第11話 勇者様は次々と仲間を失います
残念ながら現状は多勢に無勢だ。数で潰される前に魔王を早く発見しないと、ココたち全員がやられて一人もたどり着けなくなる。心苦しいがこの場は捕まった仲間を見捨て、急いで先に進まなければ世界は終わってしまう。
「というわけでナッツたち、すまん! おまえたちの犠牲は忘れない!」
「そんなあ!?」
「助けてココ様!」
「ココ様の~いけず~!」
「魔王を倒す為なんだ! 分かってくれ!」
「そんなこと言わずに助けてえ!?」
「ココ様ならパパっと退治できるでしょ!?」
「堪忍して~!?」
「聖心力が無いからどうにもならないんだ! それに実は私、ずっと黙っていたんだけど……」
「そんな妬ましいおまえらがそのせいでひどい目に合ってて、ココちゃんなんだか気分がとってもスカッとしました」
「ココ様、本当にひどい!?」
「特に一歳しか違わないアデルは、持てない者のひがみを思い知れ」
「私の責任じゃないよ、それ⁉」
「というわけで、あとは自分で何とかしてくれ。諸君の健闘を祈る!」
「こんなところで~鬱憤ばらしをしないで~!?」
「行くぞウォーレス!」
「了解です!」
「ギャッ!(安定のひどさだな、こいつら)」
だが、そんな鬼畜二人と一匹が走り出した途端。
「アハハハハ? どぉこへ行くのかなあ~?」
「あっ!?」
横から飛び出して来た
「ウォーレス!」
「ちょっと、放しなさい!」
「ハハハ! この僕、キラキラ王子のホバート様に狙われるなんて、君はなんて幸運な獲物なんだ!」
「くっ、この!? 見た目はアホでもさすがオーク、なんと力が強い……!」
既に半分ズボンを引きずり降ろされているウォーレスが、ココに助けを求めた。
「勇者様、コイツをなんとか……!」
「うーん」
言われたココは横にしゃがんで、からみ合う二人をしげしげと眺めている。
「もちろん別人だと分かっているんだけどさ。でもウォーレスをセシル(偽)がハアハア言いながら手籠めにしようとしてるところって、絵ヅラが凄い強烈だな」
「呑気に見てないでえ!?」
「ギャッ!(
「どうしよっかな……魔王の前に出るのに、ウォーレスくらいは
しかし
「ウヒヒヒ、どんなに妨害されても困難にくじけない僕、カッコイイ……!」
「凄いな、ナルシストって。このポジティブさ、見習いたいね」
「ギャッ!(まったくだ)」
「だから助ける手を休めないで下さい!」
「困ったな……」
聖心力が無ければ、ココにはオークを引っぺがすような
どうしたものかと頭を(ちょっと)悩ましていたら、そこでアテになる彼が動き出した。
「ギャッ! ギャッ!(仕方ないな、俺の出番か)」
「ゴブさん!」
いつの間にか腰巻を脱いでいたゴブリンが、ウォーレスに襲い掛かった!
「ゴブさん、そっちじゃない」
「ギャッ!(そうだった)」
「トンデモな間違いをしないで!?」
ゴブリンはあらためて、ウォーレスを襲う
「ギャッ! ギャギャギャッ!(へっ、ビューティフル・オークは初めてだぜ!)」
「あぁっ!? ゴブリンおまえ、何をするんだ! 美しき僕は、ゴブリンごときが触っていい獲物じゃないぞ!?」
「ギャッ! グギャッ!(覚悟しろオークめ! 間抜けな魔法使いの仇を取ってやる!)」
「まだですから! 仇を取るより助けて下さい!」
義侠心なんだか個人的な欲望なんだか分からないが、助太刀に入ったゴブリンはナルシスオークを圧倒し始めた。
「ギャッギャッギャッ!(どうだ、悔しいか⁉ 俺は経験の数が違うぜ)」
「あああ、なんてことだ! ゴブリンみたいな美しくない化け物に、この女神も嫉妬する美しい僕がいいようにされるだなんて!? ……でも、醜悪なゴブリンに襲われて悲劇の主人公に堕ち行く僕……それもまた、美しいイイ!」
「コイツもコイツで、このおかしな自信は大したもんだな」
「感心してないで早く助けて下さいよ、勇者様!?」
なんだかゴブリン相手に気分を出し始めたホバート(仮)の注意が削がれて来たので、ココは隙を突いてウォーレスを
「あ、危なかった……あとちょっとでパンツまで奪われるところでしたよ!」
四つん這いになってゼーハー言っている悪の魔法使いの顔を、ちょっと気がかりなココは覗き込んだ。
「……もしかして、内心ノリノリだった? 助けるのちょっと早過ぎたかな……だとしたら気が利かなくて、ごめんな?」
「逆! 逆! 遅いですよ! もっと早くなんとかして下さいよ!?」
「ゴブさんも適当なところで切り上げてくれよ。まだ魔王戦が残って……」
せっかく助けてやったのに苦情を申し立てる魔法使いを無視して、ココが案内人に声をかけた。
そこへ。
「フフフ、僕を忘れているようだね! それは神が許しても僕が許さないよ!」
「あっ!?」
ココもすっかり忘れていた
「油断したようだね! 僕はゴブリンでもOKな博愛主義者なのさ!」
「ああっ、ゴブさん!」
「ギャッ!(しまった!)」
優位だったはずが二対一になり、ゴブリンが逆にビューティフル?・オーク二匹のあいだに挟まれてしまった。
「ギャーッ!(くそう、しくじった!)」
「ゴブさん、しっかり!」
「ハハハハ! 魔王軍四大イケメンの僕はレベルが違うよ?」
「あとの三人は誰なんだよ。というか、ゴブさん襲う前に部下を助けてやれよ」
「ギャッ! ギャー!(すまない! おれはここまでのようだ……)」
「そんな悲しいこと言うなよ、ゴブさん!」
「勇者様、私の時と態度違い過ぎません?」
「ナッツたちを気軽に見捨てたおまえが言うな」
「それはあなたもでしょ」
言い争ってる二人に、ぷるぷる震える指先でゴブリンが階段を指した。
「ギャッ!(魔王の部屋はすぐそこだ! ここは俺が食い止める! 急げ!)」
「でも、ゴブさんを助けないと⁉」
「ギャッ! ギャーギャッ!(いいってことよ。いいか勇者、覚えておきな)」
ニヒルに微笑んだ(らしい)ゴブリンは、(たぶん)最高のキメ顔で叫んだ。
「ギャッ! ギャギャッ!(掘っていいのは、掘られる覚悟のあるヤツだけだ! 俺にもとうとう、その順番が廻って来たってだけなのさ……)」
「そんな……!? ゴブさーん!」
「ギャーッ!(早く行くんだ勇者! 俺たちがイッちまう前にな!)」
◆
勇者パーティ一行は多大な犠牲を払い、ついに魔王の部屋までたどり着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます