光の戦士たち2

「うげぇ……ゲホゲホ」

「も、もう駄目───」

「あ、歩けません……」


 ジェイス達は荒野を彷徨さまよい続けていた。


 軍団から離れたおかげで、魔物に襲われないのが幸いだったが、その分他の動物にすら出会っていない。


 やたらと顔に集る蚊やハエは鬱陶しいくらいいるというのに、鹿一匹みかけない。


 ───水も当然ない。


 荒野のあちこちではジメジメとした湿地状の所もあるのだが、こと水分といえばほとんど地面に吸収されている。


 もうこんな状態で丸二日過ごしていた。


 夜は酷く冷え込むため、3人と一人を加えてくっ付いて眠ろうとしたが、寒くて、寒くて、そのうえ酷い空腹で寝むれやしなかった。


 そして、日中はどこにあるとも知れない街を求めて彷徨うのみ。


 ちょっと前に調達した食料なんて、あっという間に消費しつくしてしまった。

 酒もあったのだが、それをのんだがために余計に喉が渇いてしまったのだ。


「くそ…………ダメか」

「ジェイス……諦めるの?」

「こ、ここまで来てそれはないでしょう?」


 ジェイスは担いでいたリズを、ドサっと乱暴に地面に投げると、


「リズの状態は思ったより深刻だ。もっと早く目覚めるかと思ったんだが……」

「ジェイスの手加減なしの一撃だよ? もしかして一生目覚めないかも───」


「そうなったら無駄な手間でしたね──……いっそ、この子を、」


 そっと、リズに手を伸ばし、肉の触感を確かめようとするザラディン。


「はぁ……いざとなったらそれもやむを得ないか」

「え? い、嫌よ私。こんな口にするくらいなら、野垂れ死んだほうがマシ」


「はは。バカですね。綺麗に野垂れ死ねると思うのですか? 軍団による大移動のために、一時的に数を減らしているとはいえ、本来ここは魔物の巣窟ですよ?」


 死体が綺麗に残るわけないでしょう───と、ザラディンはメイベルを小馬鹿にする。


「ちょ、う、埋めてもくれないの?!」

「埋まるかもな───ケケケ。小指の骨くらいはな」


 ゾっとしたメイベル。

 ジェイスとザラディンの目は本気だ。


 こんなとこで死んだら、魔物より先に──────。


「…………んぅぅ?」


 しかし、ここで天の助けが───。


「リズ?!」

「あら!!」

「おやおや!」


 三者三様、驚きの余り飛び上がる。


 すぐにジェイスはリズに駆け寄り、助け起こしてやった。


「大丈夫かリズ!? どこか悪くないか?!」


 ジェイスの声が聞こえているのか聞こえていないのか、リズはボンヤリとあたりも見回した後──────。


「───ッ、アルガス!!!」


 ガバッと起き上がり、武器を掴んで走り出そうとした。


 辛うじて残っていた短剣を手に、一路───……。


「ど、どこ?! ここは?!」


 キョロキョロと周囲を見回すリズだが、軍団レギオンと交戦した場所でないことだけは理解できたようだ。


「落ち着けリズ。軍団からの撤退に成功した──────パーティの被害は軽微・・だよ」


 そうとも。

 役立たずの肉壁タンクを1。

 使い捨てのポーターが1。


 そして、大半の物資──────。


 軽微なものさ。

 命があっただけでも儲けものさ。


「被害が軽微って……。あ、アルガスはどこにいるの?! ねぇ!!」

 今度はジェイスに詰め寄って、ガクガクと揺さぶる。


 ジェイス達と違い、運ばれていただけのリズは多少体力に余裕があるらしい。


「お、落ち着け……! 落ち着けってリズ───! 忘れたのか?」


 そうとも、

 リズだって聞いているはずだ───。


「オマエも聞いていただろう? アルガスは自分を犠牲にして、お前を俺達に託したんだってことを……」


 それを聞いて、顔面を蒼白にしたリズが、ガクリと膝をつき倒れる。


 それを慌てて抱き留めるジェイス。


「そんな……。そんな……!」

「すまない……。でも、こうするしかなかったんだ」


 すまない、すまないと慰めつつ、リズの背中をさするジェイス。

 だが、内心ではほくそ笑んでいた。


 これで、荒野の案内人もできたことだし、邪魔なアルガスも始末で来た。

 あとは、リズをどこか適当な街で味見して──────。と下種な考えに浸り、ニヤニヤと笑う。


「──────ッ!!」


 しかし、リズは全力でジェイスを拒否する。


「あ、アンタのせいでしょぉぉぉおお!! アルガスは危険だって言ってたし、最初から無理なクエストだってわかってたじゃないッ!」


 そのうえ、


「アルガスをはじめから囮にするつもりだったんでしょう? 匂い袋まで準備して、アルガスを敵前に立たせたんだもん!!」


「そ、それは…………」


 ジェイスは二の句が継げない。

 言っていることは、全て本当だからだ。


「あんたがアルガスを殺したも同然よ!! 私はアルガスの所に行く───行って確かめるッ!!」


 例え……。

 例え、あの人が死んでいたとしても──!


「やめろッ!! オーガキングは執着が強い! もしかするとこっちを追っている可能性もあるんだぞ!」

「それが何? 望むところでしょ───街は救われて、ジェイスはオーガキングと再戦できる」

 

 ぐ……。

 ジェイスは反論できずに、口をつぐんでしまう。


「ま、まぁまぁ……。リズ殿の気持ちもわかりますが、ここはいったん街を目指すのが得策かと思いますよ」


 適当な合いの手で、リズの怒りを鎮めようとするザラディン。

 実際、フーフーッ! と肩で息をしているリズも、今から追う事に意味はないと分かっている。


 実際どれくらい眠っていたのか、あるいはどのくらいの距離があるのかリズには分からなかったものの、今は致命的に時が過ぎ去ってしまった事だけは理解できた。


「そんな……。そんなのって、そんなのって───────うわぁぁぁぁぁああああああ!!」


 リズは声をあげて泣いた。

 アルガスを求めて、大声で鳴いた。


「アルガスぅぅぅう!! アルガスーーーーーーーーーー!!」


 父親のような人で……。

 でも、そこまで歳が離れていなくて──。


 よく、両親と酒を飲んでゲラゲラと笑いバカ話をしていて……。


 二人が亡くなった時───絶望していたリズに、冒険者になろうと誘ってくれた優しい人……。


 リズを引き取り、冒険のイロハを教え、鍛え、支え、ともに歩いてくれた───最高の男の人……。


 アルガス・ハイデマン……………………リズの愛した、唯一人の男性───。



「うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」



 リズの慟哭どうこくが荒野に無情に響いた───。

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