第90話

「御嬢様、よくぞご無事にお帰り下さいました」


「ありがとう、ローマン」


 ハウス・スチュワードのローマンが、多くの使用人を率いて迎えてくれました。

 ローマンは王都の屋敷を預かる準男爵で、アレン家の当主です。

 ていっても貴族ではなく貴族に使える士族です。

 戦国時代を戦い抜き、多くの国や貴族と合従連衡して今のゴードン王国が出来上がったので、多くの国の制度や言葉がまじりあっているのです。

 その最たるものが準男爵と呼ばれる士族位なのです。


 ローマンはシーモア公爵家に仕えてくれる士族の中でも譜代の家柄で、幼いころから父親について仕事を学び、今では王都屋敷の全てを仕切る、いえ、他家との交渉までこなす、なくてはならない存在です。

 そんなローマンが、表情は変わらないものの、内心の困惑を気配として漏らしてしまっています。


「ここにいるのは、道中でみつけた国法違反による奴隷達です。

 シーモア公爵家の令嬢として、王太子殿下の婚約者候補の一人として、見逃すわけにはいきませんでした。

 違反した者を王都に呼び出して裁判を行うことになります。

 隠蔽しようと刺客を送ってくるかもしれません

 実際道中でも何度も襲撃されました。

 屋敷の警戒を厳重にしてください」


「承りました」


「それと、この者達に屋敷の仕事を教えてください。

 奴隷を解放されても、何の技術もなければ、また奴隷にされてしまいます。

 使用人としての技術があれば、どこででも働けるでしょう。

 万が一働く先が見つからなければ、私が独立したときに召し抱えます」


「お待ちください!

 御嬢様が輿入れされた時に同行する召使は、すでに家中から決まっております」


「分かっています。

 もちろんその者達は連れています。

 ですがここにいる者も、仕える先がなければ私が召し抱えます。

 だからきちんと仕事を教えてください。

 これは命令です」


「……承りました」


 今までの私では考えられない命令口調ですね。

 あ、いえ、違いますね。

 生き戻る前の私は、意識なく色々と無理難題を使用人に命じていました。

 生き戻ってからは、憶病なくらい命令するのを躊躇っていました。

 でも、群れのリーダーであるムクの影響か、配下に命令するのが当たり前になっています。


「御嬢様。

 公爵閣下と奥方様が喫茶室でお待ちでございます。

 旅塵を落されたいとは思いますが、お顔だけでも出されていかがでしょうか?」


「そうね、ありがとう。

 直ぐにご挨拶に伺うわ。

 案内してくれるかしら?」


「はい、こちらでございます」


「ドリス。

 被害者の事は貴女に任せるわ」

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