第80話

 過去の反省は後です。

 今自分に出来る事を考えなければいけません。

 魔虎と絆を結ぶのが無理なら、他に何が出来るでしょうか?

 何度も引き千切られているとはいえ、オーロラとノームが創り出した土錠は魔虎の行動を阻害してくれています。


 私がノームと絆を結び協力出来れば、もう少し長時間拘束出来るかもしれません。

 もしノームと絆を結ぶ事に失敗した上に、ムク達との絆まで断ち切られるような事になった、とても哀しく寂しいでしょう。

 ですが私から解放されたムク達は、魔虎に挑まずに済みます。

 自由に逃げだす事ができます。


「オーロラ。

 精霊と絆を結びます。

 協力してください」


「え、あ、はい!

 精神を集中して、大地の精霊に祈って下さい。

 祝詞は私の後に続けて下されば大丈夫です」


 オーロラは直ぐに私の意図を察してくれたのでしょう。

 私が追唱出来るように、大きな声でゆっくり祝詞を唱えてくれます。

 囮作戦が無効だと判断したリリアンが、私を護ろうと駆け戻ってきます。

 痛み止めが効きだしたのか、コックスも私の盾になろうとしてくれています。

 戦闘侍女達が次々と吹き飛ばされています。

 盾と鎧が破損していない戦闘侍女の数が残り少ないです。


 オーロラの祝詞が二度目に入りました。

 一度目は何の反応もありません。

 以前に話を聞いた時に、一度で諦めずに何度の挑戦すると聞いていましたから、諦めはしませんが、少々落胆はあります。

 ムク達の御陰で勝手に身体強化されているので、精霊とも絆を結べると軽く考えていました。

 絆とは、そんな簡単なものではないのですね。


 残り少なくなった完全武装の戦闘侍女を助けようと、戻って来てくれた魔犬達が身を挺して戦ってくれます。

 魔虎が牽制を無視するので、反撃を喰らうのを覚悟して、魔虎の後ろ脚に噛みついてくれますが、そのために魔虎の爪撃を受け、深手を負ってしまいます。

 私のために、私を護ろうとして、大きな傷を受ける覚悟で突っ込んでいってくれるのです。

 私が命を賭けないでどうするのですか!


「土精霊様!

 私の命を捧げます。

 どうか、どうか、私のために命懸けで戦ってくれている者達を御救いください。

 魔虎を拘束し、皆が逃げる時間を御与えください」


「駄目です、御嬢様!

 御嬢様が亡くなられるような事があれば、我ら一同後追いいたしますぞ!

 死を代償にするなど、愚かでございます」


 ああ、何という事でしょう。

 皆が同じ覚悟をしていると、リリアンの言葉に反応した表情から見て取れます。

 主冥利に尽きます。

 ですが、だからこそ、祈るしかありません。

 彼女達と、ムク達を助けるために。

 彼女達が示してくれた忠臣に報いるためにも、主として命を賭けなければ!

 

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