第3話

 リリアンと話をして、色々と思い出す事ができました。

 矢張り王太子殿下と婚約していました。

 殿下の事を想うと、胸がキリキリと痛みます。

 やり直しなのか、夢なのかは分かりませんが、今も殿下を愛しているようです。

 いえ、切ないくらい、狂おしいくらい、殿下を愛しています。


 でも、もう間違いを犯す訳には参りません。

 やり直しであろうと夢であろうと、同じ事を繰り返すわけにはいかないのです。

 だから、殿下との婚約は解消させていただかねばなりません。

 この病気は、よい言い訳になると思います。

 七日七晩も高熱にうなされ、死にかけたのですから。


 リリアンは私が記憶を失ったと思っています。

 一部ではありますが、失っているのは確かです。

 いえ、それは正確な表現ではないでしょう。

 失ったと言うよりは、前世との齟齬があるかもしれないと言う事です。

 私が覚えている事と、今生の過去が一致するとは限りません。


 それが表面化した場合でも、私が病気で記憶の一部を失っていると公表しておけば、誰も不審に思わないでしょう。

 それに公表すれば、殿下との婚約を解消する事ができるはずです。

 殿下の婚約者として失格と思われるはずなのです。

 一国の王や王太子の正妃が、記憶喪失では政治に大幅な支障がでるからです。


 ですが、スカーレット嬢だけには譲れません。

 彼女が悪いわけではないのでしょうが、前世と同じでは、殿下が若くして亡くなられてしまいます。

 御兄弟の王子様方も、若くして亡くなってしまいます。

 何より多くの民が、圧政に苦しむ事になってしまいます。


 スカーレット嬢の父親である、マナーズ男爵に権力を握らせてはいけないのです。

 私以外の、心正しい令嬢を探さなければなりません。

 出来る事なら、神様に愛された聖女がいらっしゃったらいいのですが、それは欲張り過ぎでしょう。

 でも、運気のよい程度の令嬢ならいらっしゃるはずです。


「リリアン、御願いがあるのだけれど、いいかしら」


「はい。

 何でも御申し付けください。

 御嬢様のためでしたら、例え燃え盛る火の中であろうと、荒れ狂う海の中であろうと、身命を賭して入って御覧に入れます」


「ありがとう。

 でも私のためを思うのなら、死の危険は犯さないでね。

 生きていてくれてこそ、私のために働けるのよ。

 だから、危険だと思ったら、一旦引いて、次の機会にかけてね。

 御願い。

 約束してくれるわね?」


「御嬢様!

 ありがとうございます。

 今の御言葉、生涯忘れません!

 リリアンは絶対に死にません。

 御嬢様を御一人にするような真似は致しません!

 御嬢様が王太子殿下に輿入れされても、ついて参ります」


「ありがとう。

 では、やって欲しい事を言うわね」

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