第10話「ミィナさん、凄いことになっとるで?!」

「はうー……お腹いっぱい」


 幸せそうな吐息をつき、ぷっくりと膨れたお腹をさするミィナ。


「そうか? まぁ、簡単な料理だよ」

「ううん! すごくおいしかった! オウチで食べたご飯より、一番だよー」


 えへへー、とはにかみつつアルガスにすり寄るミィナ。

 なんか、餌をあげたら懐いた猫みたいだ。


 うむ、取り敢えず撫でておこう。


「そっか……。これから街に戻るけど、そのあとでミィナはどうする?」

「どうって……?」


 キョトンとした顔のミィナ。

 アルガスの言わんとすることが分からなかったのだろう。


「いや。もう───ポーターなんてしなくてもいいから、故郷に帰ったらどうだ?……すぐにとは言わないけど、送っていってもいいぞ?」


 奴隷だとか、ポーターだとか、子供には酷すぎる。

 少なくともアルガスの倫理観的には、子供にさせることではない。


「奴隷商には、俺が掛け合ってやるよ───まぁ、まずはリズと合流してからになるけどな」


 ……そうだ。

 まずは、リズを連れ戻さないと─────俺にとっては、それが一番重要なことだ。


 ミィナのことはそれから・・・・になるけど、口約束だけで済ますつもりはない。


「───故郷?」

「そうだ。さっきオウチ・・・って言っただろ?」


 そう聞いた途端、ミィナが暗い表情になる。


「オウチ──────もう、ない……」

「………………………………そうか」


 深い沈黙のあと、アルガスはポンポンとミィナの頭を擦る。


 ま、深くは聞くまい。

 この年で奴隷に落ちているのだ───色々あるだろうさ。


 シュンとしてしまったミィナの頭を、カイグリカイグリと撫ぜる。


 ……一家離散、口減らし、戦争、奴隷狩り───この世界ではありふれた不幸の一つだ。

 ───別に珍しくもない。


「……わかった。もういい───。ミィナが住む場所か、なにかやりたいことが見つかるまで一緒にいよう。それとも、どこか当てはあるか?」


 ふるふると、首を振るミィナ。

 まぁ、そうだろうな。


 身を受けてくれる宛があれば、格安奴隷になどなっていない。


 ギュッとしがみ付いてくるミィナの頭を、ポンポンと優しく触れる。


「そうだな……。じゃあ、こうしよう。ミィナが荷物を分担してくれるなら、俺も助かる───しばらく一緒にいようか?」


「は、はい!」


 ニッコリ笑うミィナ。

 こうしてみれば、結構な美少女だ。

 …………美幼女?


 これは、妙な客に買われなくてよかったのかもしれない。


 この容姿だ。

 変態どもに、ナニをされたか分かったものじゃない。


 まぁ、ジェイスもその中では嫌な客には違いないけどな。


「よし! そうと決まればさっそく街に戻ろうか───」




 だけど、その前に…………。




「───ドロップ祭りと行こうかな?」

「ど、ドロップ祭り??」


 ニィ……と、獰猛に笑うアルガス。

 その表情にちょっと引いているミィナがいた。

 

 だけど、この光景を見て笑わない冒険者はいないはずだ。

 なんせ、軍団レギオンを殲滅し、その取り分はアルガスとミィナの二人分だけ。


 これをドロップ祭りと言わずに何という!


「───レッツ、死体漁りだぜッ!」

「お、おー……!」


 うん。可愛い───。


 よくわかっていないミィナも、アルガスにつられて小さな手を天に向けてやる気を見せる。



 さぁ、楽しい時間の始まりだーーーー!!



※ ※



 魔物はアイテムを貯め込む性質がある。

 綺麗な鉱物や、亡くなった冒険者からの戦利品。

 それに、魔物独自の文化で作られた武具等々。


 中には、どこかのダンジョンから持ち帰ったものを持っている者がいたりで、かなりの収穫が見込める。


 もっとも、ゴミの様なものも多いので当たり外れ・・・・・は、かなりあると思っていい。

 その他にも、魔物の部位には薬や食用になるものもあるので、剥ぎ取って素材として売ることもできる。


 それが軍団級の魔物のなら、すさまじい量になるだろう。


「あーでも、こんなに持ち帰れないよな」

「凄い量……」


 ミィナが額の汗を拭いつつ言う。


 本来なら、Lvの高いポーターを連れていき、戦利品はまるごと持ち帰るのだが──。


「ミィナの異次元収納袋アイテムボックスから少し荷物を捨てていくしかないかもな」

「うん……ごめんなさい」


 自分の能力が低いことにシュンとしてしまうミィナ。

 ポーターとしてのLvが低い以上、彼女の異次元収納袋アイテムボックスの許容量はホンの僅かだ。


 ならば、費用対効果を考えて高いドロップ品を持ち帰って、安い食料や水などは捨てていくべきだろう。


「今、全部出してみるね─────あれ?」


 物資を仕舞う亜空間を呼び出したミィナだが、

「な、なんで?」


 急に不安そうな顔になり、そわそわし出したミィナ。


「どうしたんだ?」

「その──────ご、ごめんなさい」


 オロオロとした彼女がよくわからない顔で謝る。


「だから───」

「な、なんか異次元収納袋アイテムボックスの上限が、すごく広がってて…………」


 へ?


「れ、Lvが急上昇してるの……」


 シュ~ンと項垂れるミィナ。

 何かおかしなことが起こっていると思っているのだろう。


 Lvの急上昇は、魔物を倒すことでしか起こりえないはずだけど……。

 



 …………………………え。




「も、もしかして…………」


 ミィナのLvの急上昇と異次元収納袋アイテムボックスの上限アップ──────。


「これって、『重戦車』に乗ってたから、魔物を倒した経験値って、もしやミィナにも恩恵があったのかも……」


 それしか考えられない。


 アルガスもかなりLvが上昇しているが、今までが高Lvであったため、それほど急上昇という気がしない。

 だが、ミィナの場合は違う。


 ほとんど、Lvの初期のままであったミィナは、大量の魔物を───しかもオーガキングを含む格上をアルガスと一緒に倒した(ことになっている?)ので、あり得ない速度で急上昇してしまったのだろう。


「そ、そうなのかな? ごめんなさい……」


 何もしていない自分が、勝手にLvを上昇させたことを済まなく思っているようだ。

 だが、それは全く謝罪に値しない。


 パーティで敵を殲滅したとて、Lv上昇の恩恵はみな平等なのだ。


「何も悪いことはない。それより、どのくらいの上限が増えたんだ?」

「えっと、…………多分、全部入る───」


 へぇ…………。




 …………………え??




「ぜ、全部?!」

「う、うん……それでも、ちょっと余裕あるかも」


 ぜ、全部って?! おまッ!?


「いや、魔物──────千体は軽くいるけど、」

「うん」


 ま、マジで?


「───いや、マジで?」

「う……うん。ダメ?」


 ウルウルと、目に涙を貯めるミィナ。

 ダメっていうか……。



 ダメどころか─────────。



「ミィナ…………多分、世界中探しても、そんなに異次元収納袋アイテムボックスの上限が大きいポーターいないと思うぞ」

「え……………………そ、そうなの?」


 よくわかっていないらしいミィナ。


 なんせ、ポーターは弱い。

 それでも、高Lvパーティでも必要とされるため、弱いまま危険地帯に連れ回される。


 そのため、平均寿命が恐ろしく短いのだ。


 魔物も知性が高い連中はポーターを積極的に狙うため、その傾向は顕著だ。

 ゆえに、ポーターは高Lvに至るまでに死ぬか、怖気づいて逃げ出すかのどちらかだ。


 高Lvパーティの、非人道的な連中になると、ポーターを拘束して無理やり連れ回すらしい。


 その際は、小柄なものの方が携帯・・に都合がいいという事で、ミィナくらいの背丈の物は引く手あまたなのだとか……。


 そのポーターが一瞬にして高Lv。


 しかも、あり得ない程の異次元収納袋アイテムボックスの上限を誇るという……。


「───と、とにかく、入るだけ容れちゃおうか?」

「う、うん!」


 厳選していたのが馬鹿馬鹿しくなるほど、ミィナの異次元収納袋アイテムボックスはデカく、幾らでも収容できた。


 こうなると冒険者というか、アルガスの貧乏性が発揮され、魔物の装備まで欲をかいてポコポコと回収してしまう。

 

 食用になる魔物は体ごと。


 小さな魔石なども見逃さず、全部入れていく。


「これは討伐証明になるし、まとめて持っていくか……」


 最後にバラバラに吹っ飛んだオーガキングの部位と残った下半身、そしてビックリしたまま事切れた表情の頭部を、討伐証明として異次元収納袋アイテムボックスに収容していった。


 それでも、ミィナはまだまだ余裕があるという。


「す、凄いじゃないか、ミィナ!」

「え、そ、そそそ、そうかな───えへへ」


 恥ずかしそうに顔を朱に染めて、頭を掻くミィナ。

 年相応のその様子に、アルガスはホッコリとしつつも褒めることはやめない。


「ミィナのお陰で冒険の資金も揃ったよ。これだけあれば当分困らないはず」


 それは本音だ。

 軍団一個まるまるのドロップ品。


 多分、相当な額になるだろう。


 今までは群れホードのドロップでさえ厳選しなければならなかったのだ。


 それが、厳選どころか丸々全てだ。


 しかも、軍団レギオン全部!!


「わ、私のお陰……」

「そうだよ! 自慢していい。誇りに思う事だ、ミィナ。君は世界一のポーターだぞ!」


 せ、世界一……?!


 ミィナが目を白黒させている様子が可愛らしい。

 剥ぎ取った残骸だけを残して、綺麗さっぱり軍団を収容したとは思えない程、小さな子だけど───その実力はこの目で見たとおりだ。


 掛け値なしに、本当にすごい能力なのだから……。


「───どうする? ミィナの実力があればどんなパーティでも歓迎されるだろうし、他にも商売だってできるよ。無理して俺と、」

「やだ! アルガスさんと行く!」


 ギュッと腕をつかんで離さないミィナ。


 「ダメ……?」と、目で訴えられれば情に脆いアルガスならグラリと傾いてしまう。


 だって、そのウルウル目を見てダメとは言えない……。


 ナデリコナデリコと頭を撫でつつも、ウルウルの目が直視できず、天を仰ぐ。


 やべぇ、超可愛い…………。


「わ、わかった。まずは街に戻ってよく考えようか」

「はい!」


 そうだ。

 まずは街で態勢を立て直そう。

 そして、軍団殲滅を報告して───、「光の戦士たちシャイニングガード」のメンバーを追わないと……。


 そして、ジェイスをぶん殴り、俺の大事なリズを見つけないと───!




 本当は今すぐでも後を追いたいが、どこに行ったのかもわからない以上、闇雲に探しても無駄足になるだろう。


 それくらいなら資金を投入して、人や情報を集める方が得策だ。


 このままでは、物資も足りるか分からない以上、一度撤収するしかない。




 ───リズ。待っててくれ。

 すぐに、すぐに迎えに行くッ……!




 ジェイスに預けるという判断を、この時ほど呪ったことはないだろう。

 だが、それしかあの時は手がないと思ったんだ──────。


「アルガスさん?」

「いや、…………帰ろうか」


 そうさ。

 まずは帰ろう。


 判断が間違っていたかどうかなんて、結果論でしかない。

 代わりにミィナを救うことができた。

 そして、俺も助かった──────。



 だから、次はリズを助ける──────。





(待っててくれ、リズ)





※ 戦果(軍団一個分) ※

・オーガキングの討伐証明

・オーガキングの部位多数

・魔物の討伐証明(約1000)

・魔石(特大)×約50

・魔石(大)×約250

・魔石(中)×約500

・魔石(小)×約200

・魔物の装備(約350)

・食肉用魔物(約200)

・ドロップアイテム多数


 ──────収納済み

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