第29話 デート後

「じゃあまた明日なー」


「うん、圭介達も気を付けて」


 そう言って達也達ペアと俺達は駅の改札で別れを告げる。因みに達也と琴子ちゃんは無事カップル成立とあいなった。予定通り観覧車の中で告白し、しかも勢い余って、キスまでしたらしい。ん?なんでその事を知っているかって?残念ながら、目撃情報は瑞穂からで、俺がパパラッチよろしく決定的瞬間を取り押さえようとした所を、瑞穂に阻まれた。くっ、少なくても1週間分の昼飯位はたかれるネタだったのだが、結果的にはその瞬間を見る事すら叶わなかった。くそう……。


「先輩、私達はこの後どうしますか?」


「やけ酒いや祝い酒という気分だが、俺この後まだ用が有るんだよな」


「今一瞬、やけ酒って言いましたよねっ、どんだけパパラッチがしたかったんですか?はぁ、まあ良いです。で、用ってなんなんですか?」


 瑞穂は軽く俺をジト目で睨んだ後、一つ溜息を吐いて会話を続ける。あれそんなに呆れられちゃう事?俺は男子同士らしい爽やかなイジりをしたかっただけだよ?と白々しく思って見たりする。うん、もし逆の立場ならブン殴る自信がある、ああ健相手なら確実に殴るな。


「ああ、今日は奈々がバイトでラストまでだから、お迎えを強要されている。夜10時までだから、時間はあるが、流石に酒飲んでへべれけはキレられる自信があるな。えっ、思い返すとなんか理不尽じゃね!?」


「ああ成る程、ご馳走様です。もうどいつもこいつもイチャコラなんですね、死ねば良いのに」


 現実問題、俺が奈々とイチャコラするかと言えば、まあ全く無い訳では無いなと過去を思い返して反省する。まあでもそれは仕様がない。奈々の反応が初心すぎるのが問題なのだ。俺のS心が疼いてしまう。


「ははっ、瑞穂も彼氏の2、3人くらい作れば、イチャコラし放題だぞ?まあ俺は総司推しだがな」


「何なんですか、その圭介先輩の無駄な田中くん推しは?そんな事よりならご飯位は付き合って下さいね」


 おっふ、最早総司は撃墜すらされずにスルーとはっ!?うんうん、明日総司には缶コーヒー奢っちゃるか。いきなり意味もわからず缶コーヒーを奢られる総司も面白そうだ。


「ああ、じゃあちょっとは美味しい物でも食べに行くか。罰ゲームの意味も込めて瑞穂様を奢らせて頂きますので」


「ふむ良かろう、で、先輩、やっぱお寿司ですか?やっぱお寿司しかないですよね?しかも回らない奴!」


「アホかっ、高すぎるわっ!百歩譲って寿司は良いが、せめて回る奴にしろっ」


「えー、ならせめて料金均一じゃない奴が良いです。料金均一はお寿司とは認めません」


「こら、世間の料金均一の回転寿司屋に謝れっ、あれはあれで、リーズナブルさが売りで、俺の懐にも優しい良いお店なんだぞっ!……まあ今日はカラフルな色の皿を愛でたい気分ではあるがな」


 料金均一には料金均一の良さがある。うん、でも確かにネタのグレードはお皿の色がカラフルな方に軍配が上がる。


「なら決まりですね、ウニにいくらにトロに穴子、うーん楽しみです!」


「おい、今の言った奴、いくら以外全部一番高い皿じゃねーかっ!少しは女子らしくいかとかさばとか食べなさいっ」


「先輩それ一ミリも女子らしく無いんですけど?まっ、ほらほら行きましょう!」


 瑞穂はそう言って俺の手を引っ張って歩き出す。まあ仕方がない。俺も食べたいし、瑞穂も楽しそうにしているのなら良いだろう。罰ゲームの意味もあるからな。


「よしなら瑞穂は貝縛りなっ!」


「いやですー、高い皿縛りなら受け付けますー」


 そう言って俺達は実に下らない会話をしながら楽しく店へ向かうのであった。


 ◇


『ああ〜お腹一杯。それに楽しかった〜」


 私は今自宅に帰るべく、1人電車に揺られている。私も実は一人暮らし、厳密には高校の時の女子の先輩である伊東綾子とのシェアで2人暮らしをしている。元々その綾先輩を追って大学を選んだ事もあり、綾先輩のご両親と家の親が友人同士という事もあって、なら一緒に暮らせば、お互い安心という事になった。だから私にとっては同居している姉の様な存在であり、尊敬できる先輩でもあった。そしてもう一つ肩書を付け加えるのであれば、私の初恋の人の元彼女。

 結局、綾先輩のことを好きだった私は、初恋を直ぐに諦められた。むしろ末長く幸せになって欲しいくらいだった。でもそれは叶わなかった。初恋の人の浮気によって、その関係は終焉を迎えたからだ。因みに今の彼女は、別れた直後こそ塞ぎ込んでいたが、もうすっかり元気になっている。むしろ新しい彼氏も作り、リア充人生を謳歌している。まあ綾先輩は魅力的なのだから仕方が無い。仕方が無いのだが、それを見せつけられる私の身にもなって欲しい。


『でも今の彼氏さん、良い人だから今度こそそのまま幸せになって欲しいけどね』


 私は電車の窓から外を見てそんなことを思う。ああ、そう言えば今の彼氏さんと圭介先輩って、何処か似た雰囲気がある。余り移り気の無い、それでいて包容力がある感じ。見た目とか性格は全然違うけど、側にいると安心できる感じだ。そう考えると奈々さんが羨ましくなる。ああ、人のものを羨んでばかり。本当に巡り合わせが悪い。私はそんな自分に軽く自己嫌悪を感じる。巡り合わせでは無い。私が恋愛に対して臆病なだけなのだ。


 そして自分の家がある最寄り駅で降りて、改札を潜った所で綾先輩にSNSでメッセージを送る。すると返事が直ぐ帰ってきた。


「げっ」


 私はその返事を見て思わず変な声が出る。実は今家に彼氏が居るらしい。なのでもうちょっとだけ帰るのを遅らせてという内容。今時間は21時。正直遊び疲れたのもあって、早くシャワーでも浴びて、ベットにダイブしたい気分だったのだが、確実に機先を制された格好だ。


「はぁ、じゃあコンビニで雑誌でも買って、ファミレスで時間を潰そうかなぁ」


 こういう時は街中を彷徨くのは危ない。さっさと時間の潰せる店に入っちゃうに限る。流石に店の中だとよっぽどでも無い限り、変に声を掛けられたりはしない。私はそう意思決定すると綾先輩にメッセージを送り1時間後位に帰りますと伝える。先輩からは可愛らしいキャラクターが御免なさいと謝罪するスタンプが届く。私は思わず苦笑をした後、じゃあコンビニでも行くかと最寄りのコンビニに足を向けるのだった。


 ◇


 その後、コンビニを出て雑誌を買った後、予定通りファミレスで時間を潰す。今はお腹が一杯なのでドリンクバーだけを頼み、飲み物を用意した後、席に着き雑誌をひろげる。買った雑誌はファッション誌。不定期ではあるが時折買う雑誌だ。今回の特集は、『この夏、意中の彼を虜にする小悪魔コーデ!これで彼も貴方に首ったけ!』。私はその雑誌を見ながら思わず突っ込みを入れる。


『そもそも意中の人がいない子はどうすれば良いの?いや寧ろ有象無象が集まってくるんですけどっ!』


 コーデ自体は夏らしく少しだけ露出もあるでも全体的に可愛らしいコーデ。瑞穂自身はスタイルに自信もあるから同じ様な格好をした自分を想像すると似合う様な気もする。ただその持ち前のスタイルも強調されてしまう為、色んな意味で男子の視線を集めてしまうのだ。本当にそれが特集記事の様に意中の人なる人だけに見せるのなら、良いのだが、別に興味のない人の視線を集めても仕方が無い。


『あ、でも圭介先輩に見せるなら良いかも』


 とさっき迄一緒にいた男子の顔を思い出す。先輩はスケベな気持ちを隠さない。でも冗談半分で嫌らしさは感じない。むしろちょっとテレも入るので、私はしてやったりの気分になれるのが嬉しいのだ。だから私はその事を想像して、少しだけ楽しい気分になる。ただその時掛けられた声を聞いて、私の気分は最悪となる。


「あれ?瑞穂じゃん、こんな所で何をやってんの?」


 その声は懐かしい声。でも今となっては聞きたくなかった声。私の初恋の人の声であり、私が姉の様に慕う綾先輩の元カレ、高宮克彦がそこに居た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る