第35話
銀狼達の索敵網に危険な魔獣が近づいたようです。
銀狼達が一気に緊張しました。
ムクとリレーする事で、コックスの魔犬にも伝達されます。
当然それは、指揮官のコックスに報告されるという事です。
コックスが戦闘侍女に臨戦態勢をとらせています。
「銀狼達は友好を示しなさい」
コックスの魔犬二匹が、銀狼達の索敵網を越えて迎え討ちます。
コックスが言葉にしなくても、心で思うだけで指示が伝わるのです。
ですが倒すためではなく、友好を築くためです。
難しいのは十分分かっています。
私にはムクの感覚も銀狼達の感覚も入って来ますから。
野生の獣や魔獣にとって、縄張りの維持は死活問題です。
餌を得るための縄張りは、自分と家族が餓死しない為に、絶対に必要です。
いきなり魔境に入ってきた私達人間は、明らかな縄張り荒らしです。
絶対に排除しなければいけない敵なのです。
敵認定されている人間が、友好関係を築くなど、至難の業なのです。
現れたのは五頭の魔犬でした。
ですがムク達とは少し種族が違うようです。
冒険者の間では魔豺と呼ばれ、一般的な魔犬とは区別されているようです。
私達のような貴族は一口に魔犬と一括りにしていますが、群れの大きさや強さに細かい違いがあるようです。
五頭の平均的な体格は。
体長は一一〇センチメートルくらい。
尾長が五〇センチメールとくらい。
肩高も五〇センチメートルくらい。
でも、赤い毛並みが汚くなっています。
飢えているのが一目瞭然です。
普通なら勝てないと判断すれば逃げます。
危険を承知で一度は戦っても、命に危険が及ぶと判断すれば逃げます。
でも今は、死ぬまで戦うかもしれません。
ここは魔境の最外縁部です。
ここで飢えていると言う事は、最弱の魔獣と言う可能性が高いのです。
魔獣が生き行くには魔素が必要なので、魔境の外では生きられません。
魔獣使いと絆を結んだ魔獣だけが、定期的に魔境に入り、魔獣の血肉を食べる事で、何とか魔境外でも生きて行けるのです。
「これを食べなさい」
コックスは即座に全てを悟ったようです。
魔犬の為に常備していた角兎の肉を、魔豺に投げ与えました。
最初は凄く警戒していましたが、飢えには逆らえなかったのでしょう。
五頭の頭だろう魔豺が、毒見と言うか、危険を見極めるために一口食べました。
ほんの少し時間を置いて、一番小さな個体も食べました。
まだコックスが最初に投げた角兎の肉片は残っていましたが、追加の肉片が投げられます。
徐々にコックスに近づくように投げられています。
最後には手で与えるのでしょうが、成功するのでしょうか?
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