10章 笑顔の先の幸せ

イルマたちはドラゴンを相手に苦戦をしていた。レイが加わったにしても防戦一方に変わりはなかった。全員がギリギリの状態で粘っていた。

「貴様らもそろそろ燃え尽きるがよい。」

全てを飲みこむように大きな炎が全員を襲った。しかし、その炎は何事もなかったように消え去った。

「…ねぇ、あなたの意味って何?」

そこには倒れていたはずのエクステラがいた。彼女の姿は半透明であったが右側に羽が生えているように見えた。その姿はとても朧気で、存在を強く感じる。とても生き物ではないような雰囲気であった。


エクステラは耐えていた。少しでも気を抜くと自分が消えてしまいそうなほど全てが薄れていった。でも絶対に消えないものが彼女を縛り付けていた。大切な友達、護るべきもの。それに…帰るべき因果(ばしょ)。彼女は不安定な虚無の力を強い意志で制御していた。


「私は、あなたの幸せも祈りたい。でも、たくさんの幸せを糧に得る幸せは許せない。私にとっての唯一の自分勝手…、私の…私たちの幸せを邪魔させない!!!」

エクステラが剣を振るうと目の前にいた巨大なドラゴンは消え去った。


エクステラの姿が鮮明になっていくと同時にエクステラは倒れた。

「テラさん!」

イルマはすぐに駆け付けエクステラを起こした。

「あはは、ごめんね。この力を使うとしばらく感覚がおかしくなっちゃうんだ。」

「テラさん…この力は…?」

「アハ、そうだね。あたしたちが得るはずではなかった力だね。あたしたちはあくまでも感情の欠片、神様にとってはただのアプローチの一つだからね。」

そこに現れたのはクロステラだった。クロステラは衰弱していたエクステラを背負った。

「どこか安全な場所で話すよ。あたしが知ってるあたしたちの真実…」


ラウドの家に戻り、エクステラを寝かせた後、クロステラは全員に真実を話し始めた。

「あたしはこういうのってあまり得意じゃないけど、とりあえず昔話からだね。」


~昔、兄妹がいた。兄妹はお互いの全てを愛した。しかし、2人の親は禁忌を犯してしまった。そして、兄妹は虐げられていった。妹はそれすらも幸せに感じていた。でも、兄は違った。兄は妹を護るため禁忌に踏み込んでいった。そして…妹を護るための力を手に入れた。でも、意味なんてなかった。なぜなら、代償として妹を失ってしまったから。~


全員は聞き入っていたがラウラが問いかけた。

「どうして妹さんを護ろうとしたのに妹さんを犠牲になんてしたのかしら?」

それにイルマが答える。

「誰だって目的のために手段を用いる。場合によっては犠牲も生まれる。その犠牲に目的が選ばれてしまうほど欲望に駆られる人もいる。僕だって、レイだってその被害者だ。だけど、その話の兄はそんなレベルではないほど狂っている。」

「アハハ、言ってくれるねぇ。これからが本題。」

~妹は兄が手に入れた創造の対極である虚無に囚われた。そこで感じるのは永遠の孤独と自身の存在喪失。途中破壊と出会うもやはり孤独。少女は幸せの夢に託すことにした。喜怒哀楽のそれぞれの形で、いつか兄に会えるならどの幸せが兄にとっての幸せなのか知りたかった。もう一度古き幸せに戻るために。~

「そうして生まれたのがミリ・エクステラ。あたしたちは兄に出会い愛する運命を組み込まれている。兄への愛と元の感情にしか囚われない。いうなれば、シミュレーションの人形のような存在。」

「でもエクステラは世界を渡ることによって運命から外れ、性質すらも塗り変わった。おそらく、この虚無の女神の力を使えた原因がそれだと思う。塗り変わった性格は二つ。一つはあたしという存在が分かれたため感情が分割されてしまった点。もう一つは…」

クロステラはイルマに近づき肩を叩いた。

「君だよ。君は何となく兄ちゃんに似てる気がする。別世界に来ても運命に囚われ続ける運命なのかもね。アハ、ワクワクしてきちゃうよ、ホント。」

「それじゃあ、僕がテラさんに惹かれたのって…」

「ん~、運命…なのかもね。あたしにも分からないけど…。アハ、あたしったらまた柄にもないことしちゃった。でも、あたしはそう決めたから…。」

イルマが崩れ落ちる姿は場の全員が見ていた。積み上げていたものが消え去っていく彼に声をかけられる者なんていなかった。そこへエクステラが起きてきた。

「イル…君。聞いちゃったの、全部…。」

「フフ、ごめんね。でも、知ってもらわないと、ね。隠し通せるわけないから。」

「イル君、運命なんて関係ないんだよ。私は私、イル君はイル君の意思で魅かれあった。それが運命の通りでも私たちが変わることなんてないから。」

「そう…だよね。僕が間違っていたのかもしれない。」

その光景を見届けた魔導士が動き出した。

「私や魔王様の過去も貴女の過去には及ばない…。私たちの過去には未来がないけど、貴女の過去は未来すらも白く塗りつぶされている。…………私には決められない。だから、次に会うときは敵として会うことになるわね。」

エクステラは今までイルマのことでしか笑わなかった魔導士がローブの下で笑っているように感じた。

「魔導士さんの過去がどんなものであっても、魔導士さんが優しいのは知ってるから。だって、魔導士さんは私たちを否定しない。だから、また会って魔導士さんも幸せにして見せるから!」

外へ向かっていた魔導士はその言葉を聞き、歩みを止めてつぶやいた。

「勇者のことは嫌いだけど、過去を聞いてエクステラのことは好きになったよ。私を幸せにしてくれるなら私の過去を探りなさい。ありがとう。………そして、ごめん。」

魔導士は走ってどこかへ行ってしまった。

決意を胸にした一行は魔王城へと向かっていった。

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