第28話 観覧車
その後達也が回復したのを見計らって、再び遊園地内を4人で回る。ただし今回はインターバルを設けつつ、のんびりと周り、今はベンチで達也と並んでお花を摘みに行った瑞穂達を待っている。
「しかし達也、お前、乗り物にホント弱いな」
「はは……、本当にごめん。こうして友達と遊園地とかきた事無かったから、僕も自分がこんなに弱いとは思わなかったよ。まあでも楽しかったけど」
「ははっ、まあそれは俺らのお陰と言うよりかは、隣にいてくれた誰かさんのお陰だと思うけどな」
そこで俺は揶揄うように、ニヤリと笑う。実際、2人の仲はそれ程良く、何処から見てもカップルにしか見えないだろう。
「うっ……、うん、やっぱそうなのかな。そうだよね。うん、僕は琴子ちゃんの事が好きみたいだ。まあ彼女が僕を好きかどうかは分からないけど」
「ん?なんだその鈍感系なラノベ主人公発言は?どう見ても相思相愛にしか見えないんだが?」
まあ達也は元々内気なタイプなので、自己否定的な感じなのだろうけど、俺にしてみれば、ネガティブすぎるとしか言いようがない。
「いや圭介はそう言うけど、琴子ちゃん可愛いんだよ?俺なんかに惚れる訳無いじゃないか?今こうして遊んでくれるのだって、友達として話が合うからであって、僕のことなんか男子としては見て無いんだと思うんだ」
「良くわからんが、重要なのは今日のデートを誘ったのは彼女で、お前は彼女に好意を持っている。可能性は十分じゃね?ああ、可愛い子は競争率が高いから、あっという間に他に取られるぞ?取られた時に指を加えて眺めてるだけで良いなら、達也、お前は魔法使い決定だな」
俺はそう言って達也の肩にポンッと手を置く。まあ俺的には結論、どっちでも良い。結局何処を目指すのか、そして何処に辿り着くのかは本人の選択だ。まあ今の達也に関して言えば、勿体ないとただ思うだけだが。
「うっ、け、圭介は本当にいけると思う?」
「知らんっ、ただ琴子ちゃんが可愛いと感じる気持ちの中に、彼女が自然な表情をしているからってのがあるなら、チャンスあんじゃね」
「琴子ちゃん……、自然な表情……」
うーん、俺的には今回大サービスだと思う。結局お互い何処まで素でいられるかって重要だと思う。それが魅力的だと思うのなら尚更だ。達也は俺の大ヒントを噛み締める様に押し黙る。まあ後はなる様になるしかないのだ。
すると琴子ちゃんと瑞穂がお花摘みから戻ってくる。俺は2人に向けて笑顔を見せて声をかける。
「まあボチボチ時間も良いだろうから、締めと行きますか?」
「あーそうですね。夜までいても良いんですけど、あんまり帰りが遅くなるのも大変ですもんね。で、締めは何を乗るんですか?」
「ならジェットコースター3連発……と言いたい所だけど、最後くらいはのんびりするか。アレなんかどうだ?」
ああ、本当はジェットコースター3連発で締めたかったが、達也が涙目で訴えて来るもんだから、致し方なく目の前の大きなアトラクションを指差す。
「良いですねー、もう夕方だから、眺めも良さそうですし。琴子と達也さんもそれで良いですか?」
俺の意見を受けて瑞穂が乗ってきて、達也と琴子に確認をとる。まあ文句は無いだろう。少なくてもジェットコースター3連発よりロマンチックな告白が期待できるからだ。そう俺が指差したのは観覧車。後は2人で頑張ってくれ。
◇
その後予定通り観覧車へと向かう。因みに観覧車は最大8名乗りらしいが、ここはあえてカップル同士で乗る事にする。因みに俺と瑞穂が先に乗り、達也達は俺らの後にゴンドラへと乗り込む。
「で、瑞穂諜報員、琴子ちゃんの様子はどうだったのかな?」
俺はトイレ、いやお花摘みの際の琴子ちゃんの状況が気になり、上官よろしく、瑞穂隊員に質問を投げかける。
「何ですかその諜報員って、ちょっと端役感、半端ないんですけどっ、ってそれって聞く意味有ります?」
「ふむ、と言うことはこれで晴れてカップル誕生って事だな?ふむ、それはめでたい。母さん、今日は赤飯だなっ!」
「いやその思いつきの役設定、やめて貰えませんか?ツッコムのも面倒臭いんですけど?でもまあ、圭介先輩の思惑通りだと思いますよ」
ふむ、ならこれからする事は一つだけだな。俺は徐にポケットからスマホを取り出すと、達也達のゴンドラにスマホを掲げて画面を見る。
「やや引き気味だが致し方ないか。もう少し近ければ決定的瞬間を画像に収められるんだが」
「先輩何してるんですか?まさか盗撮とかなら、殺しますよ」
「なっ、違うぞ瑞穂、誤解だっ、俺は仲睦まじい2人の記念撮え……いえ、何でもございません!」
絶対零度の瞳とはこの事を言うのかと思わず実感する。うん、奈々とはまた違った形で恐ろしい。何か社会的に死ぬみたいな感じだろうか。
「はあ、確かに私ではそんな気にならないかも知れませんが、一応密室で2人きりなんですけど?」
「2人きり……!?はっ、くっ、達也を揶揄う事で頭が一杯で、その事に思い至らなかったと……」
俺は思わず愕然とする。確かに大学で撃墜王などと揶揄される瑞穂と密室で2人きりの事実に思い至ら無かった。
「いやそこで唖然とされてもそれはそれで困るんですが……、で、先輩、どうします?甘い雰囲気でも醸し出してみます?」
「はっ、まさか盗撮……、はい冗談です、冗談っ!いやそんな目で蔑むな、美人局なんて疑ってないから……、それに冗談でも男を誘う様な事言ってはいけません!俺が狼なら食べちゃう所ですっ」
俺は下衆を見るようなドン引き瑞穂の視線に晒されて、慌てて軌道修正をする。まあ冗談はさておき、うん、冗談だよ!?、客観的に状況を把握する。
「フフフッ、先輩は赤ずきんちゃんを食べたいんですか?」
「はぁ、だからやめなさい。瑞穂は可愛いんだから、本当に勘違いする奴が現れるぞ。まあ俺ならその心配ないと思って言ってるんだろうけどな」
「はーい、まあヘタレの圭介先輩ならそうなりますよね。でも私は今日楽しかったですよ」
そう言って瑞穂は少し拗ねた後、フニャリと肩の力を抜いて、笑みを見せる。だから俺も同じ様に気を張らず笑顔を返す。
「んー、まあそれなら良かった。俺も楽しかったよ。瑞穂の様な可愛い女子とデート出来たんだからな。瑞穂の彼氏になる奴がマジで羨ましいよ」
「彼女持ちにそんな事言われても、嬉しくありませーん、ああ、私が興味を持つ男子って、なんで彼女持ちばっかなんだろう」
「ん?そうなのか?」
「そうですね、私の初恋の人は近所の幼馴染みのお兄さんで、私が恋心を抱いた時には彼女が居ました。まあその彼女さんとも仲良くなっちゃったので、あまりショックは大きく無かったんですが、気になる様な人は大抵彼女持ちなんです。巡り合わせが悪いのか、私の趣味が悪いのか」
まあ彼女がいる奴は女子の扱いが上手い奴も多いから、そう言う男子に目が向いてしまうのは仕様が無いのかもしれない。まあ、付き合う付き合わないは別にしてね。
「ふーん、瑞穂は好かれるより好きになりたいタイプか?好意のない相手を振り向かせるのって大変だぞ?」
「はは、そこまで執着出来ないから彼氏が居ないんですよ。こればかりは巡り合わせですから」
まあ偶々合う相手が側にいて、お互いフリーでいる事自体は偶然が重なっての代物かもしれない。後はその時踏み出せるか踏み出せないかだ。
「よしよし、瑞穂にも良い相手が現れる事を祈っているよ」
俺はそう言ってポンポンッとその頭を撫でる。すると瑞穂は頬を赤らめながらソッポを向き、文句を言う。
「むっ、その上から目線、ムカつきます」
「ああ、悪い悪い、こういうのってセクハラ扱いか」
「はぁ?今目線の話はしましたが、撫でる事に文句は言ってませんけど?むしろそっちは継続して、私を癒して下さい」
瑞穂はジト目を送りつつ、頭を撫でるのを強要してくる。こういうのは奈々で慣れているので、俺ははいはいと頭を撫でるのを継続する。まあこういう風に瑞穂を癒してやれる相手が、近いうちに現れると良いなぁと嬉しげに笑みを浮かべる瑞穂を見ながら、俺は観覧車が下に着くまで撫で続けるのであった。
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