第7話

 リリアンの話は私の想像通りでした。

 マナーズ男爵家のスカーレット嬢が王太子殿下に近づいていました。

 哀しい事ですが、前世と同じ事が起こりそうです。

 私が前世と違って病弱なので、違う流れになるかと思いましたが、残念ながらスカーレット嬢に関しては同じでした。


「それで、殿下はどう思っていらっしゃるの」


「それが……」


「本当の事を聞かせて。

 私は婚約を辞退するのですから、殿下とスカーレット嬢が仲良くしていても気にすることはないのよ。

 大切な事は、スカーレット嬢の御人柄が殿下に相応しいかどうかなのよ」


「はい、分かりました。

 スカーレット嬢はとても魅力的な方のようで、殿下も魅かれておられるようです。

 スカーレット嬢の御人柄は、まだよくわかりません。

 直ぐに公爵家の全力をもって調べさせて頂きます」


 前世の私の乏しい知識では、スカーレット嬢が悪だとは断言できません。

 ですが私の知る限りでは、とても善とは言えません。

 それに、少なくとも、殿下には不幸でした。

 スカーレット嬢と結ばれる事で、早く亡くなられたのは確かです。


 殿下の御心に逆らう事になりますが、仲を裂かなければなりません。

 スカーレット嬢には悪いですが、殿下と結ばせるわけにはいかないのです。

 いえ、スカーレット嬢はともかく、後々民を虐げるマナーズ男爵の影響だけは、なくさないといけません。


「リリアン。

 スカーレット嬢の御人柄を徹底的に調べてください。

 それと、マナーズ男爵の事も、徹底的に調べてください。

 殿下の妃になるというのなら、実家の行状が特に大切になります」


「承りました。

 ですが御嬢様、男爵家が王太子殿下の妃を出すなど、不可能ではありませんか?」


 確かにリリアンの言う通りです。

 男爵家は貴族の中でも最下級です。

 長女であろうと、正室として嫁げるのは伯爵家までです。

 ですが私は、前世でその常識を覆した事を知っているのです。


「ええ、それは分かっているわ。

 でもね、恋とは常識では考えられない事を引き起こすものよ。

 だからね、下手に反対するよりは、最初から側妃や妾妃として迎えるように、祝福して差し上げた方がいいと思うのよ」


「左様でございましたか」


「私から王妃殿下に御手紙を書くわ。

 スカーレット嬢の事とマナーズ男爵の事、家だけではなくて、王家にも事前に調べて頂いておけば、問題が起きにくいと思うのよ。

 反対するにしても、条件付きで認めるにしても、殿下の御心が冷静なうちに、調べておくべきだと思うのよ」


「承りました。

 代筆させていただきます」

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