第78話

「ガァアァアァァアア!」


 シールドチャージを仕掛けた第二陣の戦闘侍女達が、逆に前足の一撃で薙ぎ払われてしまいました。

 盾だけではなく、フルアーマープレーとまで砕かれ陥没しています。

 反撃どころか防御すらできていません。


「ガァアァアァァアア!」


「ギャンア!」


 土槍が突き刺さった腹部に喰らいつこうとしたムクまで、魔虎の前足の一撃で薙ぎ払われてしまいました。

 ムクが敵わないのなら、他の子達が戻って来てくれても勝ち目がありません。

 このままでは皆殺しになります。

 斃せなくてもいいから、逃げのびるまで抑えられないかしら?


「オーロラ。

 落とし穴でも罠でもなんでもいいから、魔虎を抑えて!」


「え?

 あ?

 はい!」


「土錠!」


 今度は土槍ではなく、拘束用の錠を創り出してくれました。

 地面から圧縮された土で出来た鎖が伸びていき、魔虎の四肢に絡みつきます。

 が、土を圧縮した鎖では魔虎を抑えきれないようです。

 私のを狙って突っ込んできます。


 第一陣の左右戦闘侍女達が命懸けでシールドチャージを仕掛け、魔虎の軌道を逸らしてくれます。

 その御陰で僅かな時間を稼ぐ事ができました。


 オーロラのノームがその時間を使って土錠を強化します。

 地面から伸びるのではなく、四肢を繋ぎ拘束する土錠に変化しています。

 地面から伸びた錠なら、身体全体で引き千切れますが、四肢を繋いだ錠なら、四肢一本一本の力で千切らないといけません。

 これなら魔虎を拘束できるかもしれません。


「ガァアァアァァアア!」


 だめ、です。

 魔虎は四肢一本一本がとても強力です。

 ノームが創り出す土錠など簡単に引き千切ってしまいます。

 何度も繰り返したら、魔虎の瞬発力を抑え、体力を減らす事はできそうですが、その前にノームの精霊力が尽きてしまいますね。


 眼の端に映るオーロラとノームがとても疲弊しています。

 既に何度も精霊魔法を使っていますから、しかたありませんね。

 ですがこのままでは、私はもちろんリリアンも戦闘侍女達も、喰い殺されてしまいます。

 そして助けに来てくれる魔犬達も喰い殺されてしまいます。


「ガァアァアァァアア!」


 生きて火の壁を突破できれば魔虎を撒く事ができるでしょう。

 でもそんな事は不可能です。

 リリアンでも、戦闘侍女達総掛かりでも、魔虎を抑える事はできません。

 もしオーロラとノームに精霊力が残っていたとしても、トンネルを創り出して逃げたとしても、そこから追いかけられてしまいます。

 魔犬達が総掛かりしても、勝つどころか、時間稼ぎさえ難しいのです。


 私が生き残る方法が無い訳ではありません。

 魔犬達が喰われたら私がどうなるのか分かりませが、コックスの魔犬が喰われても、私には何の危険もありません。

 そして絆を結んだ従魔が喰われたら、人がどうなるか分かります。

 今後私がどうすべきかの指針を得る事ができます。

 悪逆非道な人間なら、これを好機とコックスの従魔を生贄にして逃げるでしょう。

 ですが、私にはそんな事はできません!

 


 

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