第12話

 恐れ多くも国王陛下が、王家の侍医を差し向けてくださいました。

 女性の私に配慮して、普段は王妃殿下や王女殿下を診られている、女性侍医長を差し向けてくださったのです。

 本当にありがたい事です。


「今から魔法で診断します。

 息を大きく吸ってください」


「はい、エレノア様」


 とても丁寧で慎重な診断でした。

 一つ一つ可能性を考え、それを判断するための問診をされました。

 女性同士ですから、私が乙女であるかとか、月経の状態や有無と言った、遠慮のない問診もありました。


 側に付き添って下さっていた母上が思わず息を飲まれ、顔色を真っ青にされることもありました。

 ですがそれでも、母上はそれを受け止め、私の手をしっかりと握りしめてくださいました。


 私の斜め後に立って、直立不動で護衛してくれているリリアンも、一瞬気配が変わりましたが、常に私の側に付き従ってくれていましたので、私の返事を予測していたのでしょう、その後は普段通りの優しく厳しい気配を私に伝えてくれています。


 エレノア様と看護婦の方々は流石です。

 一切の私情を顔にも雰囲気にも表されません。

 ただキビキビと望診、問診、聞診、切診を行われ、最後に魔診です。

 これが私には心配な事でした。


 エレノア様程の名医なら、私の秘密に気がつかれるかもしれない。

 私が嘘をついているのを気がつかれるかもしれないのです。

 私には分からない、人生を途中からやり直す事の理由と意味を言い当てられ、厳しく断罪されるかもしれない。


「正直に申し上げます。

 原因は分かりません。

 あえて病状を言い表すのなら、生命力の枯渇でしょう。

 私が今まで診てきたどの症例とも違いますし、勉強してきた古い文献にもない、奇病としか申し上げようがない症状です」


「ああああぁぁぁぁ」


 今まで我慢されていた母上が、堰を切ったように号泣されていらっしゃいます。

 公爵夫人として、宮廷内のどのような争いにも眉一つ動かさずに対処されて来た母上が、私のために誰憚る事なく泣いて下さっています。

 両手で顔を覆い、泣き崩れる母上を見ると、申し訳ない気持ちで一杯になってしまいます。


 口にはできない事ですが、恐らくは前世の罪の所為なのでしょう。

 知識と記憶を持って、人生を途中からやり直させていただく代償なのでしょう。

 そうでなければ、死ぬ前に長い夢をみているのかもしれません。

 こちらの方が可能性としては高いのですが……

 

 さあ、私から言わねばなりません。

 エレノア様に言っていただくのは申し訳ありません。

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