり、命を懸けて魔物を駆ればさらに報酬上乗せ。


 そして、将軍級を倒せば大白金貨1枚か──────。


 ドンッ──────!!!


「グハハハハハハハハハハハハ、……ぐはー───?!」


 キョトンとした目のギルドマスター。

 目をぱちくり……。


「お、おい……そりゃなんだ?」

「見て分からんか? 将軍級───オーガキングの首だ」


 ミィナから、そっと受け取ったデッカイ生首を、大テーブルの上にデーーーーーンと乗っけてやった。


 う、

「嘘ぉん……!!??」


 ギルドマスターが、カッパーと口を開けて茫然とする。

 セリーナ嬢もパッカーと口を開けて硬直。


 他のギルド職員もシーーーーーーンと静まりかえる。



「じゃ、金貨10000枚貰おうか? 報酬ってことでいいんだよな?」

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