【東京駅地下】

 今日の昼時のことだった。ヒロシは、客先からの帰りに乗換で東京駅を降りた。時計をみると少し時間がある。久しぶりに靴磨き屋に寄ってみることにした。地下から地上に上がり丸ノ内側に出てみると、いつの間にか光景が変わっていることに少々驚いた。東京駅舎の改築が終わり、さらに駅前の広場の工事も一通り片付いてすっきりしていた。


さて、靴磨き屋はまだやっているのか? 3年ほど寄っていなくて後ろめたさを感じている。

北口付近に行ってみると・・、そこはあまり変わっていなかった。そして靴磨き屋はあった。今日は弟の賢二が一人で営業していた。小太りだった賢二は少し細くなったようだ。髪には白髪も交じっている。


ヒロシ、

「おじさん、こんちは。久しぶりだね。仕事で通りかかった。いいかな。」

賢二、

「おー、久しぶりだね。どうぞ座って。」

賢二はヒロシの靴を磨き始めた。ヒロシは持っていたカバンを持ち上げて話題を振る。

ヒロシ、

「あれからオフィスが移転してね、中々これなくてね。ほら、このダレスバッグ、お兄さんに磨いてもらって、まだ、新品同様だよ。あれから来ていないんだ。申し訳ない。」

賢二、

「いやいやいいんだよ。たまにでもきてくれれば。ほぉー、カバン、いい感じだね。」


ヒロシは、少し考えて、これまで聞きたくて聞きたかったことを聞いてみようと思った。


ヒロシ、

「おじさん達って、ここで長く靴磨きをしてるっていってたけど・・。ほんとうは別の職業やっていて靴磨きは趣味でやっているんじゃない? なんか、そんな気がして・・。」

賢二、

「あれ? 知らなかったのかい。俺達は生まれながらの靴磨き屋だけど、もうひとつの仕事やっててね。ほらみてごらん。」

賢二は、横のズタ袋から絵はがきのようなの固い紙を取り出してヒロシに渡した。そこには花瓶に飾った絵の写真が書かれていた。

ヒロシ、

「えっ、もしかして・・。おじさんは絵描きさん?」

賢二、

「そうだよ。どっちが本業かわらなくなってしまったがね。靴磨き屋っていうのは偏屈な奴が多いけどね、俺達兄弟ともに絵でも食ってきた。」

ヒロシ、

「へぇー驚いたなぁ。絵のことはわからないけど・・、観に行くは好きだ。いい絵だね。そういえば賢二さんは大学で美術を勉強したって言ってたね。」

賢二、

「まぁ、大学では座学だから描くほうの勉強にはならなかったけどね。」


賢二は続けた。

「実はね、来月初めからこの店は暫く休業するんだ。展覧会を銀座で開くんだよ。展覧会って言っても小さな個展だけどね。その絵はがきの裏に場所と時間かいてあるから良かったらどうそ。」

ヒロシ、

「わかった。時間が合えば行くよ。」

賢二「はいっ、いっちょ上がり。出来たよ。仕事がんばれ!」

ヒロシ、立ち上がってオフィスへ向い歩き出した。

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