第31話

 リリアンの判断は、この地の領主に狩猟許可をもらうというものでした。

 今は街道を移動していますから、貴族は通行税が免除されます。

 ですが、他の貴族の領地内でもあるのです。

 まして街道を外れた場所は、この地の貴族が絶対的な権限を有しています。

 シーモア公爵家といえども、勝手はできないのです。


 リリアンは貴族の領境と拠点を完全に理解しています。

 戦闘侍女の安全のため、一班十騎を城に派遣しました。

 狩猟許可をもらうためにです。

 私達は街道の待避所で待つことにしました。

 街道を移動中の商人や領民には迷惑でしょうが、銀狼を連れて人里に入れない以上、仕方がありません。


「御嬢様。

 ムクや私達が街道を外れて狩りをするのは違法だと思います。

 ですが、銀狼達だけで狩りをするのなら、誰にも分かりません。

 塩漬け肉を与え過ぎると、銀狼が病気になってしまいます。

 ここは自由にするように命じてはどうでしょうか?」


 コックスが私を誘惑します。

 私もその方法は考えました。

 ですが、今はもう銀狼達は私達の指揮下に入っています。

 それを偽って他の貴族領で狩りをした事が露見したら、後で政治的に不利になってしまいます。


「コックス。

 銀狼達はどれくらい断食に耐えられるのだ?」


「一日は大丈夫だと思いますが、正確には分かりません。

 御嬢様がムクに聞いて見られればいかがでしょう。

 正確な言葉で返してはくれませんが、感覚で理解できると思います」


「分かったわ。

 やってみましょう」


 リリアンが返事をする前に、私の判断でやってみることにしました。

 慎重にならなければいけない事ですが、ムクの眷族を餓えさせたりしません、

 家臣領民を護るのが領主の務めなのです。

 ムクは私の家臣や領民ではありませんが、絆を結んだパートナーです。

 ムクの眷族となった銀狼達は、陪臣と言う感覚でしょうか?


「かなり空腹なようです。

 できる事なら、直ぐに何か食べさせてあげたいです。

 何とかなりませんか、リリアン」


「でしたら、こういたしましょう。

 我々はもちろん、ムクも銀狼達に近づきません。

 コックスが言ったように、銀狼達だけで狩りをさせます。

 領主に送った使者が戻ったら、我々は危険な銀狼を狩りに森に入ります。

 そこでコックスが銀狼達と絆を結ぶ事ができた事にします。

 何かあった時のために、御嬢様と銀狼達の関係は秘密にしましょう」


 リリアンは慎重ですね。

 ですが、リリアンの言う事ももっともです。

 今は分かりませんが、銀狼達がムクの眷族となった事で、決定的な危険があるかもしれないのです。

 ですが、それはそれとして、まずは銀狼達の空腹を満たすために、狩りの許可をだしましょう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る