第18話
本当に久し振りに、美味しいと思いました。
最初に食べた蜂蜜は、ラベンダーの香りが鼻孔を直撃しました。
甘味と旨味で舌が蕩けそうです。
いえ、余りの美味しさに、痛みを感じるほどです。
美味し過ぎて、おたふく風邪になった時のように、耳の下が沁みて痛みました。
美味しさを感じるだけではありません。
食べた直後だというのに、身体の隅々に食べた栄養が広がる感じがするのです。
滋味とはこういう事なのだと、心から納得しました。
乾いた大地に雨が沁み込むように、私の身体の隅々に、蜂蜜と果物の滋養が届けられるのが分かるのです。
同時に、ムクが食べた分も理解できました。
ムクが届けられた生肉を食べる度に、身体に力が湧いてきます。
蜂蜜や果物とは違う、猛々しさのある力が身体に届きます。
でも負担ではありませんでした。
ムクを通して届く力なので、魔法で無理矢理強化するような負担がないのです。
「コックス。
本当にありがとう。
病に倒れてから、どのような御馳走を食べても、美味しいと思えませんでした。
いえ、わずかな病人食以外、口にできませんでした。
その病人食も、砂を口に入れているようでした。
それが、舌が蕩けるほど美味しく思えました。
心から御礼を言わせていただくわ」
「そんな!
御礼を言われるような事はできていません」
「いいえ。
今私は生きていられる幸せを感じています。
食べるという事は凄いですね。
もっと美味しい物を食べたいという想いが、ムクムクと湧きあがっています。
これで健康になれると確信しました」
「御嬢様。
それは、私の力ではありません」
「では誰の力なの?」
「ムクです。
ムクは食べる事が大好きなのです」
「まあ!
ムクは食いしん坊なのね。
ムクありがとう」
「ワン!
クゥゥゥン、クゥゥゥン、クゥゥゥン、クゥゥゥン」
「でもね、ムクに出会えたのはコックスの御陰よ。
多くの魔犬の中から、この子を選んで連れてきてくれたわ。
私とムクを出会わせてくれたわ。
ありがとう」
「うぅぅぅぅぅ。
あ、り、がとう、ござい、ます」
泣かせてしまいました。
でも、人心掌握で言ったのではありません。
心から感謝を感じて、その想いを正直に口にしただけなのです。
「御嬢様、宜しいでしょうか?」
「何ですか、リリアン」
「コックスに確かめたいことがあるのです」
「何なの?」
「従魔が傷ついたり死んだりした場合、御嬢様に負担がかからないか心配なのです」
普段表情を変えないリリアンの顔が、不安の表情を浮かべています。
私も迂闊でした。
確かにこれほどの効果があるのです。
負担がかかる可能性も考えておくべきでしょう。
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