第30話

 コックスの話は、もし本当なら驚愕するほどの利点がありました。

 ですが全て口伝による伝説で、証明されたモノではありませんでした。

 国や貴族が正式発表したことはないそうです。

 資料が残る近年の魔獣使いで実証した者もいないそうです。

 しかしながら、本当なら私達の戦術を根本的に変えるほどのモノでした。


 コックスが教えてくれた伝説を自分たちなりに解釈すると、以下のような効果と利点があります。

一:銀狼が一匹でも生きている限り、ムクは死なない。

二:ムクが死なない限り、私も死なない。

三:私が死なない限り、ムクは死なない。

四:ムクが死なない限り、銀狼達は死なない。


 数ヶ所に拠点を置き、ムクや銀狼を護る限り、私は不死の存在となります。

 ですが身体を激しく損傷してしまうと、恐ろしい姿で生き続けることになります。

 アンデットのような存在になってしまいます。

 ですが全ての身体損傷を癒すような魔法薬を使えるなら、人として復活できます。

 ムクや銀狼達を蔑ろにする行動をすれば、絆が断ち切られてしまいますから、無茶な事はできませんが、本当ならば驚嘆に値するモノです。


 だからといって、無暗に検証するわけにはいきません。

 検証するとなると、ムクや銀狼達に死ぬほどの傷をつける必要があります。

 そんな事をすれば、それこそ絆が断ち切られてしまいます。

 つまり事前に検証する事は不可能なのです。

 リリアンが出した結論は、口伝を信じて私を危険に晒す事はできないというモノでした。


 ですが銀狼達がムクの眷属となった事で、私達の隊列に変化がありました。

 先頭を警戒しながら進んでいたコックスの更に前に、二十頭の銀狼が進みます。

 最後尾を警戒していたオーロラの更に後ろに、二十頭の銀狼が続きます。

 私の護衛陣に厚みがでました。

 人では感じ取れない領域の、嗅覚と聴覚と野生の本能による索敵が可能となりました。


 ですが問題や負担が全くなくなったわけではありません。

 問題は、銀狼達が人の脅威として認識され、攻撃を受ける可能性がある事です。

 負担は食糧と言うべきか?

 それとも餌と言うべきか?

 肉食の銀狼用食糧を用意していない事です。


 穀物は余裕を持って用意していました。

 ですが肉は塩辛い干し肉しかありません。

 干し肉では銀狼達の飢えをしのぐ事ができません。

 飢えた銀狼達を伴って、人里に入るわけにはいきません。

 行程を根本的に変える必要が出ました。


「御嬢様、リリアン殿。

 ここで狩りをして肉を確保しましょう。

 少なくとも次の人里に入る前に肉を確保する必要があります!」


 コックスが提案します。

 リリアンの判断に任せることになります。

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