【銀座の画廊】
今日は幸一の遺作展である。ヒロシは仕事を終えた後に向かった。場所は小さな画廊だった。賢二が入れ替わり立ち代わり客が来る客の対応をしている。賢二の姿は靴磨き屋ではない。清潔なジャケット姿に加えて、絵描きらしくベレー帽をかぶっている。ピケも剃って、いつもは日焼けしているような顔も、何故か白んで見える。ただ、手だけはおとしきれていない靴墨で少し汚れている。それは靴磨きというより絵描きの手と思わせるな、ヒロシはそう思った。
画廊に入ったヒロシは賢二に挨拶をした。
「賢二さん、展覧会おめでとうございます。そして・・お兄さんが亡くっていたこと、知らなかった。申し訳ない。」
「いやいや、積極的に話してないからね。実はね、2年前に千葉の方で交通事故でなくなったんだ。呆気なかった。」
「2年前たったんですか・・。」
「オヤジもね、もう歳で4年前に老衰でなくなったから・・、東京駅で露店の靴磨き屋は俺ひとりになったよ。兄貴の絵はたくさん残っていてね。たくさん観ていってくれ。良い絵をたくさん描いているんだ。」
ヒロシは混んでいる画廊の中を進みたくさんの絵を観て歩いた。ヒロシにはとても買えない値札をみて、幸一・賢二兄弟の絵の世界での地位が理解できる。それにしても・・、幸一がもういないことに涙腺をふたたび緩ませるヒロシだった。
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