第09話 勇者様は厳しい戦いをします

 いまいち耐久性は不安だけど、ココは長めの武器を手に入れた。

「ですから、それは魔術用ですってば! 槍の代わりになりませんからね!?」

 長めの武器を手に入れた!

「ちょっと勇者様、聞いてます!?」


 ココがじりじりと横に動くと、ボスうさぎダマラムも向かい合って動く。お互い円を描くように四分の一周ほど回ったところで、ココが仕掛けた。

「えいっ!」

 前に飛び出して、ウォーレスの魔術師の杖で力いっぱい殴りつける。だがそんな直線的な動きが見えていない筈がない。

「ムハハハ! そのような単調な攻撃、死の森最強の大臀筋・ダマラムちゃんに通用するものか!」

 ダマラムが腕を頭にかざしてガード。勢い良く叩きつけられた魔術師の杖は、丸太のような太さの腕にぶつかると簡単にへし折れた。

「私の杖がーっ⁉」

「くそっ、持ち主ウォーレスと同じでひょろひょろ過ぎだ!」

「杖を壊された上にディスられた!?」

 やはりココの振り降ろす力ごときでは、ムキムキマッチョに全くダメージを与えられない。攻撃がそれで終わりと見て取り、ダマラムが勝ち誇って大笑いする。

「カッカカカカ! このダマラムちゃん相手にそのような攻撃、無駄である!」

「だよなあ!?」

 だからココも最初から期待はしていない。

 折れる寸前に杖から手を離したココはダマラムの足元に深く沈み込み、すりこぎ聖剣を抜くと地面すれすれからすくい上げるように……。

「この体格差じゃピンポイントで狙うしかない! 悪く思うなよ!」

 膝のバネを利かせて跳ねるように飛び上がるココは、全力でダマラムの急所へ打ち込んだ。


 さすがに自称最強だけあって、ダマラムもココの動きにはすぐに気がついた。

「むっ、きさまぁ……だが!」

 ダマラムは……むしろみずから受けるように、見下す笑みのままフロントリラックスポーズをキメた。

「なにっ!?」

「ヌハハハハ、急所に死角なし! すでにソコはプロテクターで対策済みよ!」

「クソッ!?」

(せめて少しでも効いてくれないかなあ……!)

 ココはそう思いながらダメ元ですりこぎを叩きつけ……意外と柔らかい感触に

「……あれ?」

 と首をひねった。


 そしてダマラムは。

「ワッハッハッハゥオッ!?」

 呵々大笑していたごついオヤジは棍棒すりこぎがのめり込むにしたがって笑顔が引きつり、コンマ数秒の間に驚愕の表情から苦悶の顔に切り替わって大絶叫。


「ダマラムちゃん一生の不覚っ! うさちゃんハウスを出てくる時に、大事な場所へプロテクターを入れ忘れておったぁぁああああっ!」

 

「パンイチでそんなもん入れてたら、普通は感触で分かるだろ? なんで自信満々ですりこぎ聖剣を受けたんだよ」

「大事な儀式の日にパンツを忘れたお方がよく言いますね」


   ◆


「ボスがやられたぞ⁉」

「なんということだ!」

 ダマラムが股間を押さえたまま前のめりで崩れ落ちたのを見て、周囲のうさぎマッチョたちも慌て始めた。ちょうどいい。

 “頭”を潰した所でブラフをかける。それが“喧嘩”のセオリーだ。

 パニックに陥ったボーパルバニーたちに、ココは精いっぱい虚勢を張って笑って見せる。

「おまえらのボスも、私の前にはこんなものだ。おら、命が惜しかったらさっさとそいつを連れてどこかへ行っ……」

「ボスの敵討ちだ!」

「おおうっ!」

「ダメか……つか、話聞いてないな、こいつら」

 首狩り戦術は効かなかった。

 となると頭数が物を言う乱戦では、ココたちに勝ち目はない。

「ちっ、どうするかな……逃げの一手か?」

 反転逃走のチャンスをうかがうココが相手の動きを睨んでいると、いきり立つウサギたちはなぜか、一斉にブーメランパンツに手を突っ込んだ。

「…………へっ?」

「ボスに続け!」

「おおうっ!」

 ボスのを見習い、一斉にプロテクターを抜くウサギマッチョたち。そんなドジ踏んだところを見習わなければいいのに。

「……案外、勝てるかも?」

 バニーボーイズの知能はやはり僧兵団なみらしい。

 そんなふうにちょっと希望が持ててきたところで、ココが見てたらバニーズが一斉にを振りかぶった。

「ん?」

「喰らえ、ボスのいけない所に興味津々な不審者め!」

「投げるな!」

  

 周りを囲まれそうなココたち勇者パーティ。

 念のためにウォーレスに聞いてみる。

「ちなみにおまえら、何か戦闘力はあるわけ?」

「ほとんど無いですね。剣士ナバロ応援の村人山賊団もさっき喰われましたし、ヒーラーたちナタリアたちはさっきから気絶したままです。荒事ができるのはダンチョーさんだけです」

「おまえぐらいは何かできないのかよ。役に立たないな」

「魔術の発動キーになる杖をさっき折ってくれたのは、どこのどなたでしたかね⁉」

「ダマラムだ」

 

 万事休すか。

 そうココが思ったところで、団長が進み出た。

「勇者様、ここはワシに任せて先を急いでくだされ」

「団長!?」

 騎士団長はいったん両手のモーゲンスタンを置くと、ボーパルバニーたちの注目を引くように一人前に立つ。

 そして深く息を吸い込むと……。

「むんっ!」

 気合の一声とともに、一気にパンプアップした筋肉で団長の服がはじけ飛んだ。

「はっ?」

 ココが呆然と見ている前で、牡牛のような筋肉の塊がポージングしている。

「どうじゃあ!」

 騎士団長は武器も武器なので、上半身にはゴーレムのように筋肉が付いている。魅せる為の筋肉ではない。戦いで使い込まれた、いびつでごつく育った岩山のような筋肉。

 実用派マッチョの登場にウサちゃんボーパルバニーたちも大喜びだ。

「おおっ!? マジマッチョ!」

「ヒューッ、なんて小山のような筋肉だ! ドラゴン並みのゴツさだぜ!」

「筋肉番付世界ランカーのご登場だ!」


 盛り上がる一帯を黙って眺めていたココとウォーレスの袖をゴブリンが引っ張る。

「ギャッ!(邪魔しちゃ悪いから、さっさと先に行こうぜ)」

「うん、そうだね」

「ちょっとナタリアさんたちを起こしてきます」


   ◆


「この先、魔王城に着いたらどうしようかな」

「何がです?」

「いや、だってさ」

 ココは後ろを振り返った。ウォーレスとナタリアとドロテア、アデリア。前を歩くゴブリンを足しても……。

「戦えるメンバーがいないじゃん」

「私が戦力にならないのは、勇者様が杖を折っちゃったからですけどね」

「ココ様、聖剣を持ってるじゃないですか」

「聖剣って言ったってナッツ、おまえ……」

 ココは腰から聖剣すりこぎを抜いてみる。

「全長が良いところ二フィート61㎝だぞ?」

 しかも鞘から抜いたら刀身がヌルヌル芋。

「こんなので魔力がバカ高い魔王相手に、どうやって戦うんだよ」

「聖剣なんだから、なにか特殊な効果があるのでは?」

「どうなんだろう?」

 知ってそうなウォーレスに視線が集まる。やはり知識があるらしく、悪の魔法使いはコホンと咳払いをしてココの握る聖剣を指した。

「これはあくまで伝承なのですが」

「うん」

「なんでもこの聖剣、すりおろして食べるとたいへん滋養強壮に効くとか」

「それじゃただのヌルヌル芋じゃないか」




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第2巻は4/30(土)発売! 一部書店では特典SSも付きます!


情報解禁になりましたのでこちらにも。


「聖女様」が、抹茶梅&本庄マサト両先生によるコミカライズ決定しました!


Webコミック誌「コミック ヴァルキリー」にて、5月末配信のVol.108より連載が開始します! こちらは登録不要で、配信日より期間限定で閲覧無料だそうですよ!

今月末配信のVol.107にも新連載予告が載るそうです。

所狭しと暴れまわるココと愉快な仲間たちが漫画で見られるかと思うと、私も今から楽しみです!


小説版&コミック版、どちらもよろしくお願いします!

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