第104話

「アッハッハッハ。

 いや、すまん、すごいね。

 私や側近達の性根の悪さと小ささを実感したよ。

 いや、なに、グレイス嬢なら分かっているだろうが、事前で皆で色々打ち合わせしたいたのだよ。

 グレイス嬢がシーモア公爵やディラン殿のとりなしをしてきた時に、どれくらいの条件で交渉するかとね。

 それが全く無意味だったね。

 グレイス嬢の方から、シーモア公爵やディラン殿達を罰しろといってくれたんだからね」


「当然でございます。

 信賞必罰が大切です。

 特に今回は異例の事態です。

 ヘンリー殿下の身辺の安全を図りつつ、王国の体制を固めなければなりません。

 反乱や暗躍を防ぎつつ、ヘンリー殿下の権力強化を献策するのが臣下の役目でございます」


 まあ、本音は別ですけど。

 本音は私にかまわないで欲しいだけです。

 父上や兄上に負担をかけない範囲で、なんですけどね。

 それに、必要以上の罰を与えようとしたら、ただではすませませんよ。


「……おしいね。

 本当に惜しい。

 兄上が健在で、貴女が王妃になっていたら、この国は盤石だっただろうに。

 だが、その道は閉ざされた。

 それは分かってくれるね」


「はい。

 私は自分から婚約者を辞退させていただいています。

 再度候補に挙げていただいた時も、何度もお断りさせていただいたことは、知ってくださっているでしょ?

 今は小康状態を保っていますが、健康に不安があるのです。

 結婚はせず、父上に田舎の領地を分与していただいて、静かに暮らしたいと思っているのです」


「ああ、そうだ。

 その件で呼ばせてもらったのだ。

 陛下も兄上も、グレイス嬢に無理を言って負担をかけた。

 グレイス嬢から言ってくれたとはいえ、一度は婚約解消したのに、再度婚約者候補に入れたことで、度重なる襲撃を受けさせてしまった。

 王都に上る途中では、何度も殺されかけたという報告も受けている。

 されに今度の兄上の廃嫡で、婚約者候補も解消されることになる。

 詫びとして、王家の直轄領を割譲しようと思う。

 どうであろうか?」


「ありがたき幸せでございます。

 謹んでお受けさせていただきます」


「うむ、受けてくれてよかった。

 これでグレイス嬢が献策してくれた罰をシーモア公爵家に与えやすくなった」


 ヘンリー様と側近達が安堵していますね。

 色々と心労があるのでしょう。

 私にそれなりの領地を与えることで、シーモア公爵家に罰を与えても、見捨てられることも敵対することも防げると考えたのでしょう。

 ですが、そうなると、それなりの領地を下さるつもりなのでしょうか?


「そこでだ、問題になるのは爵位と領地なのだが、当初は王都に近い領地と男爵位を考えていたのだが、グレイス嬢は田舎暮らしがしたいという。

 色々こちらが考えるより、グレイス嬢の本音を聞いた方が互いのためだと、今日の事でよくわかった。

 どうであろう、グレイス嬢の望みをかなえるのが一番という前提で、王家とシーモア公爵家の両方に利がある領地割譲案はあるかな?」

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