第91話
「よく来たね、グレイス。
今回の件は何といえばいいのか……」
「いえ、大丈夫です、父上。
王太子殿下の御性格は分かっております。
これからの事は、王家の方々の御判断を待つしかありません」
「そうだな……
だが、グレイスが望むのならば、儂が積極的に動いてもいいのだぞ?」
「いえ、大丈夫でございます。
旅の途中で頼りになるモノと絆を結ぶことができましたから」
「魔虎か……
早馬で知らせを受けた時は信じられなかったが、こうして眼のいる以上、信じるしかないな」
家族水入らずで会ったと言いたいところですが、絆を結んだばかりの魔虎はとても甘えん坊で、私の側から離れたがりません。
ローマンは危険だと難色をしめしましたが、リリアンを筆頭に戦闘侍女達がそろって危険がないと断言してくれたので、一応父上と母上に話を通してくれました。
魔犬のムク達と絆を結んだことも、デビルイン魔境で魔犬と仲良く狩りをしていることも、デビルイン城に滞在中に、ルーカス叔父上から父上に連絡が届けられていました。
公表する予定だった魔虎の事も、早馬で知らせていました。
だから父上も母上もある程度の覚悟をしてくれていたのでしょう。
魔虎やムク達が喫茶室に入ることを許可してくれました。
もっとも、その分私の護衛はリリアンだけです。
父上と母上には側近の護衛が数多くついています。
とても家族水入らずとは言えません。
父上と母上の護衛はとても緊張していますが、それは仕方ありませんね。
魔虎と私の戦闘侍女達の戦闘記録は、詳細に報告されていますから。
「ねえ、グレイス。
本当の気持ちを聞かせて欲しいの。
お父様にはシーモア公爵としての立場があるから、言えないこともあるでしょう?
でも私になら本心を言ってもいいのよ。
女には女の社交があるの。
表ではできないことも、女の社交で動かすことも可能なのよ」
母上が私のことを想って動こうとしてくれています。
父上は黙っておられますが、わずかにうなずいておられます。
御二人ともまだ私が王太子殿下を熱愛していると勘違いされているのでしょう。
でも、今の私には、王太子殿下がとてもつまらない男性に見えます。
本心を言えば、矮小な人間に見えてしまうのです。
ですがこんな本音は、側近中の側近とはいえ、家族以外に聞かれるわけにはいかない、王家に漏れれば争いになりかねない話です。
父上と母上にはお伝えしておかなければいけませんが、それこそ本当に家族水入らずの時にしか話せません。
「側近の者達を外に出していただけますか?
リリアンはもちろん、タマとムクも外に出しますから」
タマも強く言えば出て行ってくれるでしょう。
駄々をこねたら精霊達が叱ってくれますし。
タマとムクがいなくても、精霊がいると分かっていますから、リリアンも素直に出て行ってくれるでしょう。
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