美しい名前 - THE BACK HORN


 選曲が偏りまくっていますが、気にしません。今日の曲はTHE BACK HORNバクホンの美しい名前です。バンドメンバーの友人の死を目の当たりにして、作られた曲だそうで、これでもかというくらい悲壮で美しい旋律で構成されています。PVもマッチVerとライターVerの二つがあり、どちらも傑作です。僕はマッチVerが好きです。

 

 メロディは静かに、そして流れるように。サビは命の灯を歌うように激しく。その対比が美しいですね。


 チャッ、チャッ、チャッ

 チャッ、チャッ、チャッ


 イントロから印象的なスタッカートの効いたベースの音。

 これは明らかに心電図の音でしょう。


 真っ白な病室が想像出来ます。


 ――――――――――


 泣きたい時ほど涙は出なくて 唇噛んでる真っ白い夜

 体中に管をたくさん付けて そうかちょっと疲れて眠ってるんだね


 ――――――――――

 

 ちょっと疲れて眠ってるんだね。

 美辞麗句。現実逃避。

 

 目の当たりにした残酷な事実を受け入れられない気持ちが表れています。それとも自分への慰めか。結構、人って極限の時は素が出ますよね。目を逸らしたくなるような現実から逃げようとする。自分に都合の良い言葉を探して何とか安心しようとする。


 僕も母ががんだと聞いた時はそうでした。がんって言っても「まだ大丈夫だろう」なんて、根拠のない希望的観測を持っていました。少し痩せたけれど、まだまだご飯だって作れるし、いつも待っててくれるし、口うるさいのは相変わらずだって。


 がんの良い所は覚悟が出来る所です。本人も、遺族も。母が嬉しそうにお医者さんから聞いたがんの良い所を話しているのが印象的でした。


 でも、突然の展開だとそうはいかない。

 だからこそ、ちょっと疲れて眠ってるだけなんだ、なんて自分を慰めているのです。


 ただ静かなメロディが病室に流れて行きます。心電図以外の音が無くなってしまったような病室の中で立ち尽くす。そして、サビの直前でどうにも出来ない自分への苛立ちが募っていきます。


 ――――――――――


 あぁ 時計の針を戻す魔法があれば

 あぁ この無力な両手を切り落とすのに


 ――――――――――


 これは自己犠牲の表象でしょうか。

 そこに寝ている人間の代わりに自分がなんてね。

 

 そう思うだけで、何も出来ないのは変わらないんだから余計に悲惨ですよね。誰もがそう思いたくなるのです。そして、無力感に打ちひしがれる。そこにあるのはただの妄想なのですが。


 ――――――――――


 何度だって呼ぶよ 君のその名前を だから目を覚ましておくれよ

 今頃気付いたんだ 君のその名前がとても美しいということ


 ――――――――――


 大切なものの大切さに気付くのはいつだって無くなってから。後悔はなくせないのでしょう。当たり前にそこにあるからと言って、ずっとあるわけではない。諸行無常。言葉の上では分かっているんですけどね。真摯に感じることは非常に難しいですよね。


 だって名前なんてありふれたものじゃないですか。どこでも見れるし、最初に耳にするし、変わることは滅多にないですからね。


 そこに込められた想いや響きが真に迫ってくることは稀です。毎回、真に迫られても困りますし。

 でも、ふと考えた時に、やっぱりそこに美しさを感じることがあると思います。今迄は気付いてなかったけれど、当たり前だと思っていたけれど、形は一緒なのにカタチを変えて浮かび上がってくることがあります。


 美しい名前。


 僕たちは、それに、いつ、気付けるのでしょうか。






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