第25話 第一回チキチキボーリング大会②

 さてこのボーリング大会、2つのレーンに5組のチームが組んで行われる。第一レーンに真里奈、達也ペア、竜二、真子ペア、健、琴子ペアの3組がおり、第二レーンには俺と三枝さんペアと奈々、総司ペアが入っている。そしてそれぞれが交互に玉を投げる形で行われ、力のある男子の個人技で大きな差が付かないように配慮されている。


「あちゃー、ごめん総司君、両脇が残っちゃった」


 そう言って総司に謝罪をする奈々。奈々は非力なので、コントロールこそ悪くないが、当たりどころによって、倒せる時とそうで無い時の差が激しい。


「大丈夫っす。何とか片方だけでも倒しますから。次のターンで巻き返しましょう」


 そして総司は有言実行で、ピンの多い方の片側をきっちり倒して、奈々とハイタッチ。総司は奈々とハイタッチ出来る事が至福なのか、コントロール重視で必ず結果を残している。お陰で2人のスコアはいい感じに纏まっている。


「キャーッ、やった、せ、先輩っストライクですよっ」


 そう言ってはしゃいで戻ってくる三枝さんが大きい果実を上下に揺らし、ピョンピョン跳ねながら戻ってくる。俺はそれにハイタッチで答えて、よしよしとその頭を撫でる。


「でかしたっ、瑞穂、えらい、天才っ」


「えへへーっ」


 俺は掛け声こそ雑だが、褒める気持ちは本心なので、三枝さんも素直に嬉しそうに頭を撫でられる。


「ぐぬぬ、圭介っ、私もストライク取ったら、それやってっ」


「圭介さん、流石、っぱねえっす」


 羨ましそうに唸る奈々はそう叫び、総司は総司で何故か感動している。いや君たち、自分達のことに集中しようね。そして奈々、睨むな、怖い、怖いから。


「ふふーん、先輩、次期待してますからね」


「おう、任せろ、ダブル狙っちゃる。そしたら瑞穂はターキーな」


「はい、2人でぶっちぎり優勝狙いましょう!」


 因みに場の雰囲気も有るのだが、相手は後輩という事もあり、自然と名前呼びに移行している。まあ三枝さんって言いづらいし、気にもしてない様なので、面倒臭いからそのまま継続中だ。


 因みに第一レーンも拮抗している。健は予想通りパワーボーラーで、投げるたびに大音量を響かせる。琴子ちゃんもそこそこ倒せるので、連続ストライクとかは無いが、スペアできっちりとスコアを刻む。竜二、真子ペアは、真子ちゃんが意外に上手で、竜二のポカもきっちりフォローし、真里奈は健に劣らないパワーボーラーで、何であんなにボールが曲がるのと思えるくらい、プロボーラーの様な迫力である。


「なあ、真里奈って何者?」


 俺は真里奈の圧巻なパフォーマンスに、そのパートナー役の達也に聞いてみる。達也も苦笑いを浮かべて、さっき聞いたんだけどと前置きをしながら。答えてくれる。


「なんか親戚の人にプロがいるみたいで、その人に教わってたんだって、ボーリング。今日は遊びだから持ってきてないけど、マイボールも持ってるらしいよ」


 おっふ、ガチな人でした。そして戻ってきた真里奈に達也はハイタッチ。あれ、さっきまでめっちゃびびっていた達也が案外真里奈と打ち解けている。


「達也の所は思ったより上手くやってるな、最初ペア組んだ時は死にそうな顔してた癖に」


「あはは……、佐々木さん、思ったより気さくな人で助かったと言うか、サバサバしてるからそこまで緊張しないで済んでいる」


 達也は少し安堵した表情で、近くにやってきた真里奈をみる。うん、絵面だけで見れば、隠キャに絡むギャルなんだが、思ったより相性も悪く無い様だ。するとこっちを見て真里奈が話しかけてくる。


「ふふーん、この調子なら私と達也のペアが優勝かもな。優勝したら何をして貰おうかな」


「ふん、まだ序盤でウチはストライクも取れている。勝負はこれからだぜっ」


 そして睨みあって火花を散らす俺と真里奈。そして他のペアも虎視眈々と上位を狙っており、序盤戦はまさに群雄割拠の様相を呈していた。


 ◇


 そしてボーリング大会も後半戦。ここに至ってスコアにやや開きが出ていた。結局はストライクが取れるチームが上位に来ており、現在TOPは達也、真里奈ペア、それを俺と健のペアが追っており、奈々と竜二のペアは既に優勝には手が届かない状況だった。


「圭介、優勝よっ、そして私の言う事を聞きなさいっ」


「健、優勝したら焼肉、焼肉を最下位に奢らせるのよっ。因みに私が最下位なら免除させるのよっ」


 と俺と健のそれぞれのパートナーが自分勝手な声援を送ってくる。特に奈々、何故に俺が優勝したらお前の言うことを聞かなきゃならない。最早意味がわからんぞ、と俺は奈々にジト目を送る。因みに今は各ペア最終ゲームでストライク、スペアが出れば3回目が投げられる状況だ。そしてそれぞれの一投目、達也、琴子、瑞穂の順番で投げる事になっている。


 まず達也。此処まで達也はストライクがない。ただそれなりの本数は倒せており、次にパワーボーラーの真里奈が控えており、スペアは堅い所である。ただしここで俺と健は一計を案じる。俺は健に目配せし、健は琴子ちゃんにボソボソと耳打ちをする。


 そして玉を投げる前の集中している時にその爆弾を投下する。


「達也さ〜ん、頑張ってーっ、大好き〜」


 それは琴子ちゃんから発せられた応援メッセージ。琴子ちゃんは顔赤くしながらも、勝負の為に黄色い声援を送ってくれた。そしてその声援を受けた達也はモロに動揺する。真っ赤になって動揺を引きずったまま玉を投げると見事ガーターへと引きずり込まれる。


「「よっしゃあ」」


 思わず声を上げたのは、俺と健。これで互いに優勝の芽が出てきた事で、思わず声が出てしまったのだ。そして琴子ちゃんとハイタッチ。因みに琴子ちゃんは少し申し訳なさそうな表情を見せるが、それでもハイタッチには応じてくれる。一方、怒りが収まらないのが真里奈だ。当然、俺らに文句を言ってくる。


「ちょっとあんたら卑怯よっ、琴子もそんな奴らの口車に乗って、ずるいと思わないの?」


「いや、単に琴子ちゃんに応援して貰っただけだぞ?何が一体卑怯なんだ?なあ健」


「そうだな、むしろやる気が出るならわかるが、動揺するなんて、意味がわからんぞ?」


 悪びれない俺たちに対し、真里奈はギロリと目を向ける。いや、本当に普通の女子、そんな目しないからね。マジ怖いんだけど!?⁉︎俺は半ば戦々恐々としながらも勇気を振り絞る。


「まあ、これで勝負は五分五分だ。えーと次は琴子ちゃんの番か」


 琴子ちゃんを見ると案の定、申し訳なさと緊張でガチガチである。クククッ、健には言っていなかったが此処までが俺の計算通り。要は琴子ちゃんに達也を弄る事をけしかけて、琴子ちゃんは琴子ちゃんで、同じ展開に持ち込もうと言うのだ。だから俺は達也の耳元でボソッと呟く。


「こ、琴子ちゃん、だ、だいしゅきれす。がんばーーーっ」


 あっ噛んだ。事もあろうか、達也の野郎この大事な局面で噛みやがったっ。すると琴子ちゃんはそんな達也を見て、フフフと笑う。そしてそのまま、肩の力が抜けた様に軽い足取りで玉を投げる。ガシャンという気持ち良い音と共に全部のピンが倒れたかに見えたが、惜しい、はじのピンが一つだけ残る。


「あ〜ん、あと一本っ」


 琴子ちゃんは悔しそうな顔をしながらも、それでも満足そうな笑みを見せる。


「OKっ、あれなら俺がスペアを取るから任せておけ」


 健は戻ってきた琴子ちゃんの頭をポンポンと撫でながら、俺に向けてニヤリとする。因みに琴子ちゃんはそんな健に顔を赤くさせ、達也はそんな琴子ちゃんを見て、涙目だったりする。健は完全に勝負事に集中しており、そんな2人には目も向けていないのだが、達也も不憫な奴である。


「あっじゃあ次は私の番ですね」


 そこで満をじして登場したのが、我がパートナー瑞穂。俺は過度に緊張を煽る様な事のない様、注意して声援を送る。


「瑞穂、ガーターでなければ、俺が何とかするっ、頑張れ!」


「勿論、圭介先輩の事は信頼してますので、後は任せますが、どうせならこう言って欲しいですね」


 そこで瑞穂は小悪魔的な笑みを見せる。俺はその笑みに何故か奈々が偽の恋人を提案してきた時に様な嫌な予感を感じる。


「あまり聞きたくないけど、一応何と言って欲しいのか、聞いておく」


「折角ですから、此処でストライクを決めたら何でも一つ言う事を聞いてやる、とか言って欲しいんですけど?」


「断るっ!嫌な予感しかしないっ」


「ええーっ、私すごくやる気無くしちゃったんですけど。ああもうどうでも良くなって、ガーター出したくなってきた」


 事もあろうかとんでもない事を言い出す瑞穂。健や真里奈はそうだそうだ、ガーターだなどとほざいている。優勝にそこまで魅力を感じているわけでは無いが、コイツらに負けるのは腹が立つ。


「くっ、あーもう、どうでも良いっ、その代わりストライク以外は認めんぞ、それで良ければ、言う事一つ聞いてやるっ」


「キャーッ、圭介先輩素敵っ!俄然やる気出てきました!」


 結局はこういうのはノリである。場の雰囲気というのもあるので、俺は渋々了承する。すると瑞穂は驚きの集中力を見せて、目の前のピンを睨みつける。ああ、アカン、これ早まったかもと内心思った時には時既に遅し。綺麗なフォームから放たれた玉はピンの真ん中付近に一直線、


 ガシャーンッ


 大音量と共に全てのピンが薙ぎ倒されて、瑞穂以外の人間が全て唖然とする。そして彼女はニッコリと微笑んで、一言言う。


「先輩、お約束のストライクです。よろしくお願いしますね!」


「おっふっ」


 変な声が漏れ出た俺は、勝利に近づいた喜びより先に、唯々面倒くささを感じていた。


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