第105話

「行ってまいります、父上、母上、兄上」


「気をつけてな」

「いつでも帰ってきていいのですよ」

「体に気をつけてな。

 リリアン、グレイスの事は頼んだよ」


「お任せください、ディラン様」


 別れの挨拶です。

 とはいっても、それほど寂しいわけではありません。

 リリアンを筆頭とした側近達がついてきてくれます。

 領地に戻った時と変わりません。

 いえ!

 中級精霊達にタマとムク達がいてくれるので、ずっと賑やかで安心できます!


 それに、王都に近い場所にも男爵位に相応しい領地と屋敷を王家から賜りました。

 ヘンリー新王太子が下賜してくださった領地と屋敷です。

 屋敷は王家の代官が使っていたもので、男爵の本城とするには規模も小さく貧相ですが、私も代官に任せる心算なので、増改築する予定はありません。


 私が今から行くのは、交渉の結果手に入れた西部の乾燥地帯です。

 全く植物の育たない砂漠や、サボテンや雑草や多少の樹木がある半砂漠に、魔獣の住む砂漠魔境が点在する、全く人を寄せ付けない不毛の地です。

 当然普通ならそんなところには住めませんから、ギリギリ可住可能な地域も猫の額ほど割譲していただきました。


 最初にそこを割譲して欲しいとヘンリー様達に申し込んだときは、唖然とされてしまいましたが、当然だと思います。

 いえ、どういう隠し玉を持っているのかと疑われました。

 当然隠し玉は沢山持っています。

 中級精霊達による複合精霊術と魔獣達です。


 魔獣達に関しては、ヘンリー様達も馬鹿ではないので報告は受けているはずです。

 それを前面に押し立てて交渉しました。

 砂漠領と揶揄されるような場所ですが、どの国にも隣接していない、果てさえ分からない広大な領地です。


 遥か昔に著名な冒険者が挑んだ記録を信じるなら、途中で調査を諦めた領域だけでも、ゴードン王国を数倍する広大な領域があるというのです。

 それを手に入れる機会を見逃すほど私は愚かではありません。

 タマとムクの影響かもしれませんが、縄張り獲得欲が強くなっているのです。


 ある程度戦力が整うまでは、ヘンリー新王太子と友好的な関係が築けるまでは、複合精霊術を使っての土壌改良や気候操作は禁止です。

 ですがタマやムク達を使った砂漠魔境の狩りは積極的に行います。

 五千人を超える犯罪者奴隷を使って、半砂漠地帯に地下用水路を創り出し、灌漑農業をさせる予定です。

 複合精霊術を使って、密かに可住地域の井戸に細工をすれば、ヘンリー新王太子や側近達に気付かれる事なく、水源は確保できます。

 食糧はタマやムク達が狩ってきてくれる魔獣肉で確保できます。

 早く砂漠領に行って領地開発がしたいです。

 そうそう、交渉の結果私は男爵ではなく子爵になりました。

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