第17話

 どうしましょう?

 体毛からムクと名付けましょうか……

 それとも体色からチャと名付けましょうか……

 全く関係ない事から名付けましょうか……

 難しいです!


「ムクよ。

 ムクと名付けるわ。

 この手触りのいい体毛が一番印象深いわ。

 いつまでも撫でていたい体毛からつけるわ」


「わん!」


「おめでとうございます、御嬢様!

 この子は名前を受け入れました。

 これで御嬢様にはこの子の力が分け与えられます。

 御気分はいかがですか?」


 コックスが気遣ってくれますが、その時にはもう劇的に変わっていました。

 身体全体を覆う重苦しさ。

 何とも表現できない嫌な脱力感。

 御腹の中に無理矢理石を押し込まれたような鈍痛と重さ。

 それら全てが陽光にかき消される黒雲や朝霧のように雲散霧消したのです!


 爽快です!


 ムクを可愛がる事でも幸せを感じられましたが、身体の隅々まで広がっていた嫌な感覚が全てなくなり、燦燦と降り注ぐ陽光に生きる幸せを感じ、瑞々しく香ばしい芝生の香りが鼻孔をくすぐります。


 今迄モノクロだった風景が、輝くように色づいたのです!


 ギュルルルル


「ごめんなさい!

 恥ずかしい所を見せてしまいました。

 急に御腹が空いてしまったの。

 今迄全く食欲がなかったのに、凄いわコックス。

 内臓が蛇のように激しく動いているわ!」


「少々御待ちください、御嬢様。

 直ぐに食事を用意させます。

 何もなければ、蜂蜜と果物を持ってこさせます」


 私が喜びと驚きで少々上ずった声でコックスに話しかけると、今迄私の背後に影のように付き従い、不測の事態にも対処できるようにしてくれていたリリアンが、離れた場所で待つ他の侍女に、食事の用意をするように指示してくれました。


 中途半端な時間なので、完成した料理がないかもしれません。

 何時でもストックされている蜂蜜と果物を用意させてくれました。

 いえ、私の弱った身体を考えてくれたのでしょう。

 作ってから時間が経った料理では、私が食中毒を起こすかもしれないと、気遣ってくれたのでしょう。


「クゥゥゥン、クゥゥゥン、クゥゥゥン、クゥゥゥン」


 ムクが凄く甘えた声をだします。

 他の事を考え話している間も、ずっとムクの御腹を撫でさすっています。

 ですが他の事に気を向けるのはムクに失礼でした。

 ちゃんと真正面から相手してくれと言っているのでしょう。


 いえ、それだけではないでしょう。

 私がこれほど健康になれたのです。

 どれほど多くの体力と魔力をムクから奪ったか分かりません!


「リリアン。

 ムクの食事も御願い。

 私が健康になったという事は、ムクの体力と魔力を奪っているわ。

 ムクの食事を沢山用意して」


「承りました」

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