第8話王太子ウィリアム視点

 なんと可憐な乙女なんだろう。

 波打つような金髪はこの国には珍しいが、とても美しい。

 細くくびれた腰はしなやかで、動きは若鮎のように軽やかだ。

 手足が艶やかに動き、ついつい目が追ってしまう。

 濡れたような青い瞳で見つめられると魅せられてしまう!


「王太子殿下、この花を見てください。

 美しく咲いております。

 あちらの花も綺麗ですよ。

 ガゼボで休息しながらゆっくりと鑑賞されてはいかがですか?」


 ああ、なんて蠱惑的な!

 いかん!

 劣情に負けてしまいそうになる。

 私には婚約者がいるのだ。


 それに、万が一子でもできたら、後々王位継承でもめてしまう。

 だが、なんとも言えぬ香りがする。

 スカーレットの香水なのか?

 何も考えられなくなる。


「殿下!

 いかがなされましたか?

 御気分が御悪いのですか?

 何なら医師を呼んでまいりましょうか?」


「いや、大丈夫だ。

 だが、そうだな、念の為に王宮の侍医に見てもらおう。

 スカーレット、今日はこれで失礼する」


「はい。

 不躾に話しかけて申し訳ありません。

 余りに花が美しく、殿下にも御知らせしたくて。

 つい礼を失してしまいました。

 本当に申し訳ありません」


「いや、構わぬ。

 ではな」


「はい、失礼致しました」


 危なかった。

 思わず人払いをして、劣情を満たしてしまうところであった。

 だが、何なのだこれは!

 こんな気持ちは初めてだ!

 もしかして、これが話に聞く恋なのか⁈


「殿下。

 御気をつけください」


 なんだ?

 ディランの奴こんな小声で。

 私の劣情に気がついて、小言でも言う心算か?

 婚約者の兄だとは言っても、臣下ではないか!


「マテオがこの庭園で休憩するように勧めました」


「何の事を言っている?

 何が言いたいのか分からんぞ!」


 他の取り巻きに気付かれないように、内々の話がしたいのだな。

 何か謀略がらみなのか?

 暗殺か!

 弟が私を狙っているとでも言うのか⁈


「実は、妹の体調が思わしくなく、殿下の婚約者を辞退する準備をしております」


「何だと!」


「殿下。

 御静かに」


 何という事だ。

 確かにグレイスは入学から一ケ月、一度も学園に来ていない。

 だが、婚約辞退を考えるほど重病だとは思っていなかった。

 そう言えば、手紙も署名だけして代筆であったな。

 気にしていなかったが、そうか、それほど重い病であったか。


「そうか、それほど重い病であったのか。

 忙しさにかまけ、一度も見舞いに行かなかったのは私の手抜かりであった。

 許せよ」


「いえ、そのような事は気になさるような事ではございません。

 我が家が婚約辞退を決めた時に、マテオが勧めた庭園に、魅力的な令嬢がいたことが不審なのでございます」


 何だと⁈

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