第13話

「子を生めない者が、王家に正室として嫁ぐ訳には参りません。

 やはりここは、王太子殿下の婚約者を辞退させていただきます」


「そうですか。

 私には何も申し上げる資格がありません。

 ただグレイス様の症状を正確に御伝えさせていただくだけです」


 私の言葉にエレノア様は、何の感情も面に表さず、冷静に答えてくださいました。

 母上は哀しみを抱きながらも、先程の号泣を気力で抑えてくださっています。

 それは強く握りしめておられるハンカチや、わずかに震える手から察せられます。


 この場にいる皆が私の事を慮って、感情を面に出さないように、冷静に事務的に全ての事を処理してくれています。


 看護婦さんが道具を片付ける音だけが聞こえます。


 診断結果が出てからは、話が早かったです。

 シーモア公爵家は婚約辞退を申し入れ、王家はそれを認めてくださいました。

 私は自由の身となりましたが、大きな傷を負いました。

 体調が元に戻ったとしても、もう公爵家令嬢に相応しい結婚はできないでしょう。


 ですが婚約が解消されてからも、王家の、いえ、王太子殿下の私への御心遣いは続きました。


 エレノア様が引き続き診療と治療をしてくださるだけでなく、宮廷に仕える女性精霊使いや女性魔法使いが、エレノア様と一緒に私を診てくださいました。


「これはキャヴェンディッシュ宮中伯の唱えられた仮説なのですが、グレイス様の症状も、魔獣使いや精霊使いになれば、劇的に改善されるかもしれないそうです」


 何時もの診察が終わり、現状と今後の方針を伝える時になりましたが、今日は母上とリリアンだけでなく、父上と兄上も一緒にです。

 事前に王宮から使者が来ていたので、何時もの寝室ではなく、最高の応接室で全員揃ってエレノア様の話を聞いたのです。


「それは本当なのですか!」


「落ち着け、あくまでも仮説だと言われている」


「ですが貴方!

 グレイスが治るかもしれないのですよ、落ち着いてなどいられません!」


 母上が気負うのも当然です。

 私の治療には、父上も全力で取り組んでくださり、手に入る限りの魔法薬を使ってくださいました。


 ですがどのような高治療薬も、一次的に症状は改善するものの、数日経つと少し歩くと倒れてしまう状態に戻ってしまうのです。

 それは魔力回復薬も体力回復薬も治療薬も同じで、どの薬でも一次的に緩解するものの、根本的な治療には程遠かったのです。


 ですが逆に言えば、どのような薬であろうと、常用すれば日常生活は可能だとも言えるのです。

 

「そうか、そうだな。

 直ぐに領地から魔獣使いと精霊使いを呼ぼう!」

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