赤黄色の金木犀 - フジファブリック


 切ない曲シリーズ、続きます。


 というか、切ない曲も話も大好物なので、必然的に多くなってくると思います。先に了解を得ておきます。お願いしますね。


 今日はフジファブリックの名曲です。メジャーデビュー後、春夏秋冬をテーマにシングルを発表してきたフジファブリックの3rdシングルに当たります。


 僕はこの曲がどうしようもなく好きです。正体のわからないやるせなさが襲ってくるような、何故だか分かりませんが涙が出てくるような、そんな得体のしれない感情に見舞われます。


 この曲の構成は、Aメロが繰り返されて、サビへ突入し、Bメロの後に大サビとなっています。歌詞、曲の構成、メロディから何から、どこを取っても凄いな、という感嘆しか出ません。


 ――――――――――


 もしも 過ぎ去りしあなたに

 全て伝えられるのならば

 それは 叶えられないとしても

 心の中 準備をしていた


 ――――――――――


 冒頭のギターのメロディからなにやら物悲しいセピア色の秋の匂いが漂ってきます。そして、肌寒い秋の風。その中でゆっくりと歩く、僕。何故、こんなにも空しいのでしょうか。それは過ぎ去ったあなたに、全て伝えられないからではありません。でも、そのことには触れず、淡々と時間は流れていきます。


 そこから一転、あることをきっかけに、衝動に襲われる「僕」の気持ちが盛り上がっていきます。


 ――――――――――


 赤黄色の金木犀の香りがして

 たまらなくなって

 何故か無駄に胸が

 騒いでしまう帰り道 


 ――――――――――


 淡々とした頭の中が、匂いによってかき乱される。


 この嗅覚がもたらす不思議な感覚を用いている所がたまりません。この効果は「プルースト効果」と言われます。香水を嗅いで昔の恋人を思い出したり、雨の匂いを嗅いで幼少期を思い出したり……。

 嗅覚は五感で唯一、情動や記憶に関連する大脳辺縁系に直接結びついています。そのため、人は匂いを嗅いで何かを思い出したり、感情が掻き立てられるのです。


 そして、の金木犀ですね。


 単色じゃないんです。色んな色が混じっている。記憶と言うのは曖昧で、ぼやっとした存在。匂いも感情も刻一刻と移り変わる単一でない混じった存在。だから、オレンジ色でもなく、橙色でもなく、赤黄色という表現にしたのだと思えます。これも見事ですね。

 

 金木犀の香りによって胸が掻き乱されると、またも曲調は一転します。


 ――――――――――


 期待外れな程 感傷的にはなりきれず

 目を閉じるたびに あの日の言葉が消えてゆく


 ――――――――――


 この言葉。

 この言葉こそが、この曲の最も象徴的で、印象的で、感銘を与える核心だと思います。


 この曲は単に、過ぎ去りしあなたを惜しんでいるのではありません。過去の人を金木犀の香りで思い出してセンチメンタルになっているのではありません。感傷的にはなりきれないのですから。


 では、なぜ、この曲は物寂しいのか。

 

 何故、自分の胸が騒ぐのか分からない――からです。


 確かに、過ぎ去ったあなたのことを想っている。金木犀の香りでたまらなくなった。

 でも、何故たまらなくなったのか、分からないのです。


 残酷なほどの時の流れ。春が過ぎ、夏を越えて、秋になった四季の流れ。ここに見出されるのはそれに押し流された大切ながあった、ということ。それがこの曲の本質だと思います。感傷的にはなれないし、目を閉じる度に、あの日の言葉が消えていってしまう。記憶というものはどうしてこんなに曖昧で、頼りないものなのでしょうか。昔は持っていたのに、忘れてしまった何か。確かにあったのに、気付けば無くしていた何か。


 それが、金木犀の香りによって「何かがあったんだ」と(強制的に)思い出されるのです。


 だから、この曲は聞いた人々に泣きたくなるような、正体不明の感情を与えるのだと思います。


 、胸が騒いでしまうのです。






 やっぱり、聞けば聞くほど素晴らしいですね。


 逝去されたVo.志村さんが本当に惜しまれます。

 金木犀の香りを嗅いだ時、この曲を思い出してみて下さい。


 記憶は薄らいでゆくけれども、

 確かにそこにいた存在に、何故か、たまらなくなります。







 赤黄色の金木犀 / フジファブリック

 https://www.youtube.com/watch?v=JhAhSzYzhS4


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る