第37話

 ムクが私の側から離れてしまいます。

 どうしようもない寂寥感と不安があります。

 出会ってからわずかな時間しか共に過ごしていないのですが、離れ難いです。

 ムクは私にとってなくてはならない存在になっています。

 もうよほどのことがない限り、ムクを側から離しません!


 ムクは一頭で空を翔けるように魔境を駆けます。

 銀狼達を眷属にしているので、彼らのいる場所は直ぐに分かるのです。

 私ですら分かるのですから、当然といえば当然です。

 私の頭の中には、ムクが見ているモノが映っています。

 瞬く間に、ムクはコックスの横に立ちました。


 ムクがじっくりと魔豺五頭を検分しています。

 ムクの気持ちが伝わってきました。

 魔豺五頭が弱り過ぎているというのです。

 この状態で私と絆を結べば、せっかく強くなった身体に負担がかかるそうです。

 ムクに言わせれば、しばらく誰とも絆を結ばせず、魔境で体力の回復をさせ、その後で絆を結ぶべきなのだそうです。


「ここでしばらく駐屯する余裕はありますか?」


 私は全てをリリアンに話し、今後の方針を相談しました。

 私なりの考えはありますが、リリアンの方が的確な判断ができるでしょう。

 権謀術数渦巻く社交界です。

 私が婚約を辞退した事で、新たな火種ができてしまいました。

 今が好機と私を殺してしまおうと考える者もいれば、私と婚約して出世の糸口としようとする者もいるでしょう。


「ここはコックスと絆を結ばせましょう。

 コックスは頑健ですし、二頭の魔犬を使役しています。

 弱った五頭の魔豺と新たに絆を結んでも、健康を害することはないでしょう。

 最初から一昼夜はここで狩りをする予定でした。

 今から夜明けまで狩りをして、食糧を確保する間に、できるだけ魔豺の体力を回復させましょう」


「ですが、コックスに確認してください。

 身体に負担をかけるのはコックスです。

 今は命を賭けてもらうような状況ではありません。

 無理強いはいけません」


「御意のままに」


 本当は護衛一班十騎を伝令に送りたかったのですが、これ以上私の護衛戦力を減らしたくないリリアンに却下されました。

 私が一旦ムクを呼び戻し、ムクに指令書を渡しコックスに運ばせました。

 指令書といっても、もちろん何かを強制する訳ではありません。

 五頭の魔豺の扱いはコックスに任せるというモノです。


 コックスは現場指揮官として、日が落ちるまで狩りに勤しみました。

 銀狼四十頭、魔犬二頭、魔豺五頭、戦闘侍女五一騎の混成部隊です。

 魔豺五頭だけでは狩りに苦労していたようですが、戦力が充実した事で、私が想像していた以上に大量の魔獣を安全に狩る事ができました。

 夜が明けて、ある程度体力を回復した魔豺五頭がコックスと絆を結びました。

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