第79話

 血を流しながら、ムクとアズが魔虎の後脚に喰らいつきます。

 オーロラとノームが創り出した土錠を助けようとしています。

 後ろ脚を狙ったのは、魔虎に噛みつかれるのを嫌ったようです。

 ムクとアズの判断では、噛みつかれると致命傷になるようです。


 盾と鎧が破壊されていない戦闘侍女達が魔虎を囲み、私に近づけまいとしてくれています。

 盾と鎧を破壊された戦闘侍女達は、槍衾を作って私の周りを囲んでくれています。

 顔には決死の表情が浮かんでいます。

 命を捨てでも私を護る決意をしてくれています。


 魔虎を囲んでいた戦闘侍女達が次々と吹き飛ばされています。

 魔虎は私だけを狙い定めているようです。

 私がこの群れのリーダーだと勘違いしているようです。

 本当のリーダーはリリアンだと思うのですが。


 あれ?

 リリアンが左に移動しました!

 戦闘侍女の砕かれた盾の一部を魔虎に投げつけています。

 自分が囮になって、魔虎を引き付けようとしているのでしょうか?

 駄目です!

 リリアンを犠牲にして生き延びる心算などありません!


「止めなさい!

 駄目です!

 死ぬも生きるも一緒です!

 自分だけ犠牲になるなんて許しませんよ!」


 駄目でした。

 リリアンは私の止める言葉を聞かず、私から大きく離れ、何度も何度も盾の破片を魔虎に投げつけました。

 ですが、魔虎の狙いは私から外れませんでした。

 土錠を破壊し、後脚に噛みつくムクとアズを吹き飛ばし、周囲を囲む戦闘侍女達を前脚で薙ぎ払い、少しでも私に近づこうとします。


 皆が必死で時間を稼いでくれたおかげで、他の魔犬達が戻って来てくれました。

 その子達も、必死で魔虎に攻撃しますが、魔犬の牙では魔虎に致命傷を与えることができないようです。

 次々と反撃され、爪でザックリと身体を裂かれ、徐々に消耗していきます。

 私もその度に激しい衝撃を受け、回復薬を飲んで魔犬達の身体を癒しています。


 私にもっと力があれば、魔虎を魅了出来たかもしれません。

 魔虎と絆を結べたかもしれません。

 ですが、駄目でした。

 試してみたのですが、全く反応がありませんでした。

 魔虎が群れを作らない種族だから駄目なのか、私の能力不足なのかさえ分かりませんでした。


 もっと努力しておくべきでした。

 ムクに任せるのではなく、私から積極的に色んな獣や魔獣と絆を結ぶ実験をすべきでした。

 半数以上の子達をデビルイン城に残すのなら、新しい魔獣と絆を結んで連れてくるべきでした。

 全ては私の怠惰と油断です。

 リリアンに任せきらずに、自分でも考え実行すべきでした。

 危険などと言わずに、精霊と絆を結ぶ実験をしておくべきでした。

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