6章 凍った少女と狂気の心
森を抜けると雪原に出た。
「おおお、ここは寒いね~。」
エクステラが寒くなさそうに言った。
「いや本当にどうなっているんですか?テラさんの体…。」
エクステラは答えた。
「さぁね~。」
そして二人は雪原を進んだ。
雪原を進むと村があった。
「おお、村があったよ~!…、イル君?」
エクステラが振り向くとイルマが倒れていた。
「イル君!しっかりして!」
イルマを起こそうとしているエクステラの前に一人の少女が現れた。
「大丈夫ですか?良ければ、私の家で休みませんか?」
エクステラは何かを感じ取った後、答えた。
「うん、お願い!」
その少女の家に来たエクステラはイルマの様子を少女に聞いた。
「ありがとうね、私はエクステラっていうの。あなたは?」
少女は一切表情を変えずに言った。
「んと、私はレイ。」
エクステラはレイの手を握って笑顔で話した。
「ふふ、レイちゃん、よろしくね。」
レイは驚いて言った。
「あなた、手は…!…いえ、何でもないです。」
レイは手を振り払って言った。
「少し、頭を冷やしてきます。家は自由にしてどうぞ。」
レイが出て行った後、少し経ってイルマが起きてきた。
「テラさん…、ここは?」
「イルマ君、大丈夫?」
「いや、僕は大丈夫ですけど…。」
「ふふ、ここはレイちゃんって子の家だよ。私たちを助けてくれたの。」
「その人はどこに?」
「う~ん、分かんないけど、多分、目的の子は彼女だよ。」
イルマは驚いた。
「えっ?じゃあ、その人を助ければいいんですか?」
「でもね…」
エクステラは自分の手を見て言った。
「彼女、レイちゃんは特殊な力があると思う。触れた時に何かの力があったみたい、私には効かなかったみたいだけどイル君は触れないように気を付けてね。」
レイが帰ってくるとイルマの姿を見て言った。
「起きてたんだ、体調はどう?」
イルマは慌てて言った。
「だ、大丈夫です。」
レイは言った。
「そう…。外は猛吹雪だから泊るといいよ。」
エクステラは答えた。
「ふふ、お言葉に甘えて。」
二人はレイの家で泊まることにした。
深夜になってエクステラは一人で寝ていた。そこに誰かが近づいてきた気配を感じるとエクステラは寝ながら言った。
「ねぇ、そこにいるんでしょ、レイちゃん。多分、私を始末するように言われたのかな。私をだますにはまだまだだね。私ってこう見えて勘が鋭いんだから。」
レイは答えた。
「だったら、私を倒すの?」
「ううん、私はレイちゃんを救いたいの。レイちゃんの笑顔、見てみたいなぁ。」
「私は心を売ったの。そんな私が笑顔になるなんてありえないよ。」
「ふふ、私が手を握ったときに驚いていたでしょ。レイちゃんの心はまだ凍ってなんかいないよ。」
レイは泣き崩れた。
「…なんで…!私は…!みんなみんな悪いのに!私は悪くない…のに。」
エクステラはレイに近づいて抱きしめた。
「…え?なんで…、私に触れたら凍っちゃうんだよ!」
「私はそんなこと感じないから大丈夫。それよりも、レイちゃんの方がよっぽど苦しいはずだよ。何があったか、教えてほしいな。」
「…うう、分かった。私はお母さんとこの町で暮らしていた。だけど、突然お母さんの様子が変わった。その時からこの町では人が凍る事件が起こっていた。そして突然、お母さんがいなくなった。気がついたら私にこの力があった。この力が呼ぶままに山奥へ向かうと大きな氷の結晶があって、“お母さんを救いたければ感情を凍らせろ”って言われて…。」
エクステラは答えた。
「うん、レイちゃんは独りが寂しかったんだね。私がお姉ちゃんになってあげるなんて、ダメかな?」
「…エクステラお姉ちゃん…!ありがとう。」
その時、確かにレイは笑っていた。それをエクステラは見逃さずに心に留めた。
エクステラとイルマの二人は黒幕がいると思われる山奥へ向かうことになった。
「お姉ちゃんたち、本当に大丈夫?」
エクステラは張り切って答えた。
「ふふふ、任せなさい。レイちゃんは休んでていいからね。」
そして、2人は山奥へと向かった。
山奥には怪しい洞窟があった。その中へと入っていくと巨大な氷の塊があった。
「これがレイちゃんの言っていた結晶ね。」
結晶を壊そうとした瞬間、結晶からとんでもない程の冷気が吹き始めた。そしてそれと同時に声も聞こえた。
「我を壊そうとする者は誰だ!…………ほぅ、其方は勇者か。あの娘は失敗したようだな。よかろう、我が其方を凍てつかせる。」
その後に結晶から小さな結晶がエクステラに向かった。
「テラさん、危ない!」
イルマはエクステラの前に立ちふさがった。しかし、エクステラはイルマを押し倒してその攻撃を自ら受けた。イルマは呆然としていた。イルマの目の前には眠るように倒れているエクステラの姿があった。
~エクステラサイド~
エクステラが目を覚ますと真っ暗な場所にいた。
「あれ?私はあの攻撃を受けて…。」
「アハハ、やられちゃったみたいだね。もう1人の私♪」
そこには自分とそっくりな自分がいた。
「あなたは?」
「アハ、ハハハ。まだ気づいていないの?鈍いね。」
エクステラにはさっぱり分からなかった。彼女は狂気的笑いを続けながら言った。
「あたしと私は明らかに違うの。あなた、つまり私はあたしとはもともと同じ存在でも違うの。」
エクステラは混乱したが、彼女ははっきりと言った。
「あのね~、簡単に言うと、あなたもあたしも同じミリ・エクステラなの。でも、2人とも本当の『喜び』を持っていないの。」
~イルマサイド~
「テラさん!」
どれだけ声をかけても、エクステラは起きなかった。それをあざ笑うかのように氷晶は答えた。
「バカめ!勇者の魂を凍らせたのだ。じきに勇者は死ぬだろう。」
イルマはただ絶望して立ち尽くした。そして追い打ちをかけるように小さな結晶がイルマに向かっていく。その攻撃をイルマが受けようとした瞬間、イルマの前に巨大な氷の壁が現れ、攻撃を遮った。
「危なかった。感謝してね。」
そこにはレイがいた。
~エクステラサイド~
エクステラはいまだに理解できていなかった。そんなエクステラに彼女は呆れながら言う。
「はぁ~、つまんない反応。要するにあなたはこの世界に来てから違和感を感じてるでしょ。そして、あなたはこの世界では作り笑いしかしてないよね?」
エクステラは考えてみた。確かにこの世界に来てから他人の笑顔を見たいままに自分は本当の意味で笑うことはなかった。彼女は言った。
「アハ、やっと分かった?あたしが自身の幸せを尊重する『悦び』なら、あなたは他人の幸せを尊重する『慶び』だね♪」
やっと分かった気がする。おそらく私はこの世界に来るときに性質が変化してしまった。元は『喜び』の感情だった私が2つに分かれてしまった。突然彼女は焦り始めて言った。
「おっと、時間がない。あなたは今危ない状況だから、あたしがあなたに代わってエクステラとしていてあげる。」
「だめ!!!」
エクステラは反射的に叫んだ。
「どうして?あなたはあたしなんだよ。あなたがあたしに代わっても同じなんだよ。」
「だめなものはだめ!私はまだみんなの笑顔が見たいの!みんなを笑顔にしたいの!」
彼女はエクステラの答えに首を傾げた。
「なんで?他人が幸せになったって、あたしに何の面白みもないじゃん。」
「あなたはどうしたら幸せになるの?」
エクステラの突然の質問に彼女の表情が暗くなった。
「どうしてって…、ただただ面白いから?」
「私はあなたの幸せも、本当の笑顔も見てみたいよ。」
「なんで…、あたしもあなたなんだよ!あなたが自分の幸せなんて…。」
「“私“はどうだっていいの。あなたのそんな狂ったような自暴自棄な笑顔じゃなくて、ただ普通に笑ってほしいの!」
彼女はにやりと笑って答えた。
「本当に?あたしはあなたなのに…。それでもいいの?」
エクステラは満面の笑顔で答えた。
「うん!私たち、2人で本当の『喜び』になろうよ!」
彼女は笑って答えた。
「ふふっ。それも…いいかも、ね。…アハ♪」
一瞬、彼女は優しく笑った。それを見て、エクステラも笑顔になった。
~レイサイド~
氷晶の攻撃をイルマから護ったレイは覚悟を決めていた。自身の力は氷晶の力の一部だ。氷晶に勝てるはずがない。それでも、レイは希望に懸けていた。心が凍ったままであったら絶対に勝てなかっただろう。だけど、勇者は凍った心を溶かしてくれた。いや、元から凍ってなんかいなかったかもしれない。でも、私は久しぶりに心から笑ったり、泣いたりした。勇者に協力して恩返ししたい。ただその一心だった。
氷晶が私を見て言った。
「其方は裏切り者ではないか。勇者は始末した。其方ももう用済みだ、せめてきれいな氷像となれ。」
レイはこの場で死んでしまってもいいと思っていた。ただ一人の大切な人の為に死ねるなら。
~エクステラサイド~
「アハ、もうそろそろ私は死んじゃうかもね。でも、あたしが代わればまだ生きられる。」
彼女が言うにはエクステラの命はもう長くはないらしい。
「………それは、どうかな?」
彼女はその答えを聞くとあることを察知した。
「アハ、私は頑張り屋だからね。もしも、あたしの力が必要になったら呼んでね。あたしも含めて本当の『喜び』だからね。」
エクステラは彼女に背を向けて、思い出したかのように言った。
「あっ、そうだ。2人一緒だとややこしいからね。ん~、そうだね。あなたの名前、クロステラちゃんでどう?」
「アハ、あたしにも名前くれるんだ。ありがとう、嬉しいよ。」
エクステラは彼女の顔を見なくても分かった。彼女、クロステラは心から笑っていた。
~イルマ&レイ サイド~
レイの意識は途切れそうだった。でも、きっとお姉ちゃんは戻ってくる。そう信じていた。既にレイの体の半分以上は凍りついていた。
「レイさん!これを!」
イルマはボールを投げた。レイがそのボールを受け取ると、そのボールから暖かさを感じた。その暖かさは私の体を温めるようなものではなかった。でも、私の心は温かくなっていた。
「ありがとう!私、頑張るから!」
その時、氷晶はとてつもない程の冷気を一点に集めていた。
「心などいらない!まずはお前から凍らせてくれよう。」
その冷気がイルマに向かっているのを感じ取ったレイは護ろうと動いたがこのままでは間に合わない。
「だめー!」
レイはあの光景を、人が自分のせいで凍ってしまうのを二度と見たくはなかった。レイは目をつむった。その後、聞き覚えのある希望の声が聞こえた。
「もう…、大丈夫だよ。」
レイが目を開けるとイルマの前にはエクステラがいた。エクステラの右手には白い短剣、左手には黒い短剣が輝いていた。
エクステラが復帰したことは氷晶にも予想外だったらしい。
「バカな!なぜ勇者が生きている?!」
エクステラはいつものように笑って答えた。
「ふふっ、私は独りじゃないから、かな?」
氷晶はあることに気づいた。勇者が先ほどまで左手に持っていた黒い短剣が無くなっていた。それに気づくのはあまりに遅すぎた。氷晶の前には左手に黒い短剣を持った勇者がいた。
「なぜ勇者が二人いる?!」
もう1人の勇者はいつものような狂気的な笑顔のまま言った。
「アハハ!本当に面白いね、この体!」
魔法球と素早い剣幕で氷晶は崩れていった。
「アハハ♪あれ?もう壊れちゃったの?つまんないなぁ。」
それを呆然と眺めていたイルマとレイだったが、イルマはハッとして問いかけた。
「…テラさん。何があったんですか?」
エクステラはそれに答えた。
「ん~とね、彼女はもう一人の私のクロステラちゃんだよ。あれ?」
気づいたころにはクロステラはいなくなって、剣はエクステラが持っていた。
(あ~、クロステラちゃんは人見知りだから…)
エクステラは笑ってごまかした。
村に戻った3人はレイの家で話していた。
「要するにテラさんは新しい力を手に入れたと。」
「うん、私たちの新しい武器『ハッピー&クレイジー』だよ。これを使うとね、私たち二人で行動できるんだ。」
イルマとレイはあまり理解していなかったが、エクステラは今まで以上に明るくなっていた。
「本当にレイちゃんは残るの?」
村を出るときにレイは突然残ると言った。
「うん、ちょっと用事があって…。お姉ちゃんたちはグランド・スパイラルに行くんでしょ。用事が終わったら、私も向かうから。」
エクステラはレイの手を握って言った。
「うん♪約束だよ!」
レイにとってその約束はとても嬉しいことだった。
出発した二人を見送ったレイは後ろの気配に笑って言った。
「そこにいるんでしょ。呼んでくれてありがとう。」
そこには大魔導士がいた。
「私は貴女が苦しんでいるのを見逃せなかっただけよ。これは魔王様には秘密だけどね。」
レイは笑っていた。それは今までの彼女ではできなかったことだ。それを見ていた大魔導士も少し笑っていた。
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