第34話
私達は直ぐに男爵領を出ました。
既に五日も行程が遅れているので、一日でも早く領都に戻らなければなりません。
せっかく銀狼達がムクの眷属になったのです。
私の安全を盤石なモノにすべく、領都と王城屋敷に分散飼育すべきと、リリアンが強く提案したのです。
ですが、銀狼達の餌の確保も必要ですから、途中で狩りをしなければなりません。
一班十騎を先行させ、事前に要所で狩りの許可を申請しておきます。
リリアンが中心になって考えてくれましたが、魔境のある王家直轄領を選びました。
貴族の場合は利害があるからです。
特にシーモア公爵家と敵対関係のある貴族領は、気をつけないといけません。
「オーロラは私と一緒に御嬢様を護ってもらいます」
「はい」
男爵領を出発してから五日、代官が預かる魔境に到達しました。
街道は普通安全のために魔境から離れています。
ですがここは山地と大河の狭間にあって、山地型の魔境横に街道を通す必要がありました。
もちろん迂回路もあるのですが、迂回すると二十日も余分に日数がかかってしまいます。
どうせ魔境横を通過するのなら、私のために新たな魔獣を探したいとコックスがリリアンに願い出たのです。
リリアンは許可を出しましたが、私の安全を疎かにしたりはしません。
自分とオーロラが五十騎の戦闘侍女・嬢子軍を指揮し、コックスに残り五十騎を指揮させて、魔境で魔獣を探すのです。
もちろん斥候は銀狼達が務めます。
銀狼達はとても慎重に行動しています。
それも当然で、普通の森では王者といえる銀狼達も、魔境では弱者なのです。
相手が草食系の魔獣であろうと、勝てるとは限らないのです。
それに森では草食の兎も、魔境では角兎となって雑食です。
鹿も一角鹿は雑食です。
全てコックスが教えてくれたことですが、大切な知識です。
知らなければ、迂闊に近づいて命に係わる攻撃を受けたかもしれません。
コックス指揮下の五十騎は、慎重な上にも慎重に索敵しています。
銀狼達の索敵網が突破される可能性もあると、コックスが注意したからです。
戦闘侍女達には貴重な実戦経験となるでしょう。
ムクを通じて銀狼達の感覚が分かる私にもいい経験です。
コックスが教えてくれた魔境の薬草を、戦闘侍女達が掘り返して採集しています。
花・葉・茎・根等の必要な部位だけを、品質を確かめながら、丁寧に採集します。
その厳選した採集が、薬草を魔法薬に加工する時に大きな違いを産むそうです。
並の魔法薬の五割増しや倍する効果があるというのです。
ですが下手に魔法薬を使うと、また私の身体が弱る可能性があるので、リリアンはコックスに厳しい指示を出していました。
私を何より一番に考えてくれるリリアン。
いつか彼女の忠誠に応える事ができるのでしょうか?
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