第2章
第38話王太子ウィリアム視点
まだグレイスへの想いは断ち難いモノがある。
だが、王太子である以上、個人の感情は押し殺さねばならない。
だから一応ディランの献策を父王陛下と母上様に伝えた。
御二人ともすでに内々に献策を受けていたようだ。
即座に重臣に諮られた。
シーモア公爵派の重臣には根回しが済んでいたのだろう。
即座に賛成でまとまった。
だがラトランド侯爵派と中立派が疑念を呈してきた。
特にシーモア公爵家に養女に入るという点と、サマンサの実家が男爵家であるという点が問題視された。
「だが、オーウェン卿は宮廷魔導士長として宮中伯に叙せられている。
男爵ではなく伯爵ではないか!」
ラトランド侯爵派の非難に対して、シーモア公爵派が反論する。
全ては想定通りの問答でしかない。
グレイスの婚約辞退は、ラトランド侯爵派にも青天の霹靂だったのだろう。
誰だって手に入れた権力を手放すとは考えない。
まずはグレイスを引き摺り下ろす事だけを考えていたのだろう。
それがあっさりと婚約を辞退したモノだから、次の候補者の選定が遅れていた。
家柄だけを考えれば、幾らでも数は揃えられるだろう。
だが、サマンサに匹敵するほど優秀な者は、高位貴族令嬢の中には一人もいない。
下位貴族の中には、多少マシな成績の令嬢もいるが、それではサマンサに対抗できない。
「まあ、待ちなさい。
確かにサマンサ嬢は優秀だ。
グレイス嬢が婚約を辞退された以上、サマンサ嬢が筆頭候補だと言っていい。
だがこのような決め方で本当にいいのか?
王国の将来を考えれば、もっと広く候補者を求めるべきではないのか?」
ラトランド侯爵が急に演説を始めた。
少々演技臭さはあるが、重臣と呼ばれる貴族達の耳目集めている。
さすがに王国を二分する派閥の領袖だ。
シーモア公爵には及ばないものの、反シーモア公爵の貴族を纏めて、大きく劣るとはいえ、何とか対抗派閥を維持しているだけはある。
「ラトランド侯爵。
広く候補者を求めるというのはどういう事だ?」
父王陛下まで興味を惹かれたようだ。
まあ、魅力を感じる気持ちも分かる。
今迄の王国政治は、主流となるシーモア公爵家と、それに対抗しようとする貴族家の対立が前提だった。
広く人材を求め、王国政治に新風を入れる事は間違いではない。
だが、何事もほどほどが大切だし、シーモア公爵家が王家の藩屏を務めてくれていたので、王家が打倒されたり、国王が弑逆されたりしなかった厳然たる事実がある。
その前提を崩せば、王家が打倒される事態もあり得るのだ。
同じ献策をシーモア公爵家が出していたのなら、安心して取り上げる事ができただろう。
だがラトランド侯爵家が提案してきたなら、大きな警戒が必要になる!
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