◆コラム#2 リリックスピーカーが欲しい


 皆さんはリリックスピーカーってご存知ですか?


 その名の通り、リアルタイムで歌詞を表示してくれるモニター付きのスピーカーです。この説明だけを聞くと、何だか素っ気ないデバイスのような気がしますが、歌詞はもちろん曲の構成、抑揚、サビの盛り上がり、それらを含めて視覚的に表現する優れものです。物語色が強い歌詞なら尚更その世界に没入出来るでしょう。


 とは言っても、百聞は一見に如かず。

 先にどんなものか見てみて下さい。リリックスピーカーを映しているMVです。もちろん、素晴らしい曲なので歌詞と共に物語を感じましょう。


 自虐家のアリー / amazarashi

 https://www.youtube.com/watch?v=Fv7ldgocZRs


 



 

 amazarashiさんは僕が大好きな歌手の一人です。

 ポストアポカリプス(終末世界)での生活や、理不尽に押し潰されそうな人物を舞台に物語を創ります。そうです。曲ではなく、もはや物語なのです。


 曲によって物語が萌えることが多々あるのですが、amazarashiさんの曲で物語を創るのは非常に難しい。なぜなら、既に完結してしまっているから。それ自体が迫力を持って真に迫ってくるようなストーリーを持っているからです。


 二次創作を作るのには、ある程度余白があった方が書きやすいと言いました。その意味でamazarashiさんの曲から二次創作するのは個人的に引け目を感じるのですよ。既に物語が出来てしまっていて、それ以上語る必要を感じない曲が多いのです。


「自虐家のアリー」もその一つですね。

 虐待。機能不全家族。愛情。海の底。


 ――――――――――


 お前なんかどこか消えちまえと 言われた時初めて気付いた

 行きたい場所なんて何処にもない ここに居させてと泣き喚いた

 

 ――――――――――


 なんて悲しい恋慕でしょうか。それでもアリーは愛に縋るしかないのです。海の見える部屋の中でぽつりと置かれたリリックスピーカー。その中に流れ出る言葉の数々。このMVを観て、僕はだけでない感情を覚えました。

 

 視覚。

 それは僕たちが頼り切っている重要な感覚。

 

「歌を聴く」ことは、「歌詞を知る」こととは切り離せないと思います。旋律と言葉が耳に入るだけでない。その目で文字を見たからこそ感じることがある。感覚を更に深くさせることがある。普段何気なく聞いていたその曲の歌詞をじっくり読んだ途端、全く異なる曲に聴こえてくる経験をしたことはありませんか?


 僕はあります。


 だからこそ、僕はこのエッセイで「歌(曲)を文字で表現している」のであり、初めて聴くものであっても、感じ取れるものが多くあって欲しいと願っているのです。


 ――――――――――


 あの人が愛した 父さんが愛した

 この海になれたら 抱きしめてくれるかな

 

 ――――――――――


 歌詞を見ることが出来るからこそ、アリーのいじらしく倒錯した愛が、輪郭を際立たせて胸に刺さります。amazarashiさんの世界に没入出来ます。


 僕はリリックスピーカーが欲しい。

 それは「見る」ことが、「聴く」ことに大きな影響を与えるからに他なりません。


 曲を創り上げた人の想いが、文字を通しても影響を与えるのです。



 


 さて、気になるのはそのお値段。

 ちょっと覗いてみましょう。


【Lyric Speaker】324,000円(税込)

【Lyric Speaker Canvas】178,200円 (税込)



 ……


 …………

 


 僕は価格を見た時、この目を疑いました。

 観ることは聴くことを深める。とは言ったけどさぁ……。


 見なくて良いこともたまにはありますよね。

 文字が無ければ現実逃避も出来るってものです。


 価格を見て、僕はそっと目を閉じました。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る