棗 - phatmans after school (saji)
スキマスイッチの「アイスクリームシンドローム」でも「あの夏へ」もそうですが、夏の曲が好きです。どちらかと言うと汗をだらだら流して「レゲエ 砂浜 bigwave!!」と騒ぐ曲よりも、どこか切なくなる曲が好きです。アツい歌はカラオケで聞き過ぎて食傷気味です。
今日の歌は爽やかな夏の曲。そして、どうしようもなく儚い曲です。まさに小説の種となった曲です。
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夏の終わり 蝉の鳴き声を聞いた
君の影が泡沫のように消えた
あの日の夢を見続けて
変わりゆく日々に手を振った
今更 僕はもう戻れない
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華やかで軽快なイントロ。まるで夏祭りの出店まで自転車を漕いでいるような疾走感、汗で張り付いたTシャツに心地よい湿った風が通り抜けてゆくようです。にも関わらず、歌い出しから耳に入ってくるのは「僕」のどこか浮かない心模様。あの日の夢とは、戻れないのはなぜでしょうか。
そんな傷心には構わず時間が過ぎる。人々は夏祭りの会場で楽しそうに時間を過ごして、空を見上げる。そして、大輪の花火が空に咲く時、「僕」の想いは抑えられなくなり、一気に噴き出すのです。
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忘れられない
どこにいてもだれといても
越えられなかった
君に会いたい
走る
僕は 僕は彷徨った
――――――――――
サビは綺麗なハイトーンで、もう決して目の前には現れない「君」への想いを歌いあげます。前半の歌詞はありふれたものなのですが、僕は後半の2行、『走る
ここにはもういない。そして、多分二度と会えない。それでも、あの時見た君の影を追いかけて、あてどもなく彷徨っているのです。
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鈴虫の音が鳴り響く頃
祭りの
星空に向日葵の花火が
輝いて消えた
――――――――――
今年も向日葵の花火が咲いて、また落ちる。
花は咲き、また落ちる。
去年も、今年も、来年も。
成す術のない時間の流れを感じます。冒頭でも夏の終わりとありましたが、鈴虫の音が鳴り響くことからも、夏が終わることが分かりますね。「僕」は夏以外の季節を「君」と過ごしたことがないんでしょう。それでも、最後に歌うように強烈な体験だった。何もかもを捧げてもいいくらい君が恋しかったのです。
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忘れられない
例え総てを失っても
構わないから
君に会いたい
走る
僕は 僕は彷徨った
――――――――――
曲の終わり。「僕」はやはり彷徨うのです。そこに救いは何もありません。再会を暗示することも、彼女を振り切ることもなく、ただ火薬が燃え尽きて煙が漂うだけとなった夏の空の下、「僕」はただ彷徨い続けるのです。
極彩色の花火の咲く夏祭り。それを象徴するような軽快で華やかなメロディーとは裏腹に、この「僕」はどこまでいっても救われない。そんなちぐはぐさが、沈みゆく夏にぴったりと嵌って何とも云われぬ感傷を胸に残していきます。
そして、なによりも大切なのは、この曲の中ではどうして君がいなくなったのか、過去に何があったのか、一切語られていません。ただ、僕は花火が打ちあがるのを見て、君の影を求めて彷徨うのです。
だから、僕は好きなように物語を練ることが出来ました。背景には滾々と透き通った涼しい夏の夜空が流れているのですが、その空の下で起こる物語を創作することが出来ました。
曲を聞いた後、気が向けば読んで頂けると嬉しいです。
なぜ、僕は彷徨っているのか。
忘れられない夏の夜。
この結末のその先へ。
夏の萌やし畑に芽が出ました。
棗の実がなるとき
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888695887
棗 / phatmans after school (saji)
https://open.spotify.com/track/0VDt0Hpjs4uWHxTjprsqvt?si=ByGBAGQvTEuUXNkekbcsBg
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