12章 不安定な心と最高の選択

「…………テラさん!」

「…ん。ここは…?」

「テラさん、いきなり倒れて…、心配しましたよ!」

「…?…えっ、あたしは…」

いつの間にかあたしの中に私はいた。自己欲に押しつぶされそうだったあたしは私に頼っていた。…あたしの方がよっぽど我儘なのに、それでも私を苦しめた。答えなんてあたしは…。

ふと気がつくとみんなが私を心配していた。みんなが求めているのは私であってあたしじゃない…。誰より孤独で一人よがりなあたしは選択を迫られていた。

「…もしかして、クロステラさんですか?」

イルマは様子がおかしいことに気がつき察したようだった。

“あたしを心配してくれるなんて…。いや、でも彼が欲しいのは私であってあたしじゃない。ああもう!考えるのは苦手なのに。”

「あ、あたしにも分からないけど…、しばらくはあたしが動く。だから、あんた達は心配する必要はないよ。」

あたしには動く足がなかった。今は足があるが道標はなかった。


「ここがセーラ様の居城です。あの方は…」

「そんなのはいいよ。あたしたちが彼女に会う。それから決める。」

目の前には古びた館があった。

「ちょっと!冷たすぎない!」

「お姉さん、ちょっと変だよ。」

ラウラとレイはクロステラに対してあまりよく思っていなかった。当然だ、今は私じゃないから。あたしなんて目にない。きっとあたしなんかより私を求めてるんだ。必要にされてる…少し羨ましいかな。

「あたしだけで行く。みんなはここで待ってて。」

あたしは扉を開けて進む。この束縛から早く逃れるために。

…………………

どれだけ廊下を進んだのだろうか。あたしは頭の中で考えた。選択なんてしたことがない。何もかも本能という名の感情に任せて、“わがまま“にいた。そこに分岐なんてなく一本道だった。決まった選択(エンディング)に進むだけ。

「クロステラさん!」

後ろからあの少年の声が聞こえた。どうせ私はどうなったのかを知りたいだけなんだ。

私はそのまま気にせず進み続けた。

「クロステラさん!!」

彼はあたしの腕をつかんだ。

「私はあたしに託した。だから、みんなの為に私に戻ってきてもらう。あたしなんて誰も必要としていないから。」

「みんなクロステラさんも必要としてます!だから、みんなはエクステラさんもクロステラさんも一緒に待ってます。」

「あたしのどこに必要性なんかあるの。あたしには自分だけの…孤独の“悦び”しかないから。」

「違います。悦びだって自分だけじゃ成立しませんよ。何もないことを笑えるのですか?誰かのことや出来事を自分だけで笑うことができる。それは誰よりも自由で…」

いつの間にかあたしは泣いていた。泣いたことなんて一度もなかった。笑えないよ、こんなこと。そっか、あたしにも何もないわけじゃなかったんだ。

「ねぇ…、あなたはあたしのことも愛してくれてるのかな?」

その声は遅れて聞こえた。それは何よりも静寂で、あたしに刻み込まれた。

「…………はい。当然ですよ。クロステラさんもエクステラさんも幸せにします。」


「そっか。じゃあ、あたしもテラさんって呼んでほしいな。アハ、もう嫉妬しちゃうよ。」

あたしはその返事を聞くことなく走り出した。やっと見つけ出した最善の選択(ハッピーエンド)へと…。



セーラは屋上にいた。

「やっときたわね。」

「アハハ、こうやって対面するのはあの時ぶりだね。」

「そう、“あなた“なのね。」

「やっと分かったあたしの答え…」

あたしは左手の銃口を自身の頭に向けた。

「ちょっと、あなた!」

「これが誰も不幸にならない選択…」

そして、引き金を引いた。それは弾が入っていたがそれは音のみを伝え、何も起こらなかった。そして右手に持った銃でセーラを撃った。

セーラは焦りながらもギリギリで守りきった。

「アハハハ、そうでなくっちゃ!」

「もうあなたに読まれるのは分かってる。だから、初めからクライマックス…」

セーラはとても巨大な魔法の球を生み出し、投げつけた。

「ふぅーん。面白いね。」

クロステラはそれを見ただけで完全に模倣した。

「なっ…」

それはセーラも下で見ていたローラも驚いた。

そして二つの魔法球は相殺した。


二人は向き合っていた。

「ねえ、あなたはどんな結末がいいの?」

「何なのかな。私はいつの間にか何もかもどうでもよくなってた。いつからなのか?」

「みんなが幸せになれる。そんな夢、あたしも目指してみようかな。誰かと一緒に笑うのもきっと………」

あたしの意識は途切れた。


“ねぇ、やっと分かった気がする。あたしたちじゃなくて、あたしとして在ることの意味が。”

“ふふ、見つけられたんだ。よかったね。”

“でもね、主人公は私だよ。あたしじゃない。”

“いいの?”

“アハ、当然だよ。エクステラとしての夢、見てみたくなっちゃった。”

“きっと、無理だとしても…ね。”

“アハハハハ!それもいいかもね!あたしは私の夢を全力で支えてあげる。”

“あのさ、私って呼ぶのやめてくれないかな。”

“アハ、そうだね。頑張ってよ。エクステラ…”



「テラさん!」

イル君の呼ぶ声で起きた。

「ん…、ここは。」

「テラさん…」

イル君の表情は少し暗くなった。

「だ、大丈夫だよ、イル君。クロステラちゃんはいるから。」

「そ、あたしもちゃんといるよ。アハ、もしかして心配してくれたの?…えっと、その…あ、ありがとう…」

そこにいたのはエクステラとクロステラだった。


どうやら今までは二人は分離することができたが、いつの間にか少し身体能力が劣ってしまう代わりに二人それぞれで長時間行動できるようになっていた。

「みんな心配かけてごめんね。」

二人で謝っていたがその様子はここに来る時よりも明るかった。

それを見守ったローラはセーラのもとへ向かった。


「セーラ様、皆さんはもう向かうようですがどうしますか?」

「…ねぇ、私ってどこで間違えたんだろう…。」

「別にどこも間違えてませんよ。どれも私たち大人が悪いのですから。」

「ふふふ、私ってこんなにも未熟だったんだね。」

「そうですよ。魔法だけでなく他にも教えることはまだまだありますよ。」

「懐かしいね。ふふっ、これからもよろしくお願いします、ローラ先生。」

「さて、どうしますか?」

「もちろん決まってるでしょ。」




―選択の先へ収束していく、理想の結末(エンディング)へと―


「さぁ、そこに見えるのが魔王城だよ。やっとここまで来れた。」


―過去も未来もない者と過去には未来がない者―


「つまんない、おもちゃも友達もみんな壊れちゃった。でも、新しいおもちゃ見つけた。」


―無意味な夢を掴むために―

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