5-2-4

 地上は地獄と化していた。道路には無数の死体が転がり、生き残った者たちは、死んだ知人や生き抜いた近所の人の顔を見て、いつ相手が豹変するかって怯えている。死体の中には疑心暗鬼が蔓延したせいで殺し合わずに済むはずだった者たちもいたかも知れない。

 ルクレツィアは、ぼくのせいじゃないって言った。

「本当にそう思う?」

 ぼくは声を無視する。どうせ、これから何があって、どう思われようとも、ぼくのやることは変わらないんだ。目を背けるなとは言わない。やるべきことに集中しろ。

工廠までもう少しというところで、会いたくない奴に出くわした。銃をこちらに構え、道を塞いでいる男。

「ロバート……」ぼくも銃を用意してはいるが、向ける気はない。「殺したいくらい腹立たしいのは解かるさ。だけど、今は周りを見ろよ」

「何か案があるらしいな」そういって、ロバートは銃を下げた。「おれも一枚噛ませろよ」

「そんな大層なものじゃない。ただ……これを引き起こしたのがメルツェルじゃないなら、もう一人元凶に心当たりがある」

「誰だ」

「あんたも知ってる奴だよ。一緒に追い駆けていただろう。ぼくたちは。メルツェル以外に、もう一人の男を」

「まさか……本当に?」

「行けば解かることだ。……急ごう。時間がない」

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