第27話 恋愛観

「イヤホーーーッ」


 俺は両手を上げて満面の笑みを浮かべる。このお尻がフワッとする感じが堪らなく楽しい。あっという間に流れて行く風景と猛スピードにより煽ってくる風にワクワクしていると直ぐにゴールが来てしまう。


「あー楽しいっ、いやーいいストレス解消になる。なっ、瑞穂、もう一回行こう、もう一回」


 因みに今日のパートナーもいける口なので遠慮が要らない。とは言え、興奮する俺を尻目に呆れた顔を瑞穂は見せる。


「圭介先輩、流石に3連チャンはやり過ぎですよ。私は良いですが、ほら達也さんが……」


 俺は瑞穂が目線を送る方を見てみると、顔を真っ青にした達也が、琴子ちゃんに心配されている。


「あれ?琴子ちゃんは案外いける口だね?」


「あっ、はい。私は上に兄が2人いるので、遊園地とかは、どちらかと言うとこっちメインで乗ってたので、慣れてるんです」


 まあ兄ちゃん2人ならそうだろう。俺の家は妹1人だが、あいつも俺に付き合わされて、下手な男よりも三半規管が鍛えられている。


「とは言え、達也がこの調子なら一回休憩にするか。ああ、俺が飲み物でも買ってくるから、そこのベンチで待っててくれ」


「うう……っ、圭介すまん」


「まあ折角だから膝枕でもして貰え。じゃ、琴子ちゃん、介抱宜しく〜」


 俺の一言に琴子ちゃんは顔を赤くしながらも、はいと頷いてくれる。まあ達也はそれどころじゃ無さそうだから、サービスタイムを記憶できるかは微妙だが、良い思い出にはなるだろう。すると売店に向かう俺の後を瑞穂もついて来る。


「あれ?別に飲み物は袋にでも入れて貰うから、向こうで待ってても良いぞ?」


「いえ、流石にあの甘い空間の邪魔するのは、申し訳無いので」


 瑞穂が送った目線の先には、予定通り膝枕された達也の姿が見える。琴子ちゃんは顔を赤くしながらも言い付けを守っているみたいだ。


「なら、申し訳ないが付き合って貰うか」


「はい、そうさせて下さい。でも、圭介先輩も優しいですね」


 瑞穂はそう言うけとフワリと笑う。まあ優しいかどうかはアレだが、気を使ったのは事実で、ただそれを指摘されるのは少し恥ずかしい。


「まあ達也がヘタレだけに琴子ちゃんには積極的になって欲しいだけだ」


「ふふーん、まあそう言う事にしてあげますね」


 クッ、少し照れてしまっただけに、したり顔でそう言われると無性にイラッとくる。なので俺は話題を変えるべく、違う事を言って反撃にでる。


「あ、あー、まあこれで達也にも春が来たって事だな。因みに瑞穂さんや、お前さんの方には春は来ないのかい?」


「なんですかそのお爺さん口調。なんだか凄く苛立ちを覚えるんですけど。私に春なんてきません。そんな相手なんか居ないですから」


「ホホホッ、それは勿体ない。勿体ないですぞ、瑞穂どん。あんた位の別嬪さんなら引く手数多じゃろうて」


 なんだか瑞穂をいい感じでおちょくる事が出来て、俺は思わず調子に乗って爺さんモードを継続する。すると本当にイラッとしているようで、人を殺さんばかりの勢いでメンチを切る瑞穂さん。まあ元が可愛いので怖さは全く無いんですけどね。


「圭介先輩、今度それしたら今日のデートの事、奈々さんにある事ない事、むしろ拡大解釈で炎上するまで、無い事を吹き続けますよ」


「はい、申し訳有りません!以後気を付けます!」


 俺は完全に平身低頭で謝罪する。いや、べ、別に奈々が怖いわけではない、怖いわけでは無いんだからねっと意味なしツンデレを思い浮かべる。すると俺の平身低頭にフーッと大きい溜息を漏らし、瑞穂は少しだけ真面目な顔になる。


「先輩、恋愛って如何やって始めるのが正解なんですかねーっ」


「おっふ、いきなり重いテーマをぶっ込んできましたね。恋愛の始め方?恋だけで言うなら気がついたら落ちてるもんじゃね?」


 俺は思わず口にしてしまったが、思い返して随分と恥ずかしい台詞を喋ってしまった自分に動揺するが、瑞穂さんは意外にも真面目に受け止めているのか、それをネタに揶揄ってこようとはしてこない。


「確かに恋はそうかもですね。達也さん達見てもそんな感じかも。愛はもっと重い感じででももっと大切な感じですよねー。そう考えると私、恋は経験有るけど恋愛までは至ってないのかも知れないです。

 まして愛だけなんてそんな相手がいるのかな?」


 あらあら、思ったより重症だった。そんなものは愛が先もあれば恋が先もあるし、共に軽い場合もある。少なくても今俺が奈々に感じている感情は恋が2割、愛情3割で5割が友情だ。友達付き合いが長い分恋より愛に気持ちが変換されやすい気がする、よく分からんけど。


「なら一度誰かと付き合っちゃうのも手じゃねえか?個人的には総司あたりがオススメだぞ」


「えー、ないですね、ないない。遊びに行くくらいなら良いですけど、ドキドキとかキュンキュンとかの気配も無いですし」


 哀れ総司、知らない所で流れ弾で撃墜されたぞ。恐るべし撃墜王。俺は思わず心の中で総司に対して合掌する。


「ん〜、ならせめてどんな男子なら良いんだ?」


「そーですね、例えば圭介先輩なら付き合っても良い気がします」


「断るっ」


「はやっ、いくら何でも答え早すぎませんか?軽くショックなんですけどっ」


 瑞穂が少し食い気味に突っ込んできた所を俺はニヤリと笑みで交わす。


「フフッ、何故なら俺には奈々がいるからな。ただでさえ面倒臭い奈々の事を周囲に噂されているのに、この上瑞穂までなど耐えられんっ、マジ勘弁して下さい」


「しかも理由雑っ、素直に彼女がいるで良いじゃないですかっ」


 まあ確かに瑞穂の言う通り、彼女がいるでも良いのだが、一応偽の彼女である。素直に彼女と認めるのは負けた気がして、少し回答を捻ってしまう。


「まあ兎も角、俺は除外してくれ。因みに瑞穂はどんなタイプが好きなんだ?ほら、イケメンとかイケメンとか、やっぱイケメンとか有るだろう?」


「先輩なんかイケメンに恨みでも有るんですか?まあ、カッコいいに越したことは無いかも知れませんが、それは要素の一つで、別に必須条件じゃ無いですよ?」


 おっとついつい、イケメンに対する妬みが出てしまった。確かに絶対条件では無いのかも知れない。イケメンだからってモテると思うなよ、このやろう!


「なら趣味が合うとか、優しいとかそんな感じか?」


「んー、そーですねー?それも要素かも知れませんが、好きになる理由では無いかも知れません」


「瑞穂は理想が高いのか?」


「高く無いと思いますよ?圭介先輩でも良いと思う位ですから」


「なんだろう、今凄くディスられた気がする。うん、これは考えたら駄目な奴だ。で、男子に求めるもので一番大事なのは、何なんだ?」


 すると瑞穂は考え込む。そんなに難しい話では無いのだが、彼女は重く捉えたようだった。


「何なんでしょうねー、如何して私に告白してくる人は、告白出来るんでしょう?私の何が良いんでしょう?何処に恋したんでしょう?」


「微妙に悩んでる所の意図が違う気がするんだが、まあせいぜい悩め、若人よ。俺は影から見守ってるぞ!」


 うん、そういう悩みは本人にしか解決出来ない。なので俺は、深みにハマる前に匙を投げる。


「先輩、人に聞いておいてその反応は酷くないですか?そういう圭介先輩は奈々さんの何処に惹かれたんですか?」


 うーん、それは微妙に答え辛い。まあ奈々に全く惹かれていないかと言うと、そうでも無いので、答えは出来るが。ん、ならそれを言えば良いのか?


「顔……というのは、冗談ですよっ、はい、その汚物を見るような目は辞めてくださいねっ!?……はあ、本人にも言ったことないから、内緒だが、奈々はあれで真っ直ぐな奴だからな。俺は奈々のそういう真っ直ぐさがそのままでいて欲しいんだ。ちょっと烏滸がましいけど、それを守りたい的な感じだな」


 奈々とはこの偽の恋人の前からの付き合いで、その性格もよく分かっている。良い意味で純粋な奴だからこそ、良い奴と付き合って欲しいと思っている。それが自分なのかは分からんが、今は俺が守るで良いだろう。


「良いな〜、奈々さん。大事にされて。私にも圭介先輩みたいな人が現れないかな〜」


「いるだろう、それ位の奴なんて。俺的には総司がオススメだぞ」


「んー、やっぱ無いですねー。何処かにいい人いないかな〜」


 おっふ、またも総司は流れ弾で撃墜。俺は再び心の中で合掌するのであった。


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