第4話

 私の願いを聞いたリリアンは、最初は頑として拒みました。

 私はリリアンの眼をしっかりと見て、何度も真摯に話しました。

 その度に拒んでいたリリアンも、最後には折れてくれました。

 私が王太子殿下を愛しているからこそ、婚約を解消する為に殿下に相応しい婚約者候補を探す事を、渋々承諾してくれました。


 何度も反論されました。

 私こそが王太子殿下の妃に相応しいとリリアンは言ってくれますが、前世の結末を知っている私には、絶対にうなずけない事です。

 だから病気と記憶喪失を理由に、正妃教育に耐えられないと話しました。

 前世と今生の正妃教育を考えれば、間違った考えではありません。


 それでもリリアンは、

「御病気が癒えるまで休めばすみます」

 と言ってくれました。

 だから私は言ったのです。

「このまま無理をすれば、私は死んでしまうわ。

 リリアンは私が死んでもいいの?」


 卑怯な一言だったと思います。

 ですがそう言わないと、リリアンは引いてくれなかったでしょう。

 だから言ってしまいました。

 でも半分は本気でした。


 今のこの身体で、前世と同じ正妃教育に耐えられるとは思いません。

 記憶にある今生の正妃教育も、同じくらい厳しいモノです。

 私の心からの叫びを聞いて、リリアンはハッとしていました。

 そして直ぐに謝ってくれました。


「申し訳ありません。

 御嬢様こそ王太子殿下の御妃に相応しいと思っておりますが、それは御嬢様が御元気で御幸せでいてくださってこそでございます。

 御嬢様の心身に御負担をおかけするくらいでしたら、早々に婚約を解消した方が宜しいと思います」


 そう謝ってくれたのです。

 そして直ぐに私の願い通り、王太子殿下の妃候補に相応しい令嬢の調査に入ってくれました。

 シーモア公爵家には、優秀な密偵が数多くいます。

 父上も母上も、私の想いを汲み取ってくださいました。


 ですが直ぐに王宮に婚約解消願いを出したわけではありませんでした。

 シーモア公爵家はゴードン王家を護る藩屏です。

 何事も次善の策を準備するまで動くわけには参りません。

 私が王太子殿下の婚約を辞退するのなら、相応しい候補者を推挙すべきなのです。

 そしてそれが、シーモア公爵家の影響力を次代に残す一つの策でもあるのです。


 それに父上様と母上様には、一つの心配があったでしょう。

 口には出しませんが、リリアンも心配していた事でしょう。

 七日七晩も高熱で生死の淵を彷徨っていたのです。

 私は子供を産めない身体になっているかもしれません。

 王太子殿下の正妃となっても、子供を産めなければ立場がありません。


 嫁いでも王子を産めなければ、国王陛下や王妃殿下から冷たい眼で見られることになります。

 まして側妃が王子を産めば、私は王宮内で寂しく余生を過ごすことになります。

 それくらいなら、シーモア公爵家に残してやった方が幸せかもしれない。

 父上と母上は、私が頑強に婚約を解消したいと言うのを聞いて、そう想像しているはずです。

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