第10話 勇者様は魔王城に乗り込みます

 勇者ココたちは、ついに魔王城へたどり着いた!


「……なんか、前評判と違くない?」

 確かに陰鬱とした感じの石造りの建物だけど、すごく大きいわけでもないし高さもせいぜい二階建て。

「それになんていうか、あの二階とか、この門から建物に続く回廊とか、変に見覚えがあるんだけど……」

「噂と実態が違うことなんて、よくある事じゃないですか」

「凄い城だって話は、おまえから聞いたんだからな?」

「ギャッ!(行くぜ)」


   ◆


 エントランスから奥へと進むあいだも、なんだかココはどこもかしこも見覚えがある気がしてしかたない。というか、案内されなくても道が分かる。

 そしてなぜか分からないけど、すごく先に進みたくない。

「なんだろう? なにかが引っかかるんだけど」

 どうにも奥歯に物が詰まったみたいな違和感を抱えながら前へと進んだココたちだったが……。


 広いホールに出たところで、そこには敵が待ち構えていた。

「はっはっは、よくぞここまでたどり着いたね」

「おまえは……!」

 そこにいる者たちのリーダーらしい魔物が、エアリーな髪を手櫛で梳きながらキメ顔でアピールしてくる。なんというかこの夢、敵も味方も知りあいばっかりだ。

「おまえ、ブレマートンの……ヘロなんとか」

「やだなあ、僕たち魔王軍をブレマートン教団と一緒にしないでくれ。僕は魔王様よりこの城の守りを預かる補佐官、ヘロイストスさ! そしてこちらが副リーダーの」

 ヘロなんとかの紹介に、これも見知った顔が進み出てきた。見知ったというか、さっきから探していた顔だ。

「やあやあやあ! 僕こそが」

「おいおいセシル、おまえも魔王側なのかよ」

「違う、僕はホバートセシルの元影武者だ! 僕は僕なの! 一緒にするな!」

「あ、そうか! すまんすまん、悪気はなかったんだ。本体セシルとセットが当たり前と思い込んでたというか、おまけ単体おまえだけで出てくると思わなかった」

「ヌガアアアアアア!?」

 こいつらが誰だか気づいてよくよく見れば、周りの連中も見た事あるような……。

「見た事あるっていうか……個別認識して無かったけど、こいつらアレだな? ビネージュ王国の貴族令嬢どもか」

 さすが自分ココの夢。敵配役のナイスなキャスティングに、ココはやるしばく気がモリモリ出てきた。

「ようし、せっかくだしひと暴れしちゃうかぁ……と思ったんだけど、その前に気になることがあるんだが」

「どうしました、勇者様」

「こいつらさ、なんで揃いも揃って“豚鼻”なの?」


 ヘロなんとかヘロイストスホバート偽セシルも。ついでに言えばその他大勢にいたるまで、全員美形なのに鼻だけ、豚。

 ココと一緒にそれを眺めたウォーレスは、別に疑問に思ってない様子で肩をすくめた。

「そりゃまあ、ビューティフル・オークですからね」

ビューティフル美し過ぎるオーク豚魔獣!?」

「ヤツらはエルフ並みの美しさとプライドの高さを誇っている亜人系の魔物です。そして人間並みの知能とゴブリン並みの性欲を持っています。目をつけられたら厄介な魔物ですよ」

「各種族の悪いところばかり集めた魔物かよ。さっきのウサ公といい、この夢の中の魔物はおかしなのばっかりだ」

「ぱっと見に騙されないで下さい。やつらは間抜けな見た目をしていますが、非常に残忍な性格なんです」

「それは充てられた配役元の人間を見れば、なんとなく分かる」

 どいつもこいつもバカか性格悪そうなのばっかりだ。


「なかなか威勢がいいね。面白い!」

 ヘロなんとかが含み笑いをして配下に手を振った。

「久しぶりの侵入者だ、大いに歓迎してあげようじゃないか。諸君、皆で遊んでやりたまえ!」

「承知ですわっ!」

 周りのビューティフル・オークたちも身構える。

「おっと、来るか!」

 ココもパーティで唯一の武器になってしまった聖剣すりこぎを構えた。見たところ令嬢どもBオークたちは素手だし、相手が相手だから棍棒一本聖剣でも戦えるかもしれない。

 だが。


 開戦と同時に、なぜか一斉に服を脱ぎ始めるビューティフル・オークさんたち。

「なんでっ⁉」

「くそう、我々を襲う気満々ですね!」

「それにしたって脱ぐのは後で良くない!?」

 たとえ魔物と言えど(鼻以外)人間型で、しかもどこかで見た顔ばっかり。素手で素っ裸の知人を一方的に棍棒で殴りまくるのは、さすがのココもためらってしまう。

「どうしよう」

「あなたが勇者でしょ? 何とかして下さいよ」

 そんな感じでココがおたおたしているあいだに、後ろから悲鳴が湧き起こった。

「きゃーっ!?」

「なにっ!?」

 慌てて振り返れば、ナタリアたち修道女三人組がビューティフル・オークたちにもみくちゃにされている。

「何やってるんだよ⁉ おまえら、捕まるの早過ぎ!」

「そんなこと言われても!?」

 ナタリアたちは元から少ない着衣をどんどん引っぺがされて、あっという間に子供に見せられない姿に……。

「それはまあ、置いといて」

「置いとかないでえ!?」

「ウォーレス、ちょっと疑問なんだけど」

「なんですか?」

「ナッツたちに群がってるビューティフル・オーク、なんでメスばっかなの? オークならオスが……ていうか、オークにはオスしかいなかったんじゃ?」

「それはよくいるアグリー醜いオーク野豚さんの場合ですね。ビューティフル・オークはオスとメスがいますし、それにナルシズムの塊ですから同族としか子作りしません」

「じゃあ、は?」

「あれはですね」

 ウォーレスはクイッとメガネを直すと、アッハッハと笑った。

「ビューティフル・オークは遊びで、人間族とか下位種族の同性を襲ってもてあそぶ習性があるんです」

「最低だな」

「ギャッ!(まったくだ!)」

「ゴブさんが言うな」


 だがその説明で、ウォーレスがのんきに構えている理由が分かった。

「アレか。おまえが余裕こいてるのって」

「ええ、まあ」

 二人と一匹でぐるっと見回す。大量のメス(ビューティフル)オークがナタリアたちに群がっている。

「オスが全然いないからだな?」

「私、観察力には自信がありますので」

「ギャッ? ギャッ!(でも、さっきのリーダーと副リーダーはオスだろ?)」

 黙ってゴブリンと見つめ合ったウォーレスが奥の階段を指した。

「さあ勇者様、先を急ぎましょう! 魔王はもうすぐそこです!」

「おまえコスい計算が得意なくせに、必ずどこかで計算に抜けがあるんだよなあ」


 それにしても。

「ビューティフル・オークのメスたち、数はたくさんいるのに……」

「それがなにか?」

「なんで私は襲われないんだろう?」

 数が多すぎて手持ち無沙汰のヤツもいるのに、なぜかココには寄って来ない。

「おそらく彼らから見て、幼児体型オコサマ過ぎてメスのうちに入らないのでは?」

 ココはウォーレスの顔面に、無言ですりこぎ聖剣を叩きつけた。




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 すみません。前話の長さの件、パッと暗算した時に2フィートと20インチを間違えました。直しときます。

 以前書いてた話によく出てきたもので、ヤードポンド法で2……と来たところでは反射的に51㎝にしちゃったです。

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