第26話 三枝瑞穂はまだ気づかない

 自分が何故そんな事を言ったのか、自分でも良く分からない。特別何かして欲しい訳ではなく、かと言ってそれを圭介先輩の恋人である奈々さんに素直に権利を譲る気にもなれなかった。


「ふふ〜ん、何して貰いましょうか?」


 ちなみに圭介先輩は今私の隣で憮然とした表情を見せている。私は約束通りストライクを取ったが、圭介先輩はその事に動揺したのか、連続ストライクならず。しかも結構本数を残しての投げミスで、私も3投目は全部倒し切るところまでは行かず、結局優勝は逃してしまった。因みに優勝チームは健先輩のチームだ。それぞれの望みは、健先輩は彼女である真子さんの言いつけ通り最下位のチームが焼肉奢り。因みに最下位は、竜二先輩と真子さんのチームなので、真子さんは免除である。あ、竜二さん涙目、

 でも流石にこの人数で焼肉なんか言ったら、経済的に死ぬと竜二先輩が喚くので、優勝チームだけが奢られる事になったらしい。真里奈さんはめっちゃ不満げである。因みに琴子は達也さんの奢りでデートの約束。真里奈さんが意外と達也さんと親しげにしてたから、ちょっと焦っちゃったかな。指名された達也さんは顔を真っ赤にさせてテレている。何かお似合いのカップルである。


「で、圭介に何させるか決まったの?」


 おっと琴子達の微笑ましい姿を眺めてたら、真里奈さんが声を掛けてきた。圭介先輩は貴様余計な事を、とでも思っているのだろう。憎々しげに真里奈さんをみているが、真里奈さんはむしろそれが楽しいのか、ニヤニヤしてる。


「うーん、そうですね。どんな罰ゲームがいいと思います?」


「いや罰ゲーム前提って、おかしいだろっ」


「バンジーとか面白くない?」


「激辛麻婆豆腐にチャレンジとか?」


「絶叫マシン一択でしょ」


「お前ら人ごとだと思って無茶苦茶だなっ、おいっ」


 圭介先輩は突っ込み疲れたのか、ゼイゼイと息を切らしている。因みに上から順に真里奈さん、田中君、奈々さんの順で案出しをしている。流石にバンジーは何処で出来るのかも良く分からないし、激辛は私も辛いの苦手なので、遠慮したい。絶叫マシンは好きなのだが、圭介先輩も好きそうなので、そもそも罰ゲームにはならない気がする。ん?罰ゲームじゃなくても良いのかな?


「圭介先輩は絶叫マシンとか苦手ですか?」


「いや普通に5連チャンとかいける口だな。むしろ遊園地なんて、絶叫マシン乗りに行くようなもんだろ?因みにネズミの国はそういう意味では物足りない」


「うわぁ、圭介あんた今、世界中のネズミ好きを敵に回したわよ」


 そう言って奈々さんが呆れた表情を見せる。そういう私もあの手の可愛いは苦手だ。友人で大好きな子もいるが、会うたびに小物が増えていて軽く引くくらいである。なので罰ゲーム的にはそういうファンシーな世界に圭介先輩を連れて行くのは、ありなのだが私も遠慮したいので、それはパスだ。


「なら圭介先輩の罰ゲーム決まりました。恋人の奈々さんの提案でも有りますし、絶叫マシンのある遊園地でデートしましょう!」


「却下だ」


「ええっ、どうしてですか?」


「俺は彼女持ちだからな。彼女以外の女子とデートは流石にNGだ」


 そう言って圭介先輩はドヤ顔を見せる。因みに奈々さんはちょっと嬉しげだが、あのドヤ顔は裏がある。うん、むしろそのドヤ顔が怪しいと一目でわかる。


「圭介先輩、本心は?」


「いや奈々だけでも世間の風当たり強いのに、撃墜王までなんて、マジ勘弁して欲しい……あ」


「フフフッ、先輩慢心しましたね。本音ダダ漏れじゃないですか。それならこれで確定で。奈々さん、圭介先輩お借りしても良いでしょうか?」


 私は項垂れる圭介先輩を尻目に奈々さんへキチンと筋を通す。奈々さんも私が許可を取ろうと声をかけた事で、渋い笑みを零す。ただ直ぐに違う悪戯を思い付いたかのように、ニヤリとする。


「えーと瑞穂だっけ。仕様がないから1日圭介を貸してあげる。あーそうそう、圭介、これが浮気に入るかどうかは、貴方の心掛け次第なんだけど。もし浮気認定しちゃったら、大変な事になっちゃうんだけど?ねっ?」


「ちょっ、お前それガチな脅迫なんだけど!?て言うか、それ大変な事って何なの?身の危険しか感じないんだけど!?」


 そうして2人はワーワーと言い合いを始める。本当に仲がいいなぁ。圭介先輩は私とも仲良く接してくれるけど、奈々さんとは特に仲が良く感じれて、私の胸は少しモヤっとする。


『まあとにかくこれで圭介先輩と遊びに行く事決定。フフフッなんだか楽しみになってきちゃった』


 私はモヤッとする感情を楽しみで上書きをして、フフフッと笑みを浮かべるのであった。


 ◇


 そして次の週末、私は圭介先輩を伴って、遊園地に来ていた。そこにもうひとカップル、楽しげな会話をしている達也さんと琴子の姿があった。


「いや本当に君達、俺らと一緒で良かったの?」


 圭介先輩は少し呆れ気味に2人に言う。その意見には私も同意で、折角だから2人きりの方が楽しいと思うのだが、当人達は寧ろ2人きりだと困るとばかりに、首を縦に振る。


「いやカフェとかで話すとかなら2人きりでも大丈夫だけど、いきなり遊園地でデート何て言われても僕にはハードルが高くて」


「はい私も何となく勢いでデートの約束しちゃいましたけど、男子と2人きりで出かけるの初めてなので、出来れば徐々に慣れていければと……」


「えーと、君達中学生のカップルじゃ無いよね?遊園地なんて健全そのものの遊び先じゃないの?」


 確かに私も楽しいデート先だと思うが、緊張するところでは無いと思う。むしろ緊張するだけ勿体ない。あれ?私貧乏症?


「はいはい、圭介先輩もあまり2人を苛めないで下さい。人にはそれぞれペースがあるんです。誰もが圭介先輩みたいに爛れた交友関係を持っている訳では無いんですから」


「誰が爛れた交友関係だっ、まあそれならそれでダブルデートという事で楽しもう。ま、取り敢えず、絶叫マシン3連チャン位行っておくか?」


「いやまずは優しい乗り物からお願いします……」


すかさず達也さんが青い顔をして、それを拒否する。


「圭介先輩、初デートのカップルに絶叫マシン3連チャンとかって、鬼畜ですか?ほらまずはあそこら辺の緩めの奴から行きますよ」


 そう言って達也さん達をフォローしつつ、ちょっと悪戯心で自然に圭介先輩の手を取って、歩き出す。そしてチラッと圭介先輩の顔を見るが平常運転。まあ予想通りだったけどと、私は苦笑する。


「圭介先輩、そこは美少女と手を繋いで赤面する所じゃ無いんですか?」


「ああ、手を繋ぐだけで顔を赤くするのって、良いとこ高校位までだろ?大体美少女耐性は奈々で出来てる」


 うん、テレが一切ない。これはこれで少し負けた気になる。確かに奈々さんほど美人ではないかもだけど、これでも多少はモテる自負がある。なので武器を一つ使ってみる。


「ふふーん、そうですか。ならこれなら如何ですか?」


 今度は握ってる手を抱え込むようにしがみ付く。少し胸が当たって恥ずかしいけど、でもこれならばと先輩の顔を覗き込むが、そこにテレは一切無かった。


「ご馳走様でした。良い思いをさせて頂きました」


「違うっ、求めているリアクション違うっ」


 私は思わずノータイムでツッコミを入れてしまう。圭介先輩はそんな私を楽しそうに笑い、一言言う。


「いや本当に堪能させて貰った。マジ感謝だな」


「くっ」


 私は手を抱えるのをやめて、圭介先輩にジト目を送る。むしろ私の方が顔が赤らむのを感じる。でも繋いだ手は離さない。折角のデートなのだ。恋人気分位味わいたいのだ。


「ははっ、まあそういうサービスは本当に好きな奴に取っておけ。気分だけならこれで充分だろ?ああそうそう、あっちを見てみろ」


 圭介先輩は繋いだ手を掲げた後、目線だけを私の後ろに向ける。そこには手を繋いでお互い顔を赤くした達也さんと琴子の姿があった。


「はは……、確かに。ああゆうのが、正しいのかも知れませんね。私が間違っていました」


 私は素直に反省する。そしてああいうのをいつ無くしてしまったんだろうと、思い悩むのであった。



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