4章 揺れ動く恋路
二人は砂漠にいた。とても疲労しているイルマに対して、エクステラはとても元気だった。
「テラさんはすごいね。こんなに暑い中でも元気だなんて。」
エクステラはイルマに聞き返した。
「ん?疲れたの?だったらおんぶしてあげようか?」
イルマは顔が真っ赤になった。それも当然だ。突然好きな女の子におんぶしてもらえるチャンスだが、とてもそんなこと恥ずかしくてたまらない。
「…い、いや。自分で歩くからいいよ。」
いつまで経っても“好きだ”なんて言えない。こんな自分を振り返ってみるといつしか自分はテラさんの笑顔が好きなだけでテラさんが好きなわけではないなんて思ってしまうことがある。もしも、テラさんの笑顔が見られなくなったときに自分はどうしてしまうのか…考えても分からない。
そんな二人の目の前に謎の遺跡が突然現れた。二人はその不思議さに首を傾げた。
「テラさん、こんな遺跡あったっけ…。」
エクステラはすぐにいつもの笑顔を見せて答えた。
「う~ん、まぁどうでもいいよね!ね、行こう。」
エクステラはイルマの手を引き、二人は中へ入って行った。
中はとてもじめじめしているが、特に何も起こらずに最深部らしい場所へたどり着いた。そこには一つの箱があり、“勇者のアイテム”と書いてあった。こんなに分かりやすいトラップにイルマは苦笑いをした。
「こんな分かりやすいトラップ…。誰がひっかかるんだ…。早く出よう、テラさ…」
イルマがエクステラを見た時にはすでにエクステラはその箱を開けていた。そしてどこからか笑い声が聞こえてきた。
「はっはっは、トラップにかかったようだな、勇者よ。我は魔王軍のカースゴーストだ。その箱を開けた者は消滅する呪いをかけた。解くには我を倒さなければならぬ。実体のない我を倒せればな。」
イルマはエクステラに駆け寄った。
「テラさん!大丈夫ですか?」
エクステラは答えた。
「ううん、何ともないよ。」
イルマはエクステラに違和感を覚えた。謎の声は驚いて言った。
「な、我の呪いは絶対だ。くそ、後で自ら倒してやるからな。」
そして気配はなくなった。
イルマはエクステラの違和感に気づいた。それはエクステラ本人も気づいていた。エクステラは笑えなくなってしまっていた。
二人はテントで話した。
「ねぇ、イル君。私の正体を言っても一緒にいてくれる?」
イルマは黙った後に決意を決めて言った。
「テラさんの笑顔が好きで今まで一緒に来ました…。」
エクステラは落ち込んだ。その後にイルマは続けて言った。
「でも…、いつしか僕はテラさん自体が好きになってしまった。だから、たとえテラさんがどんなことになっても僕はついていきます!」
「ありがとう!」
その時にエクステラは笑った。確かに今までのような心を照らすような笑顔ではなく、かなり不器用な笑顔だった。でも、彼女は笑ってくれた。イルマはとても嬉しかった。
エクステラは言った。
「私の正体はね。人間とか生き物じゃないの。私はね、孤独じゃないけど孤独だったある女の子の喜びの感情なの。だから存在も喜びで形成されて、この体も人形のようなものなの。」
エクステラの発言を聞いたイルマは驚いたが、今までのことを考えると納得できた。
「僕はテラさんの笑顔、喜んでいる姿を愛していました。テラさん自身を愛していないんじゃないかって自分を責めていました。…でも、それってテラさんを愛していたんですね。俺…いいや、僕は最初からテラさんの全てを愛していたんですね。」
二人の決意は固まり、エクステラの笑顔を取り戻す作戦を立てた。
次の日、しばらく歩いていると先に森が見えた。砂漠にはふさわしくない森、これは魔導の森だ。そしてやはりあの気配があった。目の前の砂が盛り上がり、形を成していく。そしてあの声が響いた。
「はっはっは。お前を仕留めるためにこの辺の砂と一体化してやった。これでお前を飲み込んでやる。あっはっ…は?」
二人はすぐに行動を始めた。イルマはカバンから魔法陣の描かれた紙を取り出して、丸めて投げた。するとその紙から突風が吹き始めた。
「ふふ、魔法陣を爺さんから習っておいてよかった。」
砂で形成されている魔人は吹き飛んでしまうことを恐れ、岩のゴーレムとなった。
「さぁ、これで終わりだよ。」
そこにエクステラが短剣で攻撃をした。あまりにも早すぎる動きと剣幕は相手が気付く前にバラバラにしてしまった。
「ふぅ。お疲れ様♪イル君。」
そこにはテラさんがいた。いつものように自分に笑いかけてくれていた。二人の間には既に特別な繋がりが芽生えていた。二人は笑いあいながら森へ向かった。
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