光の戦士たち1


 のろまタンクと馬鹿にされていたアルガスが、荒野でたらふく飯を食べている頃──。


 一方……。

 荒野に逃げたジェイス一行は───。



「ひーひーひーひー………」

「はうーはうーはうー……」

「うごごごごごご…………」



 ジェイス達は装備の大半を放り捨て、最低限の荷物だけを手にして荒野を彷徨っていた。


「じぇ、ジェイス──────どこにむかってるのよ?」

「そ、そうです……私の目には同じところをグルグル回っているようにしか……」


 疲労と飢えでフラフラのメイベルとザラディンが、リズを担いで肩で息をするジェイスに抗議する。


 それは、普段なら絶対しないはずの二人だったのだが……。

 疲労は腰巾着の二人の判断力を鈍らせていた。


「───ああん?! んっだ、こら!! 文句あんのか!!」


 案の定、鬼のような形相で振り向いたジェイスがギラリと目を光らせて睨み付ける。


 オーガキングに敢然と立ち向かったときのような殺気を漲らせて、真正面から二人を視線で射抜くのだ。


「ひぃ?!」

「ひぇ!?」


 あまりの激しい反応に、二人して腰を抜かしてガクガクと震える。


「っち……! 腰抜けのくせに、代案もねぇなら黙ってろッ!」


 吐き捨てるように怒気をばら蒔くと、苛立たし気に息を吐くジェイス。

 自身と疲労と渇きで限界寸前だったので、残り僅かな水を飲み干す。


「あ、くそ……水も切れやがった。───おい、おまえら!」


 ギロッと、人を殺せそうな視線で睨むとのたまう。


「水を寄越せ───。あと、隠し持ってる食いモンもだせ!」


「そ、そんな!?」

「あ、あああ、ありませんよ! 水も食料も全部、ポーターとアルガスが持っているに決まっているじゃないですか!」


 そうだ。

 そのためのポーターで、その代わりのアルガスだ。


「嘘をつけ! お前らのことだ、どうせ何かしら隠し持ってるんだろうが!」


 ギク……!


 メイベルもザラディンも、同時に体を跳ねさせる。

 それだけで丸わかりだ。


「や、いやよ!! これは私の物なんだから!!」

「そ、そうです!! とっておきですよ───あ、ちょッ!」


 バタバタと暴れる二人を無視して、荷物を漁るジェイス。

 それだけにとどまらず、剣で脅して身に付けるものからも物資を漁る。


「へッ! 持ってるじゃねーか!」


 水筒、クッキー、ポーションに干し肉、そして、高価なエリクサーや神酒ソーマまで!


「そ、それはダメよ!!」

「あぁ?! それらは大学からの餞別品ですよ! 止めてください!!」


 いざという時に備えて隠し持っていた、とっておきの品までジェイスに奪われる。

 さすがにそれは見過ごせないとばかりに、全力で抵抗する二人だが、悲しいかな───所詮は後方支援主体の二人だ。


 近接職でかつ、希少職ユニークジョブのジェイスには敵わない。


 あっさりと奪われたそれらを恨めし気に見るも、力関係は明らかだった。


「うーーーーー……お、覚えてなさいよ!」

「ど、どうして、そんな小娘のために!」


 メイベルは復讐を誓い、ザラディンはリズを庇うジェイスに抗議する。


「へ……。お前らが役立たずだからだよ! 箱入り娘の尻軽で頭空っぽの神官に、研究しかしらないお気楽バカ賢者───」


 奪った物資を食らいつつ、鼻で笑うのは高慢ちきの暫定勇者ジェイス殿。


「アルガスは死んだ───……。なら小間使い兼、案内役がいるだろうが!!」


 そう。

 勇者も神官も賢者も…………。


 冒険のイロハ・・・・・・なんて、まったく知らなかったのだ。


 今までは、すでに冒険者としては大成していたアルガスがお膳立てし、その師事をうけていたリズが進路を啓開して───初めて、冒険ができていただけ。


 冒険者としての経験値はアルガスが一番で、アルガスから学んでいたリズが二番手。


 二人から学ぶ気もなく、自分の力に奢っていた3バカはここに至って既に遭難の危機にひんしていたのだ。


 幸い、リズが気を失った状態でここにいる事で、最悪な事態だけは免れるだろう。

 彼女が目覚め、その案内に従えば、うまくすればすぐにでも街にたどり着ける可能性もある。

 それは、普段の思慮足らずのジェイスにしては、機転の利いた行いだっただろう。


 ──もちろん下心込みではあったが……。


「そ、そうか! さ、さっすがジェイスぅぅ!!」

「な、なるほど…………しびれるぅ!」


 あっさり心変わりする二人に、ジェイスはチョロいな、と心の中で笑う。


 高価な物資は、まぁ……。余裕ができたら返してやるくらいのつもりで、さっさと懐に仕舞ってしまった。


 なんせ、凶悪な魔物の彷徨く荒野だ。

 視界いっぱいに広がる荒野に、まだまだ終わらりは見えない。


 軍団レギオンとは逆方向に進んでいるため、幸いにも魔物に出くわさないのが幸運といえば幸運だろう。


「わかったらいくぞ───。とりあえず、夜風が凌げる場所が見つかればそれでいい、あとはリズに案内させるさ」


「わ、わかったわ! 回復魔法ならまだ余裕があるから任せて」

「り、了解です。私も火ならいつでも起こせますぞ! やったことはありませんが、水も氷魔法から作れるかもしれません!」

 

 おーおー。

 そうそう。───雑魚は、俺のために働いてりゃいいんだよ。


 ジェイスは内心二人を見下しつつ、担いでいるリズの頬を一撫でした。


 ようやく目障りなアルガスが死んだ。

 軍団を倒せなかったのは残念だったが、アルガスが飲み込まれたのなら、それはそれでよし。

 軍団を倒す機会なら、まだあるさ──と。


 ジェイスの腹積もりとは違ったものの、全てが悪い方向ともいえない。

 少なくとも、可愛い可愛いリズは手中に納めた。曲がりなりにもアルガスのお墨付きでな。


 くくく……。


 黒い笑いを秘めつつ、ひとり今後の方針を練るジェイス。


 まずは、軍団の情報を近くのギルドに報告しよう。

 そこで、多少の小銭を得れば一度河岸を変えようか───。


 と、

 そんなことをジェイスは考えていた。




 しかし、3バカは知らない───。



 

 荒野の果ては、どこまでも続くということに……。

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