第2幕

プロローグ


やっと左手足が慣れてきた頃、私は急に左目からかなりの痛みを感じた。恐らく力が暴走しているのだろうとお兄ちゃんとエクスバースちゃんは言う。エクスバースちゃん曰く、私の左目には測定しきれないほど強大な虚無の力が潜んでいるらしい。もし、完全に暴走したら、創造の力でも打ち消せないかもしれないらしい。最近、左目が痛むことが多い。もしかしたら…と思ったが、そんな怖い想像はすぐにやめ、いつもの生活に戻るのだった。



継承編 第1章

第1話 呪われた左目


未離はいつも通りに家事をしていた。その時、未離は急に意識が無くなった。その場にエクスバースが居合わせたので、どうにか処置はできた。しかし、あることをエクスバースは言った。

「そろそろ本当のことを言うべきか、オリジナルの左目は実は器化で変化したものでは無いんだ。オリジナルの体は初代の分身として造られたものだ。急に虚無の力と反応したため。初代がオリジナルに隠した力が解き放たれようとしている。」

それを聞いた有間は前の創造神から聞いた事件を思い返した。(あの兄妹の因果がまだ残っていたのか…)そう噛み締めながら、有間は研究室を出て行った。


第2話 対策案


有間、エクスバース、ミナは集まり考えた。未離をどうにかしなければ、未離だけでなく有間やこの空間にも影響してしまう。最悪、現世にも影響する可能性もある。エクスバースは言う。

「オリジナルには、元々無限に等しいレベルの力があった。そこに無理矢理流し込んだ力のせいで、使われていない力までもが活性化している。案としてはオリジナルの分身のようなものである私やエクステラに力を渡すか。オリジナル自身が分身を創るかだな。」

有間は悩んだ。そして、ミナが問う。

「確かにそれが一番だが、そもそもお前達、感情の具現化が力を受け取って大丈夫なのか、それと今の未離には分身を創ることは無理ではないのか。」

エクスバースは黙り込む。そう、自らだけが危険を犯そうとすることが図星なのである。そこで有間は言った。

「少々賭けになるが、俺と未離の力を行使して、娘のような存在を創ることが出来るかもしれない。」


第3話 賭け


有間の意見を聞いたエクスバースとミナは驚いた。そこでエクスバースは言う。

「有間がそれでいいならいいが。本当に可能なのか。」

有間は答える。

「あぁ、未離に溜まっている力に創造の力を加えれば可能だ。しかし、難点があって、未離の力を取りすぎると未離自身が危ない可能性がある。だから、これは賭けなんだ。」

エクスバースは問いかける。

「でも、どうやって溜まっている力を具現化するんだ。そこまでの知識は私にもないぞ。」

有間はそれを聞き考え始める。そして、エクスバースはニヤリと笑って続ける。

「だが…策がない訳でもない。」


第2章

第1話 償い


エクスバースは続ける。

「それはだな。私はただの楽の感情だ。元からの知識など少ない。ただ好奇心で調べただけだ。だが、この辺の能力を1番所持しているのは哀の感情だ。彼女は愛を求めて哀に逃げた後悔の感情でもある。有間、お前ならきっと仲間にできる。彼女がいる場所はな、お前ならきっとわかるはずだ。」

有間はそれを聞くと準備をし、現世へ向かった。有間は思った。(生活が変わる前の俺や未離が伝えられなかった感情か…そんな後悔があるならきっとあそこにいる。そんな彼女にそれを伝えるのが俺として出来る最大の償いだ。)そして有間は、生活が変わったあの場所…未離が突然消えたあの場所へ向かった。


第2話 愛と哀とI


有間が歩いていると、彼女を見つけた。壁を向いて座り込み泣いている。外見はやはり未離と同じ白髪だが、左側のみを縛っている。有間は声をかける。

「こんな所でなぜ泣く。」

彼女は答える。

「私が…何も出来なかったから…」

有間は続けて問う。

「なぜ何も出来なかった。」

彼女は答える。

「それは………私が弱虫だったから。」

有間は言う。

「じゃあ、もう一度やり直さないか。」

彼女は驚いたようで顔を上げる。そして、彼女は泣きながら有間に抱きつく。有間はなだめるように言う。

「もう俺は決めた、未離に気持ちは隠さないって。だから君にも気持ちは隠さない。君も隠さなくていいんだ。」

彼女は泣きながら言う。

「わ、私は…ずっとお兄様といたいです。そしてお兄様の役に立ちたいです。」

有間は答える。

「分かった、じゃあみんなで一緒に暮らそう。」

そして小声で続ける。

「今、未離がピンチなんだ。早速助けてくれないか。」

彼女は言う。

「は、はい!私、未離さんの哀の感情のミリ・エクルって言います。ぜひ一緒行かせて…」

彼女は言いかけて、下を向いた。どうやら恥ずかしがり屋なようだ、と有間は思いながらエクルを案内した。


第3章

第1話 エクルの想い


私は…ある日突然、本体から独立した。私なんて、いつも恥ずかしくて前に出ることは無いし、出てしまえば後悔や不安でいっぱいになってしまう。だから、独立して私は迷った。私なんて存在しなければ、本体もこんな苦労しなくて済んだはずじゃ…そう考えると、涙が止まらない。あぁ、だから私はダメなんだ。そう、これが哀の感情である私の存在、これは感情にとって外へのストッパーになってしまう要らない子。そんな私でも、いつかお兄様の役に立ちたいなぁ、でも私にはそんな才能なんてない。どうせ足を引っ張ってしまう。やはりいつも来てしまう、この場所。私がまだ本体にいた頃、最後にお兄様を見た場所。やっぱり私がいなければ、きっと気持ちを伝えられて、こんなことにはなってなかったはず。あぁ、私なんていなければ…そう思って泣いていると、後ろから懐かしい声が聞こえた。


第2話 後悔の記録


「戻ったぞ。」

有間は言った。エクスバースは言葉を返す。

「随分早かったな。ちゃんと連れてこられたか。」

有間は答える。

「あぁ。さ、こっちだぞ。」

エクルは入ろうとしない。エクルはこう言う。

「だ、だって、その子私あまり合わないもの。」

エクスバースはため息をつき言った。

「おいおい、元の感情に縛られてはいけないぞ。薄々気づいているだろうが、私達は感情から生まれたが、別にその感情に縛られる訳では無い。私達にも別の感情はあるだろ。元の感情が強いだけだ。」

エクルは答える。

「えぇ、でも…」

エクスバースはエクルの手を引き言う。

「さ、今はオリジナルのピンチなんだ。そうこうしてる余裕はない。」

3人は座り話し始める。エクスバースが言う。

「エクル、オリジナルを助けるために君の後悔の記録が欲しいんだ。」

エクルは答える。

「分かった。どういうのが欲しいの?」

エクスバースは答える。

「虚無の力の詳細についてだ。その辺のことは後悔の記録の方がよく分かるだろ。」

エクルは答える。

「うん、分かった。」

そう言った後、エクルの手元に大きな本が出現した。エクルは言う。

「お兄様は初めて見るかも知れませんが、これが後悔の記録…私と共にあって、今までの悲しいことや後悔が載っているの。えーっと、あった。虚無の力、特に左目についての記録。」

エクスバースは嬉しそうに答える。

「そうか、よくやった。」

エクルは有間の方を向き聞く。

「お兄様、私…役に立てましたか?」

有間は答える。

「あぁ、上出来だ。偉いぞ、エクル…」

有間はエクルの頭を撫でた。その時のエクルの表情は、本当に哀の感情とは思えないほど幸せそうだった。


第4章

第1話 作戦実行


エクスバースが有間の部屋へ駆けつける。そして息を切らしながら言う。

「分かったぞ…はぁはぁ…最適な…はぁはぁ…方法が!」

有間は言う。

「やれやれ、もうちょっと落ち着いて来れないのか…明らかに運動不足が感じ取られるような形で来なくていいんだぞ。」

エクスバースは座りながら答える。

「まぁ、今はピンチだし…こんな形でも許してくれ。それに分かった。未離の左目を安定させる方法がな。」

エクスバースは続ける。

「オリジナルの左目はものすごく強い虚無の力がある。これを使いこなせれば最高なんだが。どうにもオリジナルにはまだ早いようだ。と言うよりストレスが多いというか、愛が足りないと言うべきか。ともかく、有間が言った。娘のような存在を創ることは最適だ。そして、その子に虚無の女神を継がせるというか代理としてもらった方が都合がいい。だから、有間の案は最適だった。」

エクスバースは続ける。

「で、方法だが。オリジナルの力を使って、卵を創らせる。通常ならこれを孵化させることは無理だ。しかし、創造の力を使えば可能だ。これはなるべく2人の愛を注ぎ込んでくれ。エクルの存在を見たから分かるだろうが。私達は4人の感情として生まれた。愛に関心がない私、“愛を求めていた”エクステラ、愛を感じたことのない故に愛に恐怖したエクル。しかし、愛が偏っていた。楽の感情の私や喜の感情のエクステラは愛が足りていた…しかし、他の2人は求めたが愛を注がれずに離れてしまった。次に生まれる子はオリジナルの意思で産む。だからだ、だからこそ愛してやってくれ。」

少し違和感があったが、それを気に留めることなく有間は答える。

「あぁ、もう未離には想いを隠さないって決めた。」

そして、この作戦は始まった。


第2話 2人で育む新たな光


有間は作戦が行われる場所へ向かった。そこには既に未離が起きていた。未離の手には既に未離の力から創られた卵がある。エクスバース曰く、抽出ではなく複製に近いらしいが…まぁ、いいだろう。未離は言う。

「お兄ちゃん、エクスバースちゃんから聞いたよ。これから私たちの子供を創るんだよね。どんな子に育って欲しいかな、やっぱりお兄ちゃんみたいに優しい子がいいな。」

そんな未離の想像にため息をつきつつ笑いかける。そして有間は言う。

「未離が嬉しいなら俺も嬉しいよ。未離の笑顔を見るだけで俺も思わず笑ってしまう。だから、未離は笑ったままでいてくれ。」

未離は呆然としながら聞いていた。そして答える。

「うん、よく分かんないけどお兄ちゃんが嬉しそうなら私も嬉しいよ。」

そして、その卵に創造の力を注ぎ込み、未離より少し大きいが有間よりは小さいくらいの大きさになった。そして産まれる。すると中には未離よりは少し大人びている、まるであのまま成長が止まらず数年後の未離の姿のようだった。未離は嬉しそうに言う。

「この子の名前はね、もう考えてあるの。私とお兄ちゃんの名前の頭文字で虚無未愛(うつなみあ)って名前。ねぇ、いいでしょ?」

有間は答える。

「あぁ、お前がいいなら。」

未離から見たその表情は女神になる前私に任せっきりだった時の顔とは違い、本当に自分の意思で私に賛同しているようだった。それを思った未離は自然と笑顔になれた。あぁ、私は幸せだ。こんなにも純粋に愛されて…実は未愛という名前にはもう1つ意味がある。それは純粋な私は愛を求めていた。だから、この子にはそれを繰り返して欲しくない。だから、愛が足りないからもっと愛して欲しいって意味。そんなことを口に出さずに未離はクスッと笑った。


第3話 新たな女神


産まれたばかりの未愛は目を覚ました。その様子に目を輝かせながら見ている未離とそれを見て笑っている有間の姿はなぜかすごく安心だ、とエクスバースは思いながら見ていた。エクスバースが目をそらすと自分の横にはなぜかチアリーディングを1人でしているエクステラと物置に隠れるエクル、あまり関心がなさそうなミナがいた。こいつらもこいつらだなと思う。しかし、エクスバースはこれから退屈はしなさそうだなと内心笑っていた。

一方、未離達は出会いを果たしていた。目覚めた未愛は言う。

「貴方達が私のお母さんとお父さん?」

未離は急に未愛に抱きつきながら言う。

「そうだよ!私があなたのママでそこにいる私のお兄ちゃんがあなたのお父さんだよ!」

有間は内心、なぜママとお父さんという呼び方のチョイスなのかとツッコミを入れたくなったが未離がいいならそれでもいいか、と思い笑った。



エピローグ

ベビーシッター的なやつ


有間は大広間にみんなを集めた。1番最後にミナを連れてきたエクスバースは聞く。

「で、何の用なんだ。」

有間は答える。

「あぁ、それはだな。」

そう言って指を鳴らすと2人の少女が現れた。

「紹介しよう。俺の使いとして創ったクリーム・トワイライトとクレープ・トワイライトだ。」

2人の少女は前に出た。クリーム色の長髪の少女は言った。

「クリーム・トワイライトです!特技は武術!甘いもの、特に生クリームが大好きです!」

次に薄い黄色の短髪の少女が言う。

「クレープ・トワイライトです。特技は料理です。」

2人の自己紹介を聞き、エクスバースはまためんどくさいのが来たなぁと思いながら見ていた。有間は言う。

「俺だけじゃこの人数の養いは無理かと思ってな。まぁなんだ、ベビーシッター的なやつだ。」

また新しいメンバーが加わり、ますます賑やかになってきた虚無邸だった。



第2幕 外伝


「さぁて、できたぞ~。」

有間が一息つきながら満足げに言う。

そこにエクスバースがやって来た。そして疑問に思いながら問いかけた。

「何やってるんだ、こんな入り口で…。」

「あぁ、エクスバースか。クレープのためにキッチンと食事場を創った。これで食事面は大丈夫だな。」

「そういえば、クリームはいつもお前のもとで働いているが料理はできないのか?」

有間は悩んだ様子で答える。

「それなんだがな…。まぁ説明するか。実は完璧な一人にしようと思っていたが未離がなぁ…“お兄ちゃんのお手伝いさんを創るの?それなら完璧にしないでほしいな。私もお兄ちゃんの役に立ちたいもん!”って言って、仕方なく二人にしたんだよ。」

「へぇ、じゃあ料理できない私たちの為に料理人を作ってくれたのか。」

「そうだな。お前たちや未愛、それに俺もできないからな。」

そこへミナがやって来た。

「へぇ、飯が食えるようになるんだ。今は大丈夫か?」

「今はクレープが…」

そこへどこからか突然エクステラが現れた。

「任せてよ♪ね!」

さっさと二人は中へ入って行った。

「大丈夫か…あいつ。多分、私たちの料理が絶望的に不味いこと知らないよな…。」

「そうだな。一応運び出す用意しておくか…。」

しばらくしたが、一向に問題が起こらないので二人は中へ入った。そこには何も起こっていない様子のミナと笑顔でウキウキのエクステラがいた。呆然としたエクスバースが言った。

「えっ…。ミナ、大丈夫か?ついにおかしくなったか?」

ミナは様子がおかしい二人に疑問を浮かべながら問いかけた。

「は?お前ら何驚いているんだ?」

エクステラは答えた。

「仕方ないよ。ほら、2人の分♪」

とても驚いたがミナの様子を見た有間はエクステラの料理を口にした。

「エクスバース、本当に大丈夫だぞ。」

エクスバースは恐る恐る食べたが全く問題がなかった。

「エクステラ…。お前いつから料理なんて不可能なことができた?私たちの性質上不可能なはずだ。」

エクステラは不思議そうに答えた。

「ん?そういえばどうしてだろう。私もいつの間にかできてたような…。何か大切なことを忘れているような…。」

「そういえばお前過去に私の実験の失敗のせいでがらりと人柄が変わったことがあったな。その時の記憶もなかったみたいだからそれが原因か。」

有間とミナは疑問を浮かべた。そして有間が聞いた。

「そんなことがあったのか?」

「ああ、その時の記憶を戻すための研究をしているがあまり進展はないが…。ちなみに人柄が変わる前のエクステラは“お兄ちゃんに会いたい!お兄ちゃんと結婚したい!”なんてワーワー騒いでいたがな。まぁ、今でもそんなに変わらないが、私たちの性質がほとんどなくなっているみたいでな、私たちの兄への愛は絶対的なはずだがエクステラは変わった。あれからその性質が無くなっている気がする。」

「兄への愛…か。そういえば、エクスバースは俺に対する気持ちってあるのか?」

エクスバースは黙る。そしてエクステラが喋る。

「そうそう♪エクスバースちゃんはね、お兄ちゃんのことをね、いっつも心配して…モゴモゴ」

エクスバースは慌てて移動用の椅子からロボットアームを操作しエクステラの口をふさいでそのまま担いだ。

「じゃ、じゃあな!」

エクスバースはエクステラを抱えながら部屋を出た。

二人はその様子を唖然と見ていただけだった。

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