5-2-3
「エワルド! 聞いてる?」わたしは通信機のマイクに話しかける。メルツェルのこと以上に、まだ伝えなきゃならないことが残っている。「聞いて、エワルド!」
スピーカーから大きな雑音がした。同じ音を聞いているロバートが顔をしかめた。
「エワルド! メアリーが生きている!」
メルツェルの死体が完全に沈黙した、直後のことだ。それと連動したみたいに、〈子宮〉の扉が開いた。わたしとロバートでメアリーの様子を確かめると、彼女は〈子宮〉とは接続されていなかった。意識こそ戻っていないものの、呼吸はある。栄養失調の兆候もない。
エワルドの後悔と罪悪感の根源である彼女の死は、メルツェルによる見せかけだったのだ。そのことを知れば、きっとエワルドは自分を責め続ける人生から解放される。だから、伝えなくちゃならない。一刻も早く。
だけど、スピーカーの向こう側でルクレツィアが言った。
「エワルドはもういない」
「いないって――」
「この事態を止める当てがあるみたいなの」
「それで」とロバート。「あいつは今どこに」
ルクレツィアからエワルドの場所を聞き出すや否や、ロバートは会場を跳び出した。止めるべきだろう。だけど、メアリーのことも放っておけない。そうやって悩んでいる内に、わたしはロバートの姿を完全に見失ってしまった。
仕方ないから、わたしはメアリーの側に寄り添い、彼女の手を握った。脈はある。
どうしたらいいんだろう。彼が諦めていた幸せは、ここにいるっていうのに。
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